表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/41

第37話 大海を渡りて、選ばれし者は結界に挑む

――海を渡り、我らは“氷殻の孤島”へ辿り着いた。

そこに待つは、透きとおる結界。

美と畏怖の狭間で揺らぐ心を、試すようにそびえ立つ。

……抗うか、従うか。

少女(32)はただ、一人でその境界に挑む――。

みさきはてっきり、ものすごく大型の船で行くのだと思っていた。


 だが港に停泊していたのは、全長十メートルほどの小型船だった。

 木造の船体はしっかりと組まれ、船首には国章が刻まれている。

 漁船に見えなくもないが――近づけば、国の所有物だと一目でわかる威厳があった。


 船内は狭い。だが、通路の両脇には板壁で仕切られた寝台が並び、最低限のプライベートは確保されている。

 仕切りといっても扉ではなく布を垂らしただけの簡素なもの。

 寝転がればすぐ隣の気配が伝わる、そんな距離感だった。


 中央には小さな共用スペースがあり、木のテーブルとベンチがひとつ。

 快適さよりも実用性を重んじた造り――それでも、頼もしさを感じさせる船だった。


「島の周囲は少し波が荒れていまして、大型船では危ないとのことです。みさき様にはご不便をかけますが……」

 ライルは申し訳なさそうに言った。


 人数もみさきとライルを含めて五人程度らしい。

 知らない人たちと一日と少しを同じ船内で過ごすのは、なんだか気まずい。

 そんなことを、みさきは腕の中にすっぽり収まっているぷーたを撫でながら考えていた。


 だが――その心配は、すぐに打ち砕かれる。


 出航からしばらくして。


「……うぷ……」


 狭い空間にこもる揺れで、見事に撃沈。

 這うように甲板へ出てきたみさきを見て、ライルが慌てて駆け寄った。


「みさき様!? 大丈夫ですか」


「……ぜんっぜん大丈夫じゃないです……」

 痛覚はあるものの、疲れず、食事も睡眠も必要としない――そんな身体のはずなのに、船酔いはきっちり感じるようで。


「馬車は平気だったのに……うっ」

顔をしかめるみさきに、船員のひとりが苦笑交じりに言った。

「地面がないからさ。目と体の感覚がずれるんだよ。馬車よりも酔いやすいんだ」


「そんな……しかも、なんで私だけ……」

 (やっぱり、この体でも完璧じゃないってことか……)

 そうぼやくうちに、時間は過ぎ――気づけば、船はもう島の岸辺へと近づいていた。


 やっとの思いで島に上陸した。

 足をついた瞬間――「あ、地面だ!」と喜んだのも束の間。


「……まだ揺れの感覚が……」

 みさきはその場にへたりと座り込む。


「大丈夫ですか?」

 ライルが心配そうに声をかける。


「少し、このままで……」

 太陽の眩しさに額へ手をかざし、ふらつく視線を持ち上げた。


 安堵したのも束の間――視界の先にはすでに結界がみえる


 島のほとんどを覆うと報告されていた結界。氷のように透き通った巨大結晶の塊だ。

 外側は澄みきっているのに、その中は一切の景色を映さない。

 ただそこに在るだけで、自然の風景から切り離された異質さを放っていた。


 綺麗で、けれど少し怖い。


「ここからは、私一人で行きます」

 みさきはゆっくり立ち上がり、肩に引っ付いていたぷーたをライルに渡す。

 そして静かに、結界を見据えた。

だが、物語は孤独だけでは終わらない。

影に潜みし“かの刃”は、誰も気づかぬうちに舞台へと帰還する。

その口上は、あまりに軽やか――「よぉ」。

……そう、“聖剣”は再び姿を現した。

次章、交錯するは運命の再会。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ