表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/41

第31話 白光の祭壇にて、神託は揺らぐ

――神とはもっと厳かで近寄り難い存在だと思っていた。

だが目の前に現れた“光”は、拍子抜けするほどフランクに言葉を投げかけてきたのだ。

世界の理を語る口調と、軽口の境目が曖昧なままに――。

 天井も壁も床も、すべて白で統一された広間。

 奥に小さな祭壇がひとつあるだけで、装飾らしいものは一切ない。

 余白の多さが、かえって中央に浮かぶ光の存在を際立たせていた。


「人型の方がいいかな? それともこのまま?」


 拳大ほどの光がふわふわと浮かびながら、軽い口調で問いかけてくる。


(え? どっちでもよくない?)


「あ、そう? じゃあこのままね」


(……思考読むタイプか。聖剣と同じじゃん)


 光はゆらりと揺れ、壁に淡い影を落とした。

 みさきは前から気になっていたことを、口にしてみる。


「神って、異世界だと最初の方に出てきません?」


(私の知ってる異世界モノって、大体最初に神出てくるんだよな……。もう終わりかけって感じしかしないんだけど……)


「それは君の固定観念だよね?」


「あっ、はい……(それ言われたらなんも言えない)」


「僕だってさ、設定ノォト落としてあげたじゃーん」


(……いやいや。“僕すごい仕事しました感”出してるけど、頭の上に落とす必要あった?)


 光の表面が波紋のように震え、声の調子も軽口から一転して沈む。

 白い広間に漂う静けさが、急に重たく感じられた。


「……そんな話をするために呼んだんじゃないんだよ」


「君を連れてきたのは、理由がある。

 そもそも、この世界で結界が結晶化する原因は——君の悲しみや苦しみ、怒りといった負の感情だ。

 その状態で小説を書いたことで一定の値を超え、設定ノォトに記した場所が結晶化してきた……と、僕は考えている」


(それって……推測じゃない?)


「……神様でもわからないことはあるんですか?」


「ある。……更にいえば、設定ノォトに関してはほとんどお手上げだよ。

 僕はこの世界を整える係にすぎない。普段はたいしたことしてないけど……もし何か起きたとき、僕が動けないと困るんだ。

 だから結晶化は、僕にとっても致命的なんだよ」


 光が脈を打つように明滅し、神は言葉を続ける。


「皆は“一斉に結晶化している”と思っているけど、実際は少しずつ時期がずれている。

 この場所も、いずれは対象になるかもしれない。」


「でも、ここって二百年も結晶化しなかったじゃないですか。今さらそんなこと、あるんですか?」


「時間の流れは君の世界と違うから、“何年”は関係ないんだ。

 けど、君に関してはここが結晶化する前に精神的に成長して、小説に頼らなくなった。だから結晶化が止まったんだよ。正直、助かった」


「はあ……」

 気の抜けた声が漏れる。

(助かったって……私が“成長した”からってこと? そんな大げさに言われても、全然ピンとこないんだけど……)


 ならば、何故。


「じゃあ、私がここに来た理由って……?」


「それはね——平行線世界の別の君が、まだ苦しみ続けているからだよ」


 神は片手をゆっくりと広げ、その指先に淡い光を集める。

 白い床に淡い光の反射が広がり、やがて一本の木の姿を形づくった。


「平行線世界ってね、こんなふうになってるんだ」


 幹は一本。だが途中から無数に枝分かれし、それぞれが違う方向へ伸びていく。

 枝先には小さな光の実が一つずつ——それぞれの世界の“君”だ。


「幹から離れれば離れるほど、世界は違っていく。でも……」


 神が根元を指し示す。白い光の根が地中で絡み合い、すべての枝を繋いでいるのが見えた。


「どの枝も、同じ根から養分をもらっている。根っこは全部繋がっているんだ。

 一つの実が毒を抱えれば、その影響はゆっくりでも必ず他の枝にも届く」


 光の中で、一つの枝先の実が黒く染まり、その色がじわりじわりと広がっていく。

 みさきの胸に、ひやりとしたものが落ちた。


「これが、平行線世界の“感情の漏れ”だ。

 今、特に苦しんでいる君が一人いて……小説を拠り所にしている。その負の感情が溢れ、こちらにも流れ込んでいる。

 新しくできた島や結界も、その影響だろうね。……最悪、この世界ごと結晶化してしまう可能性だってある」


「……それで、私を?」


「結界は本人しか解けない。それは君が一番わかっているよね?」


「じゃあ、それが終わったら元の世界に戻れるんですよね」


「………多分」


 光がふっと弱まった。真っ白な広間が、一瞬だけ灰色に沈んだように見える。

 奥の祭壇までも揺れて見えて、みさきの胸がざわりと波立つ。


「多分?!」

 思わず声が裏返った。

(多分って……一か八かってこと!? 神様の口から出る言葉じゃないでしょ!?)


 ぐらりと視界が揺れる。

 静まり返った広間の中、自分の心臓の音だけがやけに大きく響いて聞こえた。

神託は未だ途切れず、対話は続いていく。

揺らぐ光、揺らぐ言葉、その先に待つのは希望か絶望か。

――次回、白き祭壇に刻まれるのは真実か、それとも更なる試練か。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ