第3承 第1和【高天原】
高天原──成層圏の果てに浮かぶ、
黄金でも大理石でもなく、誰かの夢が凝縮したような“空の要塞”。
神承者たちは言葉もなく立ち尽くした。
その時、鷹宮総理から通信が入る。
「地上はいま、怪物に蹂躙されています。そしてその怪物たちは高天原を目指している……。
ここが、あなたたちにしか踏み込めない聖域。
私たちは何が起きるのか、もう把握できません。
──どうすればいいかは、あなたたち自身が一番わかっているはず。
どうか……世界を頼みます。」
沈黙。
そして突然、場の空気を破るようにレイが口を開いた。
「おい坊主、そんな体で戦えるのか?
爺さんは特攻隊の生き残りだって? 無理だろ、あの歳で。
総理の弟はどうせ最後まで生き残るタイプだよな。
歌姫はファンだったけど……思ったより普通だな。
金メダリストは金持ちなんだろ?
触るんじゃねえよ、おかま野郎。
あ、そこの女子高生、可愛いね。生き残ったら付き合っ──」
拳が走った。
一撃でレイが地面に沈む。
殴ったのは、無期懲役の“犯罪者”と呼ばれた男だった。
「……言いたいことは、それだけか。」
静かで低い声。
だがその声には、誰よりも深い怒りと、どこか“哀しみ”の影が滲んでいた。
「今、俺たちがやることは一つだけだ。
──地上の人間を助ける。それだけだ。」
レイが睨みつけ、唸るように立ち上がる。
「てめぇ犯罪者だろ。命令なんか──」
男は再び蹴りを入れた。
「リーダーは俺だ。
……犯罪者の俺だが、この戦いの間だけでいい。信じてほしい。」
その瞬間。
美桜が小さく息をのむ。
彼女の目は、男の背中を見つめていた。
恐怖でも、嫌悪でもない。
むしろ──胸の奥を強く揺さぶられるような感覚。
(この人……前にも──)
だが思い出せない。胸の奥に引っかかったまま。
天城源蔵が杖をついて前に出る。
「私は日本の裏側を支えてきた男だ。
だが、この男のことは忘れていない。
かつて日本を救ったことのある男だ。
……皆に頼む。この天城源蔵が保証する。」
虎永が小さな拳を握りしめる。
「じいちゃん……俺も信じる。この人、悪いやつじゃない。目を見ればわかる。」
美桜がゆっくりと前に出た。
彼女の手はまだ震えている。
でも、その目はまっすぐ男を見ていた。
「……私も信じます。
転送の時、私と……私の子を、ずっとかばってくれたから。」
美桜の肩に置かれたリュックの中には、
まだ小さな娘の“未希”が眠るための、わずかな着替えが入っていた。
男は視線をそらし、ひどく不器用に言った。
「勝手に……体が動いただけだ。」
その横顔には、
“罪人”とは思えないほどの、深い傷が刻まれていた。
レイは顔をそむけたまま言う。
「俺はまだ納得してねえけどな……。」
蒼真が手を上げる。
「それぞれ冷静になろう。
私が副リーダーになる。もし問題が起きれば、私が彼を討つ。」
ジェイデンが親指を立てる。
「オールライト。」
歌姫LUNAも微笑む。
「賛成よ。」
そして転送の衝撃で化粧がとれ、ただのおっさんに戻ったバニーが
「ちょっと見ないでよ……」と顔を覆う中──
海里は胸を押さえていた。
「……この人……」
犯罪者の男を見た瞬間、
言葉にできない“なにか”が胸の奥を掴んで離さなかった。




