第33話 封じられた黒歴史、解鍵の刃は聖剣に宿る
――祭壇にて交わされた言葉は、冗談と真実の狭間に揺れていた。
黒歴史のノォトに刻まれた“ロック”、著作権の名を持つ封印。
それは滑稽でありながら、運命を縛る鎖でもある。
選ぶか、誤るか――決断のときは、もう近い。
「『選択肢を間違えると帰れないかもしれない』……聖剣は確かにそう言ったんだね?」
神は真面目なトーンで、みさきに確認するように問いかけた。
「はい。そのあとは、何を言っても黙りでした」
光はピタリと停止し、しばし沈黙。やがてかすかに揺れながら、思案するように呟く。
「……聖剣の“とりあえずすごい能力”のひとつに、物事の本質を見抜いてしまう力がある。もしかして、それを使ったのかな……」
「とりあえずすごい能力?!」
(いや、なにそのダっサい名前……)
「……君がそう設定したんじゃないか」
呆れたように言う神。
「!」
(私かよ! いや、私だな……)
「まったく、君の雑な設定のせいで僕より神らしいじゃないか、聖剣は」
神のクレームは止まらない。ぶつぶつと聞き取れない小言まで零れてくる。
「す、すみません……あっ」
みさきは慌てて声を上げ、懐から設定ノォトを取り出した。
「私なりに考えて……もしかしたらノォトが怪しいと思いまして」
光の近くまで差し出すと、神はノォトに視線を注ぐように揺れ、ふっと笑った。
「あはは……なるほどね。今まで気づかなかったよ」
「え……?」
神は軽く肩をすくめるように動き、声を落とす。
「このノォトには“ロック”がかかってる。君の世界で言う“著作権”みたいなもんだよ。
作者なら自由に扱えるけど、今の君は登場人物。物語の中にいるから直接はいじれない。……僕でもね」
「著作権……」
(こんな恥ずかしい作品にまで著作権とか……ちょっとウケるんだけど)
「聖剣は……それを言いたかったんですか?」
光は小さく揺れ、しばし沈黙する。
「……いや、必ずしもそうとは限らない。
そもそも、この“ロック”は君が自力で気づけるものじゃない。
だから彼の言った『選択を間違えると帰れない』は――別の意味だった可能性もある」
(それはもうどうにも出来ないのでは……)
光がわずかに瞬き、ため息のような気配を漂わせる。
「……いや、聖剣には“とりあえずすごい能力”がある。君が適当にそう書いたせいでね。もしかしたら、彼ならこの封印を外せるかもしれない」
「聖剣が……?」
みさきは思わず声を上げた。
神はおどけたように笑いながらも、声にわずかな含みを乗せる。
「まぁ、そこは本人に聞くしかないけどね。それに――仮に外せても、この方法はかなり危険な賭けだ。下手をすれば、元の世界どころか、まったく別の平行線に飛ばされるかもしれない」
脳裏に甦る聖剣の「交渉次第」という言葉……これはこの事を言いたかったのか?
ってか結局、何を差し出せばいいの……
「……って、聞いてる?」
神は光を上下左右に揺らしてアピールするが、自分の思考に沈み込んでいるみさきは全く気づかない。
「ダメだね、こりゃ……」
――白き祭壇に響いた神託は、ひとつの終焉であり序章にすぎぬ。
次に開かれる扉の先で待つは、聖剣と少女(32)
運命の糸は絡み合い、平行線はなお揺らぎ続ける――。




