再終回 そして黒歴史は刻まれ始める――交錯せし世界の果てで
【聖都市国家ブリンティア・神の間】
天井も壁も床も、すべてが白一色で満たされた広間。
磨かれた大理石が淡く光を返し、柱や壁には古代文字が刻まれている。
部屋の中央には低い円形の台座がひとつ。
「……まさか平行線世界のみさきに認識されたら、あんなバグが起きるなんて想像もつかなかったよ」
光の玉が淡く揺れ、のんびりとした調子で呟く。
ぎぃぃ……
重い扉が開き、大神官が静かに足を踏み入れた。
「――っ! お目覚めに……なっておられたのですか……!」
驚きで目を見開く大神官。
「私はてっきり……長き眠りにつかれているものと……」
「ずっと起きてたよー」
光は気の抜けた口調で答える。
「島が消えたのは……まあ、結果的によかったのかな?」
(島が消えた? レナ様は成功したのか……良かった)
大神官は深く頷いた。
「聖剣はみさきを助けると思ったけど、まさか一緒についていくなんてね。本当に一途な子だ」
大神官は息を呑む。
「……みさき? レナ様のことを、そう呼ばれているのですか……?」
問いかけに、光は答えず、ただ愉快そうに揺れた。
「ま、ノォトはこっちで預かったし、余計なものは残らないよ。
それに聖剣の力も、いくつか僕が頂いたよ。……だってあの子、僕と同等の力を持ってるんだ。
もし悪い方向に向かったら、世界ひとつ壊すのなんて簡単だからね」
光は小さく揺れた。わざとらしく肩をすくめるように。
「でも、また同じことが起きたら……今度は別の平行世界のみさき(60)でも呼んでみようかな?」
くすくすと笑う光に、大神官は顔をこわばらせた。
しかし、意味が理解できず、口を挟むこともできなかった。
「………」
「――まあ、今度こそ寝るよ。しばらくは、ね」
光は淡く瞬きを残し、ゆっくりとしぼんでいった。
「ごゆっくりお休みくださいませ……」
大神官は深く頭を垂れ、静かにその場を去った。
◇ ◇ ◇
「おーい、起きろ……するぞー!」
耳元に響く声に、みさきは目を開けた。
視界いっぱいに飛び込んできたのは聖剣の顔――あまりの近さに、とっさにその顔を手のひらで鷲掴みにする。
「な、なんであんたがここにいるの!?」
(……まさかあの世的な!?)
「んなわけあるか」
聖剣は顔を振り払い、立ち上がった。
「ここはあの世でもお前の世界でもない。……別の世界みたいだな」
辺りを見渡す彼の髪が、そよ風に揺れる。
みさきも視線を巡らせると、そこは草原だった。遠くに建物の影が見える。
(……やっぱり元の世界には戻れなかったんだ)
力なく座り込むみさきの横で、聖剣が口を開く。
「お前は禁忌を犯したんだ。相手に認知された……だから島ごと消えた。……多分な」
そう言って、彼はみさきの頬を濡らす涙を指で拭った。
「……知ってたなら教えなさいよ!」
「交渉次第って、何度も言っただろ?」
聖剣はそういってみさきの頬に手を当てる。
「あんたの交渉なんてどうせ、ピーがピーでピーになって、公開できないじゃない!」
その手を振り払いながら言い返すみさきに、聖剣はふっと笑みを零す。
「ほら、立て。行くぞ」
そう言って差し伸べられた手を、みさきはプイッと顔をそむけて拒む。
「はぁ!? 誰が一緒に行くって言いましたー?!」
聖剣は肩をすくめ、少し歩いてから振り返る。
「……あ、ちなみにこの世界も魔物が出るからな」
「……っ!」
みさきは勢いよく立ち上がり、慌ててその背中を追った。
「と、途中までなら……一緒に行こうかなぁ、なんて?」
そんな彼女の言葉に、聖剣は小さく笑い、何も言わず歩みを進めた。
こうして、二人の新しい旅が始まった。
……果たして順調に進むのか、はたまた黒歴史が増えるのか――言うまでもない。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
ほとんど勢いだけで書いてきた作品でしたが、それでも読んでくださる方がいて、本当に嬉しかったです。
ブックマークや読みに来てくださった一人一人のおかげで、「サボっちゃおうかなー」と思ったときも踏ん張れました。
次は、きちんと設定ノォトを作って、もっとしっかりと物語を書いてみたいと思っています。
ここまで読んでくださった皆さまに、心から感謝です!本当にありがとうございました!




