第19話 封印を解かれし者、その本性は未だ闇のまま
――黒き封印が解かれる時、千年王国の血脈は呼び醒まされ、そして世界は “性癖” という名の混沌に沈む――
かつて《勇者聖剣》と呼ばれた男がいた。
二百年の静寂を経て甦ったその魂。
だが目覚めと同時に、彼の《本性》は解き放たれ――
美しき乙女(※ただし自称:黒歴史製造機)をドン引きさせる。
この物語は、勇者譚でも英雄叙事詩でもない。
“作者が昔こっそり綴ったスケベ設定” が
時を超え、ハイパーリンク召喚されてしまった悲劇である。
もしあなたが、この冥府よりも深い『厨二の闇』に耐えられるのなら――
どうぞ《第零唱・封印解放》へと足を踏み入れよ。
ぷーたと聖剣の喧嘩もようやく収まり、恒例行事となった結界の件を、村長に報告することになった。
「聖剣様にもご同行よろしかったですか?」
ライルが尋ねたが
「いや、オレはいい」
と、聖剣はかたくなに拒んだ。
「そこで聖剣様にも詳しく説明しますので」と、結局は無理やり連れていく形になった。
村長は聖剣の顔を見るなり、にやりと笑い
「昨日はうちの娘が大変お世話になりましたようで。今日はどうしましたか?」
と、手をもみもみしながら言った。
(……はーん。さてはこいつ)
ちらりとこちらを見た聖剣は、明らかにばつが悪そうな顔をしている。
改めて村長にことのあらましを説明すると、それはもう、かなりビックリしていた。
それは聖剣も同じだったようで
「はぁー!? 今は魔王討伐から200年後の世界だとぉ!?」
と叫んだ。
伝説の聖獣にボコボコにされて、普通の人間なら生きてるかもわからないはずなのに、彼は身体中アザだらけという軽症で、ぴんぴんして喋っている。
………なんだか怖い。
ライルがテーブルに広げた地図を、聖剣は食い入るように見つめた。
「確かに……オレの知らない場所が増えてるな」
村長も「こんなところに川ができたんですか? 便利になりますねぇ」と、やいのやいの盛り上がっている。
「まぁ、一つ確かなのは」
と、聖剣は長い銀髪を前から後ろに、大袈裟な仕草でかきあげて、
「そいつがレナじゃないことは確かだな」
と、みさきを指さしながら言った。
「彼女なら、きっとオレに抱きつかれたら、もっと可愛らしい反応をしたはずだ。目に涙を浮かべながら、うっとりとした表情を浮かべてたりだな」
(目に涙……?)
「それって、いやがってたんじゃ……」
「オレたちは、それ以上のことを数えきれないほどしてきたんだ。嫌がってたわけがないだろう。愛し合ってたんだ」
聖剣は同時23才。レナは16か17才ぐらいだったか……年齢的に恋人同士になってもおかしくはないが……
「……どや顔腹立つわぁ」
みさきはどうやら顔に出やすいタイプらしい。その表情に気づいた聖剣が口を開く。
「おいおい……彼女の年なら、こっちでは結婚しててもおかしくない。二十過ぎたらいき遅れの世界だぞ?」
なんかイラッ。
そう思っていたのは、みさきだけじゃなかったようで──
「それって古い考え方ですよね。頭の中おじいさんですよ。今の世でそんな発言は良くないと思います」
どうやらルルの地雷を踏んでしまったようである。
「おじっ……おこちゃまは引っ込んでろ」
「わたしは成人してます! 二十三才です! 子供扱いしないでください!」
ルルが珍しく理性ふっとんで、感情的になっている。
(そういえば彼女も二十過ぎだっけ。私の世界じゃ充分若いんだけどなぁ……)
「二人ともやめてください! 村長の前ですよ!? みさき様も、ボーッとしてないで止めてください!」
「みさきさん! どんな設定にしたら、こんなとんでもない人物が出来上がるんですか?!!」
「!!!」
「………あ」
ルルもさすがに今の発言はやばいと思ったのか、手で口をおさえた。遅いけど。
「なんだ? セッ……テイ……って?」
みさきたちに緊張感が走る。
──そのとき。
「聖剣さまぁっ!」
ノックもなく飛び込んで、凍りついた空気をぶち壊したのは、村長の一人娘、ミーナだった。
大切に育てられたのだろう。いろんなところが、ふくよかである。
聖剣に抱きつこうとしたのを、彼はさっと身を翻してかわす。
「あ、いやオレたちもう帰るから。ほら行くぞ!」
みさきは激しく後悔した。聖剣の設定に、ちょっと“スケベ”と入れたことに。
(ちょっとどころじゃあない。こいつは “ド” スケベだ!)
――読了、誠に感謝する。
封印が解かれし直後から暴れ回る《性格バグ聖剣》はいかがだっただろうか?
作者たる我も、ペンが黒炎を噴き上げ
“えっ、こいつ思ったよりドスケベじゃん” と震えを禁じ得なかった。
――さあ、闇宴はまだ始まったばかり。
次なる幕にて、再び君の魂魄を待つ。




