表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/41

第21話 我が創造主(マザー)は変態だった件について

――かつて、星々の輝きがまだ若かった頃。


この世界に、“無垢なる神の肉体ボディ”を観測せし者がいた。


これはその記録であり、観測者オブザーバーである我が魂の震えを綴った断章である。


覚悟せよ。これは――神の裸体はだかと、変態の狭間に咲いた、災厄カオスの詩だ。

いまだ帰ってこない聖剣が心配になり、皆で探そうということになった。

 ただ、ゼブ王国から伝達騎士が重要な知らせを持ってきており、ライルはそれが済んでからの合流になるらしい。


 とりあえず、ルルとみさきは聖剣が消えていった方角――森の奥へと向かった。


 しばらく進むと、さらさらと水が流れる音が聞こえてくる。小川か、それとも――沢?


「……あっ!」


 木の陰にいたルルが、小さく声を上げた。そのまま木の隙間から、じっと何かを食い入るように見つめている。


(え、なに? まさか……いよいよ魔物的なやつが出た!?)


 恐る恐る、ルルの隣にしゃがみ込んで、同じ場所を覗いてみる。


 そこにあったのは、岩の合間を縫うように澄んだ水が流れる沢――そして。


 その中心で、水を浴びていたのは、裸の聖剣だった。


(は??)


 鍛え抜かれた筋肉。無駄のない肢体。まるで彫刻みたい……っていうか、実に羨ましい限りだが。


「ちょ、ちょっと! ルル! まずいってば!」


 焦って小声でルルを引き剥がそうとする。でも、ぴくりとも動かない。


「……でも、そんな……」


 顔を真っ赤にしたルルは、小さく何かをぶつぶつと呟いている。まるで観察対象でも見つけたかのように、裸の聖剣をじーっと見つめながら。


(なんなの! 何を観察するところがあるの!?)


 私ももう一度、聖剣の後ろ姿をじっと見てみる。思わず感嘆のため息をついたあと、ぽつりと呟いた。


「……ずっと見てるとザリガニの裏側みたいに見えてくるんだけど…… 」


 ――その瞬間だった。


 聖剣が、ふとこちらを振り向いた。目が合った、と思った瞬間。


 空気がふわりと揺れる。


 次の瞬間には、もうその姿はなく――


「それ、ぜってー褒めてねぇだろ」


 ――耳元で、声がした。


「ぎゃあああああああっ!? で、でたぁーーーっ!!?」


 みさきは腰を抜かして、その場に崩れ落ちた。たぶんお化け屋敷で驚いた時ぐらいの叫び声だったと思う。


「って、ちょっ、全裸!全裸全裸!ぷー!ぐっ!!」


 ぷーたの名前を呼びかけたところで、聖剣があわててみさきの口をムギュッと塞いできた。ちなみに、ぷーたは現在徘徊中である。


「呼ぶな、バカ!」


(近いっ! てか、なんかぶらぶらしてるっ! 無理無理無理っ!!)


 みさきは目をぎゅっと閉じ、涙目になりながらぷーたが来てくれることを祈った。


「その反応……お前、さては――」


 ぷーーーー!!!


 そのとき茂みをぶち破って、ぷーたが猛スピードで突進してきた。


 危険を察知したのか、聖剣は――本当に一瞬で、姿をかき消した。


 音もなく、まるで最初からそこにいなかったかのように。


「さっきの悲鳴は……?」


 遅れてやってきたライルが、困惑した顔で周囲を見回す。


 そこには、腰を抜かしてあわあわしているみさきと、一心不乱に何かを描き続けるルルの姿。そして、消えた聖剣の痕跡を追ってぐるぐる回るぷーた――という地獄絵図が広がっていた。


 ライルが困惑するのも当然だ。


「一体、何があったんですか……?」


◆ ◆ ◆


「オレの裸が芸術品のように美しいからといって、こそこそ覗くのは感心しないな。堂々と来いよ」


 その後、きちんと服を着た聖剣は、何事もなかったかのように馬車の前で待っていた。


 そして、みさきたちの顔を見るなり、ドヤ顔でそう言い放った。


(堂々とならいいのかよ!?)


「裸? それは一体どういうことですか」


 ライルの声が妙に鋭くなる。みさきは、先ほど起こった出来事を正直に話した。


「みさき様はともかく、ルルさんが覗きなんて……」


 ライルはため息混じりに言う。


(えっ、私なら普通に覗きそうってこと!? ちょっと、心のツッコミが止まらないんだけど!?)


 ルルはいまだに顔を真っ赤にしたまま、うつむいている。もう熱があるんじゃないかってレベル。


 でも、チラチラと聖剣を見てる。


(あれ……? 研究対象としてじゃなくて……単純に好きになっちゃったとか!?)


「オレを作った“お母様”も、所詮は変態だったということだな」


 聖剣はニヤニヤしながら、そんなことを言ってきた。


「(こいつ……! でも、悔しいけど言い返せない……)」


「中々帰ってこないから、落ち込んでるかもって思っただけ! もう次の目的地行こう!」


(※決まってないけど!)


 みさきはごまかすように言って、荷物をまとめ始めた。


「あー、それなんだけど……ちょっといいか?」


 聖剣が鼻をかきながら、珍しく真剣な声で言った。


「――会ってほしいやつがいるんだ」


 その視線は、まっすぐみさきを見ていた。

……ふふ。


お前も見たか? あの“禁忌の風景”を。


我が同胞たちは今も混乱の渦中にある。


赤き顔を染めしルル、叫喚するみさき、そして沈黙の徘徊者ぷーた


すべては“聖なる裸体ネイキッドフォーム”が招いた悲劇――いや、神話レジェンドの序章。


次章、我が魂は“彼”と向き合うことになる。


それでは、また次の観測で会おう――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ