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翡翠のルスキニア  作者: トミタミト/feat.AI
3/3

似テ非ナル者

一匹の鳥と大型の獣が砂漠を横断している。


「暑いわね」


「ああ、暑いな」


「……ねえ。なんで、砂漠ってこんなに暑いのかしら」


「それは私に気候の知識がある前提の発言か?……それとも哲学的な質問であるか?」


「愚痴よ」


「む……待て、人影があるぞ」


二人は他愛の無い会話を続けていると、目の前に人影を発見した。


「あれは……人じゃないわ」


「人ではない?では、何だ」


「多分、ロボットね。でも……多分、この砂漠でずっと動いてると思う」


「……それは、何故分かる?」


「だって、ここは熱波が常に襲う砂漠よ?

こんなど真ん中でつっ立っていたら、生物なら数時間と持たないわ」


「ほう、確かに」


「さて、目の前の奴は何年前から動いてるかなんて分からない。

もしかしたら、何百年も前から動いてるかもしれない」


「……しかし、ロボットだとしたら何か問題なのか?」


「ええ。もし、あの機械が壊れてたら……私達が飲む水を買えないわ」


「成る程、君は私に親切にしてくれてるのだな?」


「……まあ、そうかもしれないわね」


「では、あの機械が何か探ってみよう」


二人はロボットに近付くと、その機械は人型で、背中には翼が生えており、頭部には大きな赤い目が光っていた。


「これは……ロボットね。それもかなり古いタイプよ」


「ふむ。しかし、何故こんな場所に?この砂漠に人なんて居ないのに……」


「ちょっと調べてみるわね」


「ああ、分かった」


鳥は機械に近づき、話しかける。


『こんにちは、今日もお日柄も良く良いお天気ですね』


「水を下さい」


『今日のレシピはカボチャと、冠婚葬祭、エーテルの感度は、即時採用、かなりの確率で、気候変動が、申し訳ございません、ました」


「このポンコツ、話が通じないわ」


「ツーツートントン、ツーツー。パラドクス、ペシャメル、モロヘイヤ、パーーーティーーー」


鳥が呆れた様子で見つめていると、突如機械は首をぐるぐると回し、金切声を挙げながら鳥に向かって覆いかぶさって来た。


「!?」


鳥はその攻撃を避けようとすると、


―――。


後ろから発砲音が聞こえた。

これが銃声だと気付くころには、機械の頭部は貫かれ、それは地面へとばたりと倒れた。

しばらくして遠方から白い装束に身を包んだ狩人がやってくる。


「危ないところでしたね、この辺りは人を襲う”機人”が多く現れます。さあ、こちらへ」


大型の獣を連れた鳥に対しても、臆することなく狩人は指差して、遠方にあるオアシスに案内する。


「ありがとうございます」


突然の出来事に警戒する間もなく、彼女は彼の好意に甘えることにした。


彼女の名はカロス=ルスキニア。

渇きを得れば用心を失う、しがない一羽の鳥である。



「ここは『螺旋ネジのオアシス』と呼ばれる場所です。ここで休んで行ってください」


「螺旋ネジのオアシス……」


「はい。そして、私はイェリコと言います」


「ありがとう、イェリコ。助かりました」


「いいんです。砂漠に迷った民を救うのが我々の使命なので」


「……ところで、さっきの機械は一体何なのかしら?」


飲み水を貰い一服したカロスは、落ち着いた様子で先程の件を訪ねた。


「……それを聞いてどうします?貴方はこの地の人間ではないようですが……」


「私のことは気にしないでほしいわ。ただ、気になっただけだから」


「……」


狩人は顎に手を当てながら考え込み始める。

そして……ゆっくりと口を開いた。


「分かりました。旅人さんには話しましょう。

あの話の通じない”機人”は長らく私達共通の敵として戦っている者なのです」


「敵……ですか」


「そうです、我々と同じような言語を話す癖に全く話は通じない。

それに加え、何の前触れもなく襲い掛かってくるのです」


「でも……一体どうしてそんなことを?」


カロスが不思議そうに尋ねると、狩人はさらに怒りを露わにして答える。


「それは彼らが私達に危害を加える為だけに造られた存在だからと伝わっています。

彼らが何者なのかは私にも分かりません。だが奴らが我々を殺すために作られた以上、

我々も奴らを殺すしかない……それが今でも続いていると言うわけです」


「なるほどね」


「戦争というには些か一方的であるな」


大型の獣、牙の王カーンは水浴びをしながら話題に入り込む。

その様子はまるで豪華な浴槽にでも入っているかのように優雅だった。


「……失礼、語気が強くなってしまいました」


「いえいえ構いません、続けてください」


カロスは彼の言葉に対して微笑み返す。


「しかし、最近は妙に奴らの出現率が増えています。その原因について調査しているのですが……

一向に進展が無くて困っていました」


彼女は少し考えた後……こう切り出した。


「その調査、私も協力してもいいかしら?

助けてもらったお礼として、どう?」


その提案に対して、彼は驚きの表情を見せると共に、興味深い眼差しで彼女を見る。


「本当ですか?それは助かりますが……貴方は一体何者なのですか?」


狩人が聞くとカロスは小さく笑って答えた。


「私達は”渦巻く大銀河図書館”……。まぁ要するに宇宙の知識の整理をしている組織みたいなものよ」


明らかな嘘をカロスは狩人に答える。

カーンはその言葉に対し、しかめっ面をするが、狩人の方は素直に信じて頷いていた。


「そんなすごい組織の者だったのですね……」


「そこで働いてるうちに色んな世界を旅するようになったのよ」


「そうなんですか……ちなみにここに来る前は何処に行っていましたか?」


「ここよりはるか北東の地にある”虚無と希望の街”。そこには沢山の遺跡があったわ」


「ふむ……それで次はこっちの方まで来たということですか」


「そういうことになるわね」


「……なるほど、それではよろしくお願い致します、大銀河の司書殿。

機人の住処はここよりさらに先に在る運河を超えた山岳地帯にあります。

どうか、お気をつけて」


「ええ」


狩人はそう言うと、カロス達に一礼してその場を立ち去っていった。

カーンは呆れた様子でカロスに尋ねる。


「……何故、妙な嘘をつく。我らは助けてもらった身ではないか」


「小言は不要よ、カーン」


「しかし……気まぐれにしては些か意地悪ではないか?」


「会ったばかりの相手の出自や生まれなんて些細な事よ。

多くの旅人にとって大事なのは”行動”。……それに」


「……それに?」


「あの狩人、機人と”同じ目”をしていたもんだから。……少し警戒しちゃった」



肥沃な自然溢れる運河を超え、カロス達は機人の住処と言われている山岳地帯まで来ていた。


「人の気配がしないわね」


道中は至って静寂そのものであり、野生動物の鳴き声さえも殆どなかった。

まるで、ここが安全地帯かと思われるほどであった。


「これじゃあ手掛かり一つ掴めないわ」


カロスが呟くと、隣にいるカーンが小さく笑う。


「安心せい。我はここに来てから妙な気配をずっと感じておる。

恐らく、それは”奴等”も同様であろうな」


「それってどういう意味かしら?」


「……この山に踏み入れた時点で既に我々は監視されているということだ」


カーンがそう言うと同時に岩陰から人影のようなものが飛び出してきた。


「トマートーーー、マグネシウムイオンと散見する、越権行為、違法な行動ーーー!」


「出た!」


カロスが叫ぶと同時にカーンは爪を振り下ろし迎撃する。

機械のような体をした人形が宙に舞い上がる。

その機人は岩肌に叩きつけられ、ぴくりとも動かなくなった。


「……?」


しかしその姿はついこの間襲ってきた機人とは違い……

先程出会った狩人そっくりの姿をしていた。


「これは……どういうこと?」


しばらく倒れている機人の様子を見ていると、


「君たちは旅人かね?」


真後ろに住民が銃を持って立っていた。

その姿も砂漠で襲ってきた機人そっくりだった。

思わず二人は警戒態勢に入るが、銃を持った住民はカロス達が機人でないことが分かると、すぐに銃を下ろし、こちらに挨拶した。


「……失礼した、最近物騒な世の中でね。旅人なら良ければうちの村に寄ってくれ」


彼はそう言うと、道中に指を指して彼らの住む村まで案内してくれた。



山奥にひっそりと佇む集落には200人ほどの機人が住んでいた。

村民が畑仕事に精を出し、子供は野山を駆け巡っている。

のどかで牧歌的な村という印象だった。


カロスは先程の機人との戦闘を思い出す。

あれは確かに……あの機人は狩人と同じ容姿をしていた。

そんな疑念を抱きながら歩いているうちに村長宅に到着した。


「ようこそいらっしゃいました。私が当集落の代表を務めさせていただいておりますイェルバです」


その容姿は狩人に瓜ふたつだった。

白い装束ではなく毛皮の服で身を包んでいるが、その姿はまるで双子かと思えるほどだ。


「……狩人殿?」


「おや?お会いしたことありましたかね?

まぁいいでしょう。今日はもう遅いのでお休みになってください。明日また改めて話を聞かせてもらいますので」


そう言ってカロスは宿屋に案内される。

そして宿の一室に入った彼女達は荷解きをして一息ついた。


「どういうことだと思う?」


「ふむ、どうやら一方の話だけを聞くべき問題ではないようだな」


カロスの質問に対し、カーンは冷静に答え、床についた。

その姿はもはや柔和な性格の大型犬のようである。


「確かめてくる」


カロスはそう言うと、宿の外に飛び出した。

村の内部では村人たちが列をなして叫びながら、歩いていた。


「機人はーーー敵だーーー!」


「機人はーーー排除せよーーー!」


高らかに声を上げ、持っている看板には白装束の機人に×がされた絵が描いてある。



「……何をしているのかしら?」


カロスは看板を掲げる少年に尋ねる。


「……宣伝活動です。機人は俺たちの敵だから……!」


少年は涙を流しながら答える。

その瞳からは憎悪の感情が読み取れた。


「同じような言葉を話す癖に、我々とは決して相容れない!

長年戦っている我々共通の敵なのです!」


「……そう」


それ以上は何も言わずにカロスはその場を後にした。



次の日。

多数のお土産を村民から貰い、カロス達は村を去っていく。


「また来てくれ、気のいい旅人さんなら歓迎だ」


「ありがとうございます」


砂漠の狩人が話していた事実と違い、山岳の村人たちはとても温和で優しい人たちだった。

その異なる事実にカロスは頭を抱え、それを背中越しにカーンは心配する。


しばらくして螺旋ネジのオアシスに戻って来たカロスに対し、待っていた狩人が手を振って、迎え入れる。


「ご無事でしたか!」


イェリコは戦場から戻って来たカロス達に対し、本気で心配の声を上げていた。

その事実にカロスは余計に頭を抱えた。


「……どうする?真実を伝えるか?」


「何か分かったのなら何でも教えてください!」


イェリコの質問に対し、カロスは躊躇いながら答えた。


「彼らは……あなたの知る機人ではありません。普通の人たちでした。

そして、彼らは貴方たちの方こそ機人……敵だと言っていました」


「え?」


カロスの言葉にイェリコは言葉を失った。

しばらく黙り込み考え込んだ後、ゆっくりと口を開く。


「彼らが……僕の家族を奪った機人じゃない……?」

それに僕が機人だって……?そんなわけ……」


イェリコは茫然と呟くとその場で膝から崩れ落ちた。

機人である彼は幾許かの思考の末、オーバーヒートを起こし、”故障”してしまった。


「……イェリコ」


カロスはそのまま俯いたまま動かなくなってしまったイェリコの様子を見て複雑そうな表情を浮かべる。

自分が彼に何が出来るかと考え込む。


(こういう時、どうすればいいんだろう)


カロスは自身の記憶を探るように過去を振り返ったが……

彼女は結局何も出来ず、黙ってその場を後にした。



「救えなかったとでも思っているのか?」


夕暮れ、一緒に砂漠を横断するカロスを見て、カーンはそう言った。


「彼がああなったのは予想外だったけれども、真実を教える必要はなかったかもしれない」


「それはお前が決める事ではない、お前は自分の正義に基づいて行動をしたのではないか?」


「……」


カロスは山岳の村から拝借した古い本をカーンの背中で読み進める。


『むかしむかし、とても仲の良い人々がいました。

ある日の事、人々の中におかしな行動をする人が現れました。

彼等はその人々を恐れるあまり隔離しましたが、その現象がおさまる事はありませんでした。

そして仲の良い人々は長い月日をかけて家族や友人がおかしくなっていく様を見続けた結果、

仲の良い人々もおかしくなってしまったのでした』


「……お前は優秀な図書館司書だな」


「そうかしら?」


「あぁ」


カーンは肯定の声を上げる。

そしてカロスはぽつりとつぶやいた。


「……いつまでも、人という者は」

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