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第5話 呪文ノォト♥️まさかの起動

――やつが……出た。

忘却の彼方に封じたはずの“第二のセカンド・ノォト

私という存在の核、過去の残滓、黒き記憶の写し身――


……あれを、もう一度読むことになるなんて。


再臨した“黒歴史”の書に、私は勝てるのか……

騎士に案内された宿は、王都の迎賓施設のひとつだとかで、

王様のお友達とか、よその国のすごい人とかが使うような場所らしい。

宿には最低限の人数しかおらず、どこか静まり返っていて、ちっともくつろげる雰囲気じゃない。


そんな中、みさきはあれこれ考えを巡らせていた。

つねってみたら普通に痛かったし、どうやら痛覚はある。でも、お腹はすかないし、眠気もこない。食べられるけど、なんというか――ただ口に入れてるだけって感じで、満腹感もない。

やっぱり、自分がこの世界の“異物”なんだって、改めて思い知らされる。


朝方、人気のない森まで行って、うろ覚えの魔法も試してみた。でも、なぜかうまくいかなかった。

設定ノートには、自分も魔法が使えるって書いてたはずなんだけどなぁ…。


(そういえば、呪文の前に何か枕詞みたいなの言ってたっけ…?アニメとかゲームで影響受けてたころのやつ…)


「あいたっ!」


考えごとをしていたその瞬間、頭に衝撃。

足元を見ると、またもやノートが落ちていた。


「またこのパターンか!」


『呪文ノォト♥️』


でかでかと書かれた文字。何度みてもハートのインパクトが凄すぎる……。そんなことを考えながら表紙をそろーっとめくってみる。


「あー……はいはい、そうだったわ……」


ドアをそっと開け、あらためて周囲に誰もいないことを確認。


「太陽より赤きもの――灼熱より熱きもの――」


……体が熱くなるのを感じた(いや、物理的に)


「えっ、これ……まさか呪文出ちゃうやつ……?」


なんとなくヤバそうな気配を感じて、入り口の警備の人に「ちょっと森まで散歩してきます」と軽く言い残し、先ほどの場所へ急ぐ。


「太陽より赤きもの――灼熱より熱きもの――その力を我に、かーさん……かーさん!?」 (いや母さんって……多分貸さんかな?)


「太陽より赤きもの灼熱より熱きもの その力を我に――貸さん ヒートアイランドブレイカー」


……シーン。


あれ? さっきまであった体の熱さがスッ……と引いた。

嫌な予感が、胸をかすめる。


(まさかとは思うけど……誤字のまま読めってか……)


恐る恐る、今度はそのまま詠唱してみる。


「太陽より赤きもの、灼熱より熱きもの、その力を我にかーさん。ヒートアイランドブレイカー……(ボソッ)」


――ドッカーン!!


小声でつぶやいたとは思えないほどの爆発音と衝撃。

地面に向けて手をかざしていたせいで、爆風に巻き込まれ、みさきも見事に吹き飛ばされる。


地面は抉れ、木々は風圧で曲がり、葉が散る。

想像していた以上の威力に、みさきはただ唖然と立ち尽くした。


「やばい……これ、やばいやつだ……」


――自分で書いたんだけども!!!


「何事だ!」「敵襲か!?」「こっちだ!」


城の近くだったこともあり、騎士たちがすぐに駆けつける。

みるみるうちに、みさきは取り囲まれた。


「何者だ!」と鋭く問いかける中、騎士たちの列から一人前へ出てくる影。


――ライルだ。


「剣をおろせ。この方は、救世主様だ!」


場が静まり返る。だが、無理もない。爆風のせいで、みさきの格好は泥と煤でひどい有様だった。


「ライルさん……ごめんなさい……」


震える声が自然とこぼれる。気づけば、体も小刻みに震えていた。


「お怪我はありませんか?」


こくん、と首を縦に振る。


するとライルは、そっと手元のノートを手に取った。呪文ノォトだ。


一瞬だけ何か言いかけたように見えたが、言葉を飲み込んで――静かに言った。


「こちら、しばらくお預かりしても?」


「えっ、それは……」

(それはやめて…こんな黒歴史ノート、他人に見られるなんて……!)


「お願いします」

パンナコッタドンナコッタ町で見せていた人懐っこい笑顔とは打って変わり、凛とした“騎士の顔”で迫られる。これは……無理に断れない雰囲気。


「……わかりました」


ライルはうやうやしくノートを預かると、そばの騎士に渡した。


「これをギゼル様の元へ。大切に扱うように」


そして、こちらを振り返る。


「宿までお送りします」


無言でうなずく。

先ほどまでとは打って変わり、宿には緊張感漂う空気が流れていた。


その日、みさきはほぼ軟禁状態となり、外出の許可すら下りなかった――。


この手を離れ、ノォトは――

よりにもよって、王の側近ギゼルの手に落ちた。


世界のことわりを書き記した聖典。

いや、私にとってはただの……生き恥そのものだというのに。


どうしよう……本当にどうしよう……。

これ以上ページを開かれたら、私はもう、“ただの私”ではいられない。


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