第2承 第9和 【鎮魂の反撃】
富士の樹海。
風も届かぬ静寂の森で、転送中の妨害で激しい痛みと呼吸できない状況にいる神承者たちの耳に──
自分の声が、返ってきた。
『……たすけて……』
『……ここにいる……おまえの“影”だ……』
木々の間から、白い霧が渦巻くように形を変え、
人影となって揺れている。
“山彦”。
本来ただの反響として語られる存在が、異形体として完全覚醒していた。
総理の側にいた少女・**糸**は、そっと目を閉じ、霊視を始める。
樹海に根付く霊気が糸の瞳に吸い込まれ、
山彦の霧に走る一筋の光が見えた。
「……見えた……あれは……」
「山彦の本体は“声”じゃない……中心に、黒い核がある。
あれを壊せば……!」
霧の奥、わずかに黒く脈打つ点──
それが山彦の“声を奪う魂核”だった。
糸はその情報を即座に
MIKADO副司令・コンピューターの**富嶽**へ念話で送る。
糸「富嶽さん! 弱点……わかりました! 核を……!」
富嶽『核への攻撃……!? だが、奴は霧状で姿を変え続けている。
通常の攻撃は……届かん!まして核を爆発させることは自滅となる』
富嶽の声は苦悩に満ちていた。
海が低く鳴動する。
山彦の霧が近づいてくる。
転送陣の光が、空間を焦がすように裂け始めた。
転送フィールドが揺れ、光の壁に亀裂が走る。
「まずい……! 山彦が……光を喰って歪ませてる!」
総理の叫びと同時に、糸の髪が吹き上がる。
『……おまえの声……もらおうか……』
時間がない。
富嶽の声が焦りで震える。
富嶽『我々には……届かん!!』
その時である。MIKADOシステム中央塔の紋章が突然光り始めた。
「……MIKADOが……自律起動!?」
樹海に、機械とは思えぬ重低音が鳴り響く。
MIKADOシステム起動《──検索開始。
対象:山彦。
退治法:古代データより照合──》
みるみるうちに仮想空間が開き、
富嶽の視界へ膨大な古史データが流れ込む。
MIKADO《回答。
山彦を倒すには、三種の神器の一つ──
**八尺瓊勾玉**が必要》
全員の動きが止まった。
八尺瓊勾玉。
それは皇室が代々守り続けてきた、
“魂の浄化”を司る神器。
富嶽「……しかし! 勾玉は通常、皇居の宮中に……」
MIKADO司令部の奥、
「特別室」と呼ばれていた場所の扉が静かに開いた。
足音がひとつ。
皆が息を呑んだ。
そこに立っていたのは──
天皇陛下 その人だった。
白い装束の端が、静かに揺れている。
室内の全員が一斉に膝をついた。
陛下は、総理へ歩み寄りながら静かに言葉を紡がれた。
「……この事態を、すでに察しておりました。
八尺瓊勾玉は……宮中に眠るだけの神器ではありません。」
ゆっくりと袖を広げる。
そこには、
古代の組紐で編まれた“木箱”。
淡く赤い光が、木の隙間から漏れていた。
「これは……万が一のため、私が持って参りました。」
陛下は両手で木箱を抱き、総理の前で足を止められた。
「鷹宮総理大臣。
この国を守る者として……
そして、高天原へ挑む者たちの総指揮官として……
これを託します。」
静かに差し出された箱。
鷹宮の手が震えながら伸びる。
木箱が澪の手に渡った瞬間──
樹海全体が震えた。
八尺瓊勾玉が、
主を得たことで目を覚ましたのだ。
MIKADO《神器とのリンクを確認。
山彦の魂核の破壊……可能。》
総理は箱を抱きしめ、小さく頷いた。
「……行くわ。
日本の、そして全ての魂を守るために。」
乃木統合幕僚長は、「総理あなたは総司令です。ここにいてください。私が行きます。」
「いいえ、私が行きます。糸、、あなたもお願い。あなたの力で山彦を見つけて」
「総理、、、。」つぶやく幕僚長の肩に陛下がそっと手を置いた。
鷹宮は、糸とともにヘリに登場し、樹海へと飛びだって行った。 基地の隊員たちは口々に「頼みます。倒してください。」立ち上がって敬礼にて見送った。
近づいています。糸の言葉に鷹宮は木箱の組紐を解き始めた。小漏れである八尺瓊勾玉の光が樹海を照らし始めた。
山彦が悲鳴を上げた。
『やめろ……その光を……!』
反撃の刻が、ついに来た。




