第3承 第10和【戦闘 野槌】
富士の樹海は、夜の闇と溶け合うように沈黙していた。
風はない。それなのに、枝葉が擦れる音がする。
――呼んでいる。
――誰が?
神承者たちは森の入口に立ち尽くしていた。
悠真、蒼真、レイ、源蔵、LUNA、虎永、そして海里。
全員が気づいていた。
ここはただの森ではない。
人の未練、怨念、願い、後悔――
すべてをかき集めて形にしてしまう異界。
イメージBGM:
『あの頃へ / HIROMI & 小柳ゆき』
(“イメージとして推奨される楽曲であり、作中使用はありません”)
音が聞こえる。
胸の奥をえぐるような旋律が、樹海の奥から響いていた。
■悠真 ― 任務の真実と仲間の死
「ここに入れば、おそらく戻れないかもしれない」
海里が呟くと、悠真は静かに前へ歩み出た。
「でも、行かなきゃ。俺には……伝えなきゃいけないことがあるんだ」
霧が足元を絡み取る。
その瞬間、悠真の前にひとりの男の影が立った。
「……久しぶりだな、悠真」
それは、自衛隊時代に共に任務にあたり、生き残れなかった仲間だった。
悠真の呼吸が止まる。
「お前……なんで……」
仲間は微笑んだ。
その笑顔は、最期に悠真の手の中で息絶えたときと同じだった。
――あの日。
銃声と爆音の中、仲間たちは次々と倒れた。
血の匂い、鉄の味。
「日本を頼む」
「家族を頼む」
「代わりに生きてくれ」
任務とは、
国を守ることではなく――仲間たちの“願い”を継ぐことだった。
「悠真。お前はまだ、あの日に取り残されたままだろ」
幻の仲間が近づく。
だが、影が差した。
仲間の片目が黒く染まり、口が裂ける。
「さあ…今度はお前の番だ。ここで終われ」
悠真は悟った。
これは野槌が作った“偽りの仲間”だ。
そのとき、蒼真が叫んだ。
「悠真!!本物の仲間は――そんな顔を絶対にしない!!」
目の奥に浮かんだのは、火炎の中で笑っていた“本物の仲間”の顔。
悠真は涙を拭い、拳を握った。
「……ありがとう。俺は、生きて託されてる」
幻影を拳で砕く。 悠真の仲間の幻影が消えたあと、美桜はしばらくその場に立ち尽くしていた。湿った冷気の中、胸だけが熱く、呼吸が浅くなる。
その時だった。
木々の間から、柔らかな足音。
――ありえない。
美桜は、そっと息を呑んだ。
月明かりに浮かび上がったのは、
夫、悠真が生きていることを国家に隠され、死亡を伝えられ、絶望になって、幼き未望を連れて、心中しようと森の中で死に場所を探していた美桜そのものであった。野槌の幻想に取り込まれ、美桜は自分そのものに取り込まれようとしていた。
彼女は美桜に向け、ゆっくり言葉を発する。
「待て。美桜。俺は死んでいない。ここにいる。」
夫の悠真が渾身の力で美桜と幻の未希を抱きしめる。
美桜は、我に返った。「美桜、未希こんなに大きくなったのか、本当可愛いお姫様だ」
夫の悠真が続ける。
「すまなかった、俺が生きていることがわかったらお前たちに危害が加わると知っていたから」
お前の命は、お前だけのものじゃない。俺たち家族のものだから死なさないよ。」
幻体の美桜と、未希は悠真の腕の中から消去していった。
蒼真 ― 村を救えなかった罪
樹海の中心へ進むと、蒼真の周囲に炎の光が灯った。
「ここは……俺の村?」
焼け崩れた家。
倒れた村人の影。
あの日、蒼真がまだ旅をしていた頃、
村は襲撃を受け、彼は戻った時にはすべてが遅かった。
「蒼真……どうして助けてくれなかったの?」
幼い子どもの声が背中から響く。
振り返ると、焼け跡の中で手を差し伸べる“幻の村人たち”。
蒼真は震えた。
「違う……俺は、戻ろうとした。だけど……」
「言い訳はいらないよ。あなたは、僕たちを見捨てた」
村人たちの顔が溶け、骨がむき出しになり、黒い液が滴る。
蒼真が膝をつこうとした瞬間、
海里が叫んだ。
「蒼真!!村の皆はそんなこと言わない!!
あなたが戻ろうと走り続けた人だって、私は知ってる!!」
蒼真の涙が落ちる。
幻の村人たちは、静かに消えた。
蒼真は立ち上がり、拳を握った。
「ありがとう……海里。もう、背負うだけじゃ終わらせない」




