第22話 【封印解放】“失われし記憶(黒歴史)”に導かれ、いまこそあの幻のエルフ《キリリ》を求めん――我が呪文ノォトと共に
――二百年前、我が魂の残響が刻んだ、ひとつの“恋文”。
それは世界の理すら歪め、文献として後世に語り継がれることとなった、禁忌の記録。
しかし創造主たる私は……その存在を、完全に忘却していた。
今、聖剣により封印が解かれ、黒歴史の扉が開かれる。
脇役だったはずのエルフ《キリリ》を巡り、
かつての“文字列”が現実となって襲いかかる。
我が右手に宿る呪文ノォトよ――
導け、地平線の彼方へ!
「会わせたい人?」
みさきは聞き返した。
「ああ……オレは二年間レナを探してた。でも、あいつは……」
聖剣は少し目を細めて、遠くを見るように言った。
「お前にフラれて――いや、“お前が書いたレナ”にフラれて、未練たらたら。今でも引きずってんじゃねぇか?」
みさきの顔を覗き込みながら笑う聖剣。
(誰よそれ……キャラ多すぎてわかんないってば!やば、変な汗出てきた)
「その方も封印されてるんですか?」
ライルが真面目に尋ねる。聖剣にとっては二年でも、実際は二百年経っている。封印されていなければ、普通はもうこの世にいないはずだ。
「ああ、そいつはエルフだから」
あっけらかんと返す聖剣。
「エルフ!? この世界にエルフなんていたの!?」
みさきがライルに詰め寄る。
「いますよ。少数で一つの里にこもって暮らしています。人前にはほとんど出ませんが……」
「かなり閉鎖的な種族です。そもそも、里に入れるかどうかも……」
ルルが、なぜか聖剣の筋肉をじーっと見ながら言った。
……いや、せめて顔を見よう? その眼差し、本気すぎるんだけど。
「お前が書いた物語だろう?」
聖剣が呆れたように言う。
「そ、それはそうなんだけど……(ごめん、記憶にないわ)」
「名前はキリリだ」
「あっ!」
脳内でフラッシュバック。
――喧嘩別れした聖剣と、森で出会ったエルフの少女。ちょっとしたイベントで恋に落ちて、でも聖剣が追いかけてきて元サヤに戻って――
みたいな、すっごい軽いサブイベントだった気がする。完全に黒歴史コーナー。
「ちなみに……そのエルフの方とは、どれくらいのお付き合いを?」
ライルが探るように聞く。
聖剣は少し考え、「二週間くらいか?」
「わーお……」
みさきが呟く。
「それは初耳です」
ライルも目を丸くする。
「文献にも載ってませんね。ギゼル様が知ったら喜ばれるかと」
……あの恋愛妄想癖のあるロマンチストか。事実を知ったら、むしろ倒れそうだけど。
ぶふぉっ!
隣で盛大に聖剣が吹き出した。肩を震わせながら、こちらを指差して笑っている。
「マジかよ!そんな話まで文献になってんの!? オレだったら、自分の恥が後世に残ってるとか耐えられねーよ!」
ガハハハと無神経に笑い転げる聖剣。みさきの悔しそうな顔を見て、さらに爆笑していた。
(ぶっ飛ばしてぇ……!自分の書いたキャラにまでいじられるとか、どんな罰ゲームよ)
思わず握った拳がぷるぷる震える。
ようやく笑い終えた聖剣が、顔を拭きながら言った。
「……ライル、地図はあるか?」
みさきをチラチラ見ながら、ライルは素早く地図を広げる。聖剣は地図をみて
「あーこの辺りだな」
「遠すぎます! 補助魔法のついた馬車でも、一週間以上はかかりますよ!」
聖剣が指したのは、現在地と真逆の場所だった。
「わかってるよ」
聖剣は今度はみさきに視線を向ける。
「……お前、魔法は使えるな?」
まるで確信しているような口ぶりだった。
「いやー……どう、だったかな……?」
みさきは目を逸らしてごまかす。チラッとライルを見ると、若干呆れた表情だったが気にしない。
「しらばっくれるな。服の中に隠してるだろ?」
(……チッ。こいつ、呪文ノォトのことまで知ってる!?)
「オレが服の中に手を突っ込んで探してもいいんだぜ?」
にやにやしながら指をくねくねさせてくる。
「それはダメです! みさきさん、早く出してください!」
なぜかルルに急かされる。なぜ私より必死なの!?
みさきはわざとらしく溜め息をつきながら、服の中からノォトを取り出す。
「はいはい、で? どこ開けばいいのよ?」
「なんだったかな……“大空にまいたけ、いざ行かん”とか、毎回言ってた気がする」
聖剣が雑に返す。
「まいたけ……(舞い上がれ的なやつ? ほんと自分の語彙力……)」
※聖剣もテレポート魔法は使えるが、自分しか飛べないらしい。そのため、パーティ移動は毎回みさきのノォト頼りだったとか。
「……あった、これだ」
全員で馬車に触れる。ルルだけはなぜか聖剣に抱きついていたが、見なかったことにする。
「大空にまいたけ……いざ行かん。地平線の彼方まで――テレポート」
小声で呟いた瞬間、みさきを中心に光が広がる。
次に目を開けたときには、もうそこは――
やっぱり森だった。
でも、空気が澄んでいる。音が静かすぎて、逆に耳がざわつくほど。
(これが……エルフの里の入り口……)
――やっちまった……。
過去の自分が書いた黒歴史恋愛イベントに、今の自分が振り回される。
しかもその恋人役、脇役中の脇役だったはずのエルフ《キリリ》。
聖剣はなぜかノリノリ、ルルは筋肉に夢中、ライルは真面目にギゼル様の反応を気にしてるし……
テレポート詠唱は「まいたけ」でいいのか!?
次回、まさかの《エルフの里》突入。




