表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/41

第25話 黙する断章(サイレント・コード)――世界よ、匂わせるな

物語は、いつだって作者の手をすり抜けていく。

世界を築いたはずの私が、世界に置いて行かれる。


設定したはずのキャラが、思い通りに動かない。

“語る者”が沈黙を選び、“聞く者”が絶望の声を上げる。


……私はただ、綴っているだけなのに。


君たちはなぜ、私の手を離れて勝手に進む?


――これは、創造主であるはずの私が、創造物に翻弄される断章。

世界よ、匂わせるな。私は、何も知らされていない。


「そういえば、新しく地図に浮き出た島の調査結果がわかったと、報告が来ました」


「えっ、もう調査行ったんだ? どうだったの?」


ライルの表情が曇る。


「一応、上陸には成功したそうです。ですが……」


「……ですが?」


「島自体はそれほど大きくはなかったそうです。ただ、そのほとんどが“結界”に覆われていて、調査という調査はできなかったとのことです」


(やっぱり結界か……)


「ゼブ王国と聖都市は、“さらに踏み込んだ調査を行うべき”と意見を合わせたようです」


(結界なら、何度調査しても中までは踏み込めないだろうけど――)


(……なんだろう。どうしても、そこに行かなきゃいけない気がする)


 


「それと、聖剣様の件ですが――」


ライルは少し言いづらそうに、聖剣の方へ視線を向けた。


「ゼブ王国で保護させていただくという結論になりました」


のほほんと座っていた聖剣の目が、ぴくりと鋭くなる。


「断るといったら?」


(……まぁ、こいつが素直に保護されるとも思えない。逃げようと思えばいつでも逃げられるし……)


「保護といっても、あくまで一時的です! 歴史のすり合わせなど、資料の照合が済むまでで……!」


慌てて付け加えるライル。咳払いひとつしてから、小声で――


「それに……」


聖剣の耳元で、なにやら囁いた。


ぼそぼそと話しているのは聞こえるが、内容までは聞き取れない。


「……本当か?!」


思わず声を上げた聖剣が、今度は自分もぼそぼそと何かを呟き返す。


「それって……関係……んだな?」


「……わかった。行こうか」


ライルがホッとしたように胸をなでおろし、聖剣は鼻の下を伸ばしてニヤニヤしている。


(……交渉の中身、絶対ろくでもない)


 


「わたし、見張りとして同行します。どうせ聖剣さん、途中で逃げるつもりですよね?」


ルルがまっすぐ手を挙げて宣言する。


(ああ、言われてみれば確かに……瞬間移動とかされたら、誰も止められない)


まぁ、ルルのギンギンの目は見なかったことにしておこう。


「げっ、お前かよー……」


「移動中色々調べさせてもらいますからね」


「うーわ、どこ触ってんだよっ」


 


こうして、馬車に乗った聖剣とルルを見送るライルとみさき。 


「なあ……オレがいなくなって、寂しくないのか?」


馬車の扉の隙間から、聖剣が顔を覗かせる。


「それは……」


(……いや、あんたが居たら現実に帰るのどんどん遅くなりそうだよ)


聖剣がふっと、目を細めた気がした。


「あっそ」


まるで、みさきの心の声に答えるように聖剣は冷たくいい放った。


 


(え、まさか今の……)


 


聖剣は、無言のまま扉を閉めようとするのを止めて――



「あと……オレの見立てだと、お前このままだと――」


言いかけて、また閉めようとする。


「ちょっと! 最後まで言ってよ!」


咄嗟に聖剣の腕を掴むみさき。


「……あー、なんか言う気がうせた」


(ダメだ! 絶対今の重要だったやつ! いわゆるターニングポイント的なアレだ!!)


「お願い!……お願いします。言ってよ、ね?」


「お前が書いた物語だろ。どうするかは、お前次第だ」


「そんな抽象的な……」


「あとは交渉次第、だな。じゃあな」


バタン、と今度こそ勢いよく扉が閉められた。


 


遠ざかっていく馬車を見つめながら、みさきはさっきの言葉を胸の中で反芻する。


 


――お前が書いた物語だろ。どうするかは、お前次第だ。


 


「……なるほど……って」


 


「わかるかーーーっ!!!」


ここで「あれね!」なんて察するほどの頭を持っていないのだ。


森の中に、みさきの叫びが響き渡った。



「こんな物語書く作者が頭いいわけないだろーーーっ! 匂わせやめろーーーっ!!」

 


だが、返ってくるのは鳥のさえずりと、木々を揺らす風の音だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ