第3承 第2和【神承】
リーダーの短い声が響いた。
「──地面を見ろ。」
海里は思わず足元へ視線を落とした。
そこには、
白い石盤の上に自分の名前が浮かび上がっていた。
まるで最初から刻まれていたかのように。
「そこに……立てってこと、なの?」
自分に言い聞かせるように呟き、
海里はゆっくりと一歩踏み出した。
その瞬間。
地面が光を放った。
海里の身体を中心に、円状の紋様が走り、
まるで生きているかのように広がっていく。
「え……な、なにこれ……っ」
逃げようとした足が動かない。
光が海里の足首を“掴む”ように絡みつき──
下降ではなく、上昇した。
透明なカプセルが、まるで空から落ちてくるように形成され、
海里の周囲を完全に包み込んだ。
「っ……閉じ込められ──」
音が消えた。
世界が水中のように歪む。
呼吸の音だけが広がる、密閉された空間。
次の瞬間。
声が降りてきた。
──フッ……まさか、女の子がおれの神承者とはな。
海里ははっと顔を上げた。
声は耳元でも、頭の中でもない。
空間そのものが喋っているようだった。
「……誰……?」
──スサノオ。
荒ぶる海の神。
そして……そなたの“主”となる存在だ。
海里の背筋が震えた。
神、だと──?
スサノオの声は豪快で、力強く、どこか優しく響く。
──よく来たな、海里。
そなたの心……弱い部分も、強い部分も、すべて視える。
泣きたい時もあったろう。
怖い時もあったろう。
それでもここに立った。
……誇れ。
海里は胸の奥が熱くなり、知らず涙が浮かんだ。
「……そんな……私なんて……」
──そなたでいいのだ。
そなた“だから”選んだ。
声が優しく笑う。
──では、儀式を始めよう。
カプセルの壁が淡く光り、
左右の壁から、金属の注射器のような装置がせり出してきた。
海里は喉を詰まらせ、後ずさろうとした。
「ま、待って──なにをするの!?」
──恐れるな。
そなたに“力”を授ける。
装置の先端に、
鮮やかな紫色の液体がゆらりと揺れた。
不気味で、神々しくて、
見ているだけで魂を吸い込まれそうな発光。
カプセル内の束縛が強くなり、海里の身体は動かない。
──スサノオの“血”だ。
これを受け入れれば、そなたは二度と普通の人間には戻れぬ。
海里の呼吸が乱れる。
──それでも、望むか?
短い沈黙。
海里は涙を拭った。
震える声で、でも確かに呟いた。
「……助けたい。
地上の人を。
みんなを……助けたい。」
それを聞いて、スサノオは満足げに笑った。
──よかろう。
次の瞬間、
装置が海里の両耳の後ろにピタリと触れ──
紫の“神の血”が注入された。
「──っ!!」
脳が焼けつくような衝撃。
視界が白い閃光に染まり、
胸が裂けるほどの痛みと、
全身に突き刺さる雷のような灼熱。
叫ぼうとしても、声が出ない。
世界も、時間も、身体も消えていく。
──受け取れ。
そなたが選び、そなたを選んだ“力”だ。
海里の瞳が光り始める。
紫電が走り、髪が揺れ、
肌に雷の紋様が浮かんでは消えた。
最後にスサノオの声だけが残る。
──よく耐えたな、海里。
これより、そなたは“スサノオの神承者”だ。
海里はそのまま意識を失い、静かに倒れ込んだ。
カプセルがゆっくりと降下し、
高天原の床へ彼女を横たえた──




