第17話 これは、かつて私が創った世界。──消される覚悟で話そう
その日、我が魂は囁いた。
「語れば終わる」と。それでも私は語らねばならぬ。
これは、禁忌にして絶望の書──“設定ノォト”に記された、ある少女の真実の告白。
世界に否を唱える者よ、どうか心して読んでほしい。
(どうしよう……設定のこと全て話したら天からビームみたいのが私めがけて攻撃してきて消えてしまったり、自ら爆発してしまったら……あ、それはデスゲーム設定か……)
信じてもらえるか分からないし、もしかしたら軽蔑されるかも……。 みさきは地面に指で意味のない絵を描いて気分を紛らわせる。 だが、ここまで何も言わずじっと自分が話すのを待っている二人にも申し訳なくなってきた……。
深くため息をつき、今度は大きく息を吸った。
「この世界、私が作りましたーーーーー!!!!」
『!!!』
突然の大声に驚く二人。
みさきは世界に抹殺されるかもしれないという恐怖から目をつむり、両手を広げて「来るなら来い!」と覚悟のポーズを取った。
「あの……」
ライルがおずおずと声をかけてくる。
「い、生きてる……?」
震える手を見つめながら、そっと目を開けるみさき。何も起こっていないことを確認し、ホッと胸を撫で下ろしたのだが──。
「すみません、ちょっと声が大きすぎてよく聞き取れなかったんですが」
「え?えーと……」
みさきはしばし躊躇った後、仕方ないとばかりに改めて二人に向き直り、ゆっくりと自分の状況を説明し始めた。
──数分後。
「つまりはこういうことですか?」
ルルが石を手に取り、地面にみさきの言葉を整理しながらまとめてくれている。
「この世界とは違う世界から、みさきさんはやってきた」
「封印されている箇所は、昔その場所を物語としてみさきさんが書いた場所である」
「封印を解くには、昔のみさきさんと向き合う必要がある」
「しかし今回の封印に関しては、みさきさん自身も覚えのない過去だった……ということですね?」
「はい……」
(結局全部げろってしまった……)
ルルは少し困惑した様子だったが、やがて静かに頷いた。
「かなり突拍子もない話ですが……実際にわたしも結界に映った映像も見ていますし、多少疑問は残りますが、大筋は腑に落ちます」
今度はライルの方を向き頭を下げた。
「すみません、ライルさん、黙っていて。だから私は救世主なんかじゃないし、様なんてつけてもらえるような人間ではないんです……」
みさきが申し訳なさそうに頭を下げると、ライルは穏やかな表情で答えた。
「実は、なんとなくそんな気がしていました。結界に映るみさき様と、今この場にいるみさき様の見た目も違いますし……」
「ただ……自分たちが作り物だと知ったのは少々ショックでしたが……」
「それは多分違います!」
ライルの言葉にみさきは慌てて、設定ノォトを二人の前に広げた。
「私が作ったのは主人公のレナと聖獣ぷーた、それに勇者の聖剣くらいです。それ以外は封印されている場所の名前とか、特産物とか……あと魔法ノォトに載ってる魔法のことくらいで……その…」
気まずい沈黙がその場を包む中、何も分かっていないらしいぷーただけが、呑気に「ぷーぷー」と鳴いていた。
……まだ、生きている。
天からの粛清ビームは来なかった。
つまりこれは、世界が認めた物語。あるいは、まだ罰を与えるほど興味を持たれていないだけか……。