表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/28

第6話 ガチ勢に詰められてるけど、私の黒歴史ノートですそれ

“勇者ご一行”の聖遺物が展示されてる博物館に、私の黒歴史呪文ノォトがそっくりの姿で所蔵されてるって……どゆこと?


……いま、運命がゆっくりと首をしめにきている。

ああ……これが現実世界なら、こんなふ風にだらだら過ごせるのは幸せなことなんだろうけど、ここは違う。

眠くもないし、食欲もない。娯楽もない。

ないない尽くしの世界。

(……魔法はあるけど)


いっそのこと、あの恥ずかしい呪文でドッカーン!と街ひとつ吹き飛ばして、山奥に逃げ込み、誰にも知られずひっそり暮らしたい――なんて妄想していた、そのときだった。


外が騒がしい。

宿の廊下から、足音とざわめきが聞こえてくる。


――コンコン。


「お休みのところ申し訳ありません。ギゼル様が、至急“救世主様”にお会いしたいと。ノォトのことで」


案内されたのは、宿の奥にある応接室のような一室だった。

壁には古びた剣が飾られ、テーブルの上にはレースのクロス。

豪華というより、“要人の宿泊を想定した落ち着いた部屋”といった印象だ。


そしてそのテーブル越しにいたギゼルは、座ったままにもかかわらず、身を乗り出す勢いでこちらを見据えてきた。


「――単刀直入にお聞きします。このノォトは、どこで入手したのですか?」


「……頭上から落ちてきました」


「……は?」


ギゼルは椅子の背に沈み込むようにして、低く、押し殺すような声で言った。


「私に、軽口を叩く余裕があるように見えますか?」


(いや、ほんとに頭の上から落ちてきたんだけど……)


返答に困っていると、ギゼルの背後に控えていたライルが、静かに口を開いた。


「……ギゼル様。私も、それを目撃していました」


(ライルが見たのは“設定ノォト”のほうだった気がするけど……ま、文字読めてなかった可能性あるし)


「…………」


ギゼルはしばらく沈黙したのち、ゆっくりと――だが、目の奥に熱を宿したまま語り始めた。


「現在、博物館にも確認中ですが――このノォトは、聖都市ブリンティアにある《勇者ご一行記念博物館》の“レナ様展示室”に保管されている聖遺物と、材質も筆跡も酷似しています。

……ただし、そちらは長年の保管により劣化が見られる一方で、あなたの所持しているものは明らかに“新品”同然です。


さらに――本来、レナ様にしか使えなかったはずの魔法を、あなたは発動させたのです」


ギゼルは、机の上に置かれたノォトにそっと手を添える。


「私は長年、レナ様を研究してきました。生まれ変わりだなんて、そう簡単に言うつもりはありません。ですが――

もし、あなたが“その人”である可能性があるのなら……」


一呼吸おいて、彼は私の目をまっすぐに見据えた。


「冗談で済ませるわけにはいかないのです。これは、私の人生そのものですから」


(……この人、ガチのレナ様ファンなだけでは……)


彼の圧にただただ押されていたが、こちらも自分が置かれている状況すらよく分からないのに……リアクションのしようがない。


「とりあえず、こちらをご覧ください」


少し落ち着いたらしいギゼルが咳払いをひとつして、テーブルに広げたのは一枚の地図だった。


ぱっと見て私が描いたこちらの世界の地図だと分かった。日本地図を簡素化しただけの……


「……あれ?」


私は、服の中にしまっていた“設定ノォト”を取り出しギゼルが凝視しているのも気にせず、そのまま世界地図のページを探し始めた。


背後から、ライルが「……あっ」と短く声を漏らす。

けれど、それすら無視してページをめくる。


「……増えてる」


私の記憶が正しければ、この“設定ノォト”とこの世界の地図は完全一致しているはずだった。

けれど、ギゼルが広げた地図には――描いた覚えのない“島”が増えていた。


(どうして……?)



ギゼル。レナ様を崇めし者にして、記憶の檻に囚われた狂信の徒。


……レナ様を愛するその心は、もはや重力を超え、質量を持って私を押し潰そうとしてくる……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ