第23話 「レナ…会いたかった!」→老けエルフに抱きつかれた黒歴史、発動。
──かつて、この地に名を刻んだ“レナ”という名の少女がいた。
その存在は封印され、語られることすら禁じられた罪。
……なのに。
その者、見た目は少女──だが、真実は“創造主”
名をみさき(32)。
彼女は呼ばれる。《レナ》という、封じられし名で。
そして──老いし精霊に抱きしめられるとは、誰が予言できただろうか。
第○話、封罪のレナ、再起動。
「こっちだ」
周囲を確認したあと、聖剣が迷いなく歩き出す。みさき達はその背中を追いかけた。
しばらく進むと、森の奥にひっそりと佇む集落のようなものが見えてきた。エルフの里……たぶん。
同時に、入口にいた見張りがこちらに気づき、数人が勢いよく走ってくる。
「人間か? 何の用だ!」
声をかけてきた青年は、警戒心むき出し。というか、今にも飛びかかってきそうな勢いだ。
そのとき、一人の見張りがこちらの顔を見て目を見開き、隣の仲間に何かを囁いた。そのエルフの顔色がさっと変わる。
「お前……! よく我らの里に顔を出せたな!」
怒気と共に、みさきに向かって槍の穂先が向けられる。
「えっ!? 聖剣じゃなくて、私!?」
「まあ……そうだろうな」
聖剣は、まるで予想していたかのように頭をポリポリ掻いた。
(なにこいつ……まさか私をハメた!?)
「悪魔レナ! 死をもってその罪を償え!」
「えええええええええ!?」
見張りが本気で襲いかかってこようとした、その瞬間。
「まあ、待てって」
聖剣が一瞬で相手の懐に入り、掌打で槍の柄を叩き落とした。
「聖剣……お前もだ! お前ら二人のせいで、キリリ様が……!」
怒りのあまり、叩かれた手を押さえながら、見張りのエルフが叫ぶ。
「――あいつに、何かあったのか!?」
あの聖剣も、珍しく焦りの色を見せた。
「どうした? 何を騒いでいる?」
奥から、長老らしきおじいさんが数人のエルフを引き連れて現れた。威厳はあるけど、見た目は……え、かなり老けてる?
エルフって、見た目変わらないんじゃなかったっけ……。
「キリリ様……!」
見張りの一人が、おじいさんに向かってそう呼びかけた。
(……え? 今、なんて言った?)
「おい、嘘だろ……」
聖剣が小さく呟く。
「聖剣か……!? 死んだと思ってたぞ。図々しく生きてたんだな……」
(口悪っ!?)
戸惑いながら見ていると、その“おじいさん”が、今度はこちらに目を向け――
「レナ……! 会いに来てくれたんだな!」
そう言って、いきなり抱きついてきた。
「え、あ、ちょっ……おじいちゃん? 足元大丈夫です? つまずいちゃいました?」
「おじいちゃん、だと……?」
その一言に、聖剣が盛大に吹き出した。
「ぶはっ……! おじいちゃん! だってよ、キリリ! ひーっ、ははは!」
「失礼な! キリリ様はまだ三百歳ほどだぞ!」
取り巻きの一人が真顔で怒る。
キリリは羞恥に頬を染め、みさきからパッと離れた。その身体が小刻みに震えている。
「オレより美形だってのが、唯一の自慢だったお前が……そんなしわしわに……ぷっ」
聖剣は腹を抱えてガハガハ笑い、キリリの取り巻きたちはおろおろするばかり。
……空気になってるライルとルルは、遠巻きに見守っている。ちなみにぷーたは馬車で爆睡中。
「……あれ?」
(キリリってレナの元カレ設定だけど……二百年でこんな老け込むことある?!エルフだよ!?)
こそっとライルに耳打ちする。
「この世界のエルフって、寿命どれくらいなんですか?」
「だいたい、二千年くらいですね。見た目も、死ぬ寸前まで変わらないと聞いてますけど……」
(確かに、他のエルフはみんな若く見える。老けてるの、キリリだけじゃない!?)
「ただエルフは感受性が高い種族です。もしかしたら、相当お辛かった出来事があって、見た目に影響が出てしまったのかもしれません……」
(それって……絶対、私のせいじゃん……)
あのエルフが“かつての恋人”だったとかいう黒歴史、しかも老けてるとか、誰が想像しただろうか。
美しかったはずの面影がしわと共に消え、
そして少女は思う──(それ、私のせいじゃん……)
※次回、ついに聖剣が爆笑しながら真実を歪めます。




