表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/41

第16話 拒絶の幻想領域(リジェクト・ファンタズム)~崩壊を拒む心の牢獄~

我が魂の奥底に眠りし『記憶』が再び目覚める――

抗えぬ過去、砕けぬ結界。

漆黒の闇に沈む運命さだめの歯車は、静かに動き出す……。


さあ、ときは満ちた。

そなたも共に、深淵の扉を開くがよい――!

「ルルさんはどうしますか?」


ライルの問いに、ルルはほんの少し沈黙した。


「……まだ答えをもらっていませんし、正直、納得もいっていません。だから……もう少しだけ、ご一緒させてもらいます」


そう答えると、ライルの表情がふっと和らぐ。


(あれ? これは、もしかしてラブの予感……?)


「みさき様も、儀式はほどほどにして、そろそろ出発の準備をお願いします」


最近、私が『儀式』という名の現実逃避をしているのを、ライルも完全に察してきたらしい。なんというか、もう私の扱いにも慣れたものである。


出発の準備なんて、本当は何もない。 それでも、あっちをうろうろ、こっちをうろうろしてみたり、「えーと……」なんて意味もなく呟いてみたり、精一杯悪あがきをしてみる。


「みさき様」


低く静かなライルの声に促され、私はついに観念した。


 


「……着きましたね」


道中は休憩を挟みながら順調に進んだ。道が整備されているわけでもないのに妙に平坦で、山も谷も存在しない世界なんじゃないかと疑いたくなるほど。


見渡すかぎりの草原。その真ん中にぽつんと、巨大な結界が異物のように鎮座している。村というより、小さな集落くらいのサイズ。


結界にそっと手を伸ばす。 今回はどんな記憶が見えるんだろう。


――ゆっくりと、意識が記憶の中へと流れ込んでいく。


 


記憶の中の私は自分の部屋にいた。 机の上に広げられた教科書を無表情で見つめている。


そこには、悪意に満ちた落書きがあった。


『猫殺し』『学校に来ないでください』


(えっ……これ、いじめ……?)


心臓がギュッと掴まれたみたいに痛い。胸の奥で苦しい何かが膨らむ。


コンコン。


ドアを叩く音に、反射的に教科書を閉じた。


『また泣いてたの?』


『……違うよ』


『ね、お母さん。みさきのためにもっとお祈りするから、一緒に集会に行きましょう?』


(なに……この会話、知らない……)


母が友人に宗教の勧誘を受けて困っていた時期はあったけど、結局入らなかったはずだ。 教科書の落書きだって、見覚えなんてない。


『うん』


(ちがう……! ちがう、こんなの知らない!)


強い拒絶がこみ上げて、現実へと引き戻された。


 


気がつくと、結界に触れていた手が離れていた。


結界には、ヒビひとつ入っていなかった。


「どうして……割れてないの……?」


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


自然に口からこぼれる謝罪の言葉。 誰に謝っているんだろう。過去の自分? それとも……。


(自分で作ったはずの世界なのに……現実でも、こっちでも……私、結局なにもできてない……)


自己嫌悪で心が押し潰されそうになる。


ぽん、と優しく肩に手が置かれた。


「っ……!」


思わず身をすくめてしまう。


「……言いたくないこともあるでしょう。でも、僕たちにも話してくれませんか? みさき様の力になりたいんです」


そっと顔を上げると、そこにはいつもの優しい笑顔のライルがいた。 その表情を見た瞬間――ずっと我慢していた涙が、ついに溢れ出したのだった。

くっ……またしても忌まわしき『記憶』に囚われたか……。

我が封印せし過去が牙を剥く。

だが、我には導きの使者ライルがおる……ふっ、この闇が消えぬなら、共に堕ちるも一興……。


次章、さらなる深き闇の世界で再び相見えようぞ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ