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第34話 神の嘲弄と、拒絶の刃

――神と剣、ただ二つの存在だけが残された。

 語られるは禁忌の“設定”。

 その奥底に潜む真実が、静かに暴かれようとしている。

「みさき様!」

ライルの声ではっと意識が現実に引き戻される。


気づけば、そこは円形の間だった。

中央の泉は淡く光を帯び、白い靄をゆらゆらと立ちのぼらせている。


そして、目の前には大神官がいた。わずかに身を乗り出し、その周囲の神官たちも一斉に期待を込めた眼差しを向けてくる。

言葉にされなくても「どうだったのか」と問いかけられているのは明らかだった。


(う……大勢の視線が痛い……)


「ぷー」


先ほどまで豊満な胸のクッションで気持ちよさそうに眠っていたぷーたが、みさきの腕の中にすぽっと収まってきた。


(……ふっ、やはり胸の大きさではないということか……)


思わず女性神官にどや顔するみさき。けれど相手は、逆に優しく微笑み返してくる。


(なんか負けた気分……)


「あいつになにかされたのか?」


いつの間にか隣に立っていた聖剣が、いろんな角度からみさきを眺めて問いただしてくる。その表情は険しい。


(あいつって神様のことだよね……。でも“なにかされた”って何その尋問口調!?)


「いや、何も?」


その時、腕の中のぷーたが熱を帯びはじめた。

「え? ぷーた?!」

爆発かと思ったみさきは、咄嗟に聖剣の顔へと投げつけてしまう。


「ごめ……あ」


確かに顔面にめり込んだ気がしたが、気のせいだと思い込む。

聖剣が小さく「ぶはっ」とむせたような声をあげたが、すぐに黙り込んだ。


次の瞬間、ぷーたの体が光を帯び――。


「ぷーたの体、借りたよー。みさき、ぷーたがかわいそうじゃないか」


のんびりとした声が響いた。


「その口調は……神様?」


ざわつく神官たち。


大神官が慌てて前に出る。

「こ、困ります……! 神の間から勝手に出られては、ただの部屋になってしまいます……!」

声は震えていた。


「まーまー。神殿から出なきゃいいでしょ?」


ざわめきが収まらない中、神が軽く言葉を落とす。

「ちょっとみんな静かにね」


その一言で場のざわめきはぴたりと止まった。

神官たちはお互い顔を見合わせ、気まずそうに半歩下がる。自然と輪ができ、聖剣と神の周囲にぽっかりと空間が空いた。


神はそれを見て満足そうに「気が利くね」と笑い、ふわりと漂うように聖剣へと近づいていく。


「だめだよー聖剣。みさきが好きだからって、ずっと思考を読んでたら」


広間にどよめきが走る。

作中では聖剣とレナは恋人同士――そんな設定をみさきは思い出す。


(だから思考を覗いて確認してたんだろうけど……中身は私なんだよなぁ)


茶化すように笑みを浮かべた瞬間、聖剣の眉がかすかに揺れた。


「あー、そっちの意味にとっちゃったか……本当にずれてるね」

神が呟く。


「聖剣。僕が言うのもなんだけどさ、なんであんな子がいいの?」


神はちらりとみさきを見やった。

みさきは、もう自分に話が振られることはないと思ったのか、ぷーたが壁画に描かれていないことを思い出し、壁画の方に歩いていく。


「ほっとけ」


壁画を眺めるみさきに視線を流しながら、聖剣は低く言い放った。


神官たちは耳を澄ませながらも、あえて近づこうとはしない。互いに視線を交わし、張り詰めた空気の中でただ成り行きを見守っていた。


「そういう設定だから? 可哀想だよね。僕がいじれるところは少ないけど、君が望むならそれ、外せるけど?」


「……余計なことすんな」


聖剣は腕を組み、そっぽを向く。会話を打ち切るような仕草だった。


神は少し声を落とす。

「もしかして……もう外してたりする?」


「さぁな」


聖剣は長い髪をかき上げ、横目で神を鋭く睨む。そこには明確な拒絶の色があった。


「……ふぅん。僕ならいやだな。会話にならなそうだし」


聖剣は神に向かって、しっしっと追い払うような仕草をする。

そのやり取りの内容までは聞こえないが、ただならぬ空気に神官たちは思わず息をのむ。


神が元の場所に戻ったあと、聖剣は無言のまま腕を組んだ。

視線は――ずっとみさきに注がれていた。

だが答えはまだ沈黙の中。

 聖剣が選ぶのは、己の定めか、それとも――少女(32)か。


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