第24話 封罪の森で微笑むは、老いし神託──偽りの末裔に課された贖罪
──かつて、神の名を冠する精霊がいた。
その者の名は“レナ”。
永き刻の果てに、彼女が遺した“贖罪の言葉”が、今、封印を超えて伝えられる。
だがそれは、安易な和解をもたらすものではなく、寧ろさらなる疑念の種でしかなかった。
これは、神に選ばれし少女の血を継ぐ(※嘘)、ひとりの旅人が、過去の呪いと対峙する物語。
見届けよ。──“封罪の森”に眠る、忌まわしき記憶を。
他の里のエルフがいると気が立って話にならなそうなので、キリリの家に案内してもらった。
道中、里の中を歩いていて思ったのは――
家々は、木の骨組みに藁が乗せられただけの簡素な造りばかり。
エルフたちの服装も、質素な民族衣装のようなものばかりで、想像していた“神秘の種族”というイメージとはかけ離れていた。
ここに来る途中、聖剣に耳元で囁かれた。
「とりあえず、話をオレに合わせろ」
……何を言い出す気なのか、本気で不安である。
キリリの家に到着し、三人でござのような敷物の上に座る。
ちなみにライルとルルには、あらかじめ席をはずしてもらっている。
「それで……こんな風になった俺を、嘲笑いに来たのか?」
開口一番、キリリが言った。
その外見については――触れない方がよさそうだ。
「……オレ封印されててよー。外に出るのは二百年ぶりなんで、お前がそんな風になってるなんて、想像もしなかったわ」
聖剣は視線をそらしたまま、キリリの顔を一度も見ようとしなかった。
……反省してるのは伝わってくる。下手に見たら、また笑ってしまいそうなのだろう。
そんな彼を、キリリは嫌悪感たっぷりの目で睨みつけていた。
「あの噂は本当だったか……。どうせ二百年ぶりでも、女のケツばっかり追いかけてるんだろう?」
(うわ……中々強烈なキャラ……)
ぼーっと二人のやり取りを見ていたら――
「実はこいつ、レナの末裔なんだ。似てるだろ?」
(なにを言い出すんだこいつは!?)
思わずジト目で聖剣を睨む。
「何?……似てるというか……そのままだぞ?」
キリリは目を細め、じっと私の顔を見つめてくる。
刻まれた深いシワの奥、その瞳は驚くほど澄んでいて、やけにまっすぐだった。
「それに……レナは“神の使い”と呼ばれていた。年なんて、とるのか?」
(……ごもっともすぎて何も言えない)
表情が徐々に険しくなっていく。
疑念がにじみ出ているのが、はっきり分かる。
(この人、勘が鋭い……というか)
「な? レナから預かってる言葉があるんだよな?」
唐突にそう言って、聖剣が私の背中をバンと叩いてきた。
「え!? は!? ちょっ……!?」
いきなりすぎる!
「お前がキリリに思ったことを、言えばいいんだよ」
小声で囁かれる。
そんなの無茶苦茶だってば……!
でも、なんとか言葉を絞り出した。
「……レナはあなたに対して酷い扱いをしてしまったと……亡くなる直前までずっと後悔していたと聞いています」
「だから……彼女に代わって、私が謝ります」
そう言って、座ったまま深く頭を下げた。
キリリは黙っていたが、やがて静かに立ち上がった。
「……もう帰れ。俺が許したところで、里の皆が納得するとは思えん」
その背中は――あまりにも遠く、そして、どこか寂しそうだった。
***
馬車への帰り道。
しんみりとした空気のなか、ライルがふと思い出したように口を開く。
「そういえば、新しく地図に浮き出た島の調査結果が届いたと、報告がありました」
……精霊は赦さなかった。
過去は過去のまま、終わることを許されなかった。
“レナ”という名の幻影が、今なお誰かの胸に棲みつき、
それを継ぐ少女(※継いでない)がまた、偽りの“使徒”として名を刻まれる。
だが物語は、まだ終わらない。
次なる舞台は──地図に突如浮かび上がった“島”──
封印されし運命が、再び囁き始める。
それは警告か、それとも誘いか。
汝、読み解く覚悟はあるか?




