第18話 封印された記憶と銀の聖剣が交わる歪んだ世界線
――混沌は目覚め、再び記憶の檻が軋み始める。
我が記憶の深奥に眠る、“別世界のワタシ”。
その手が伸びたとき、封印されし過去が囁いた。
『……助けて』
運命の結界を超えたその先に現れたのは──
遥か昔、自らの妄想によって生み出された聖なる災厄。
笑いたければ笑うがいい。この物語は、私の“闇”そのものだから。
「とりあえず、手を離さないで最後まで見てみる」
ぎくしゃくした空気の中、それでも三人で出した答えがこれだった。
前は、結界に触れて“違う世界線の自分”を見た瞬間、怖くなって手を離してしまった。
でも今度は、ちゃんと向き合いたいと思った。
この世界が自作小説をベースにしているなんてもう全部話しちゃったし。恐いものはない……はず。
(もう引き返せないし、引き返さない)
憎らしいほど綺麗な結界に触れ、意識を集中させていく。……もっと深く……。
──映像は前回の続きからだった。
宗教っぽい集会の会場で、無言でうつむいて座っているみさき。
「あー早く帰りたい」って顔してるな……。
母親は、勧誘してきた人と楽しそうに話してる。父親といるときと違って、なんだかすごく楽しそう。
……これは、母が宗教の勧誘を断らなかった世界線。
そして──不登校にならずいじめを受けていた世界線の私。
なぜ違う世界線の記憶を見せられるのか。
ノートの切れ端に書かれていた「助けて」は、もしかしてこのいじめられていた世界線のみさきが出したSOS……?
(……あなたは、一体私に何をしてほしいの?)
心の中でそう問いかけた瞬間。
パリンッ!
──結界が勢いよく割れて、光の粒となって消えていった。
「え?! 割れた……なんで?」
振り返ると、ルルもライルも目を丸くしていた。いや、こっちもびっくりしてるけど。
直後、頭の中に流れ込んできたのは──
『勇者「聖剣」 性格はそうだなー、髪が長くて銀髪でいざというとき頼りになって…普段は…』
うわあああああ、来る!! 黒歴史召喚されるぞこれ!!
「お疲れさまです。もしかしたら割れないと思ってました……」
ライルがそう言ってルルと一緒に近づいてきた、そのとき──ぷーたが「ぷー!ぷー!」と珍しく怒ったように鳴きはじめた。
「え? どうした……」
その直後だった。
ドドドドドドドドド!!!
砂煙を巻き上げて、地響きを鳴らしながら何かが猛スピードで突っ込んでくる。
(うん。黒歴史警報が、私の中でMAX鳴ってます)
「おーまいすーいとーはにー!! 探したぜー!!」
「ひぃぃっ!!?」
勢いよく抱きつかれ、私は硬直する。や、やっぱりーーー!
おそるおそる相手の顔を確認すると──綺麗な銀髪、整った顔、そして背中にはバカみたいにデカい剣。
「これが……聖剣……」
「二年も探し回ったんだぜ!? 一体どこで浮気してたんだ?」
聖剣の顔が近づいてくる。
(ひいいいいい!公開セクハラされる!)
思わず顔を背ける。
「ふぐっ!」
ぷーたの渾身の体当たりが、聖剣の横腹にド直撃する。
そのまま砂埃も舞うほどの勢いで、怒涛の連続アタック。体当たり、体当たり、体当たり。
もう、完全に戦闘モード。助かったけど、なんかここまでボコボコにされてるのは少し可哀想な気もする……。
「おいっ毛玉!やめろってば!」
(小説には書いてなかったけど仲悪いのかな?…………ま、いっか)
「帰りましょうか」
唖然としていた二人だが、みさきのその言葉ではっと我に返ったようだ。
「いや、一応村長に話さないとまずいです!」
「わたしは帰りたいです……ものすごく……」
疲れた顔で言うルル。珍しく彼女と意見が一致したなと思ったみさきだった。
……観測者(読者)たちよ。
最後まで付き合ってくれたこと、感謝する。
あの瞬間、すべては繋がった。
結界、記憶、世界線、そして──聖剣。
過去の我が妄想が、現実を穿つとき、世界は再構築される。
それが地獄の扉を開くことだとしても。