第11話《封印解放者(キーホルダー)》──禁断の鍵と絶望の研究者
封印とは何か。
解くとは、壊すことか。それとも導くことか。
鍵を持たぬ者は、ただ扉の前で夢を見る。
だが、彼女は違った。夢を抱いたまま、叩き壊されたのだ。
封印の真理に魅入られた少女と、触れるだけでそれを砕く者の出会い。
それは──運命の歪みの始まりだった。
「先ほどは驚かせてしまってすみません。ゼブ王国第一騎士団、第二部隊の副隊長を務めております。ライルと申します」
「えと、封印を解いて回ってます(尻拭い)みさきです」 ぺこりとお辞儀する。
するとルルが、いきなりスイッチが入ったように叫んだ。 「本当なんですか!? わたし、物心ついてからずっと封印について研究してきたんです! 誰にも解けなかった謎をこの手で解くことを、生き甲斐にしてきました!」
「直接、その場面を見られるなんて……光栄です! でも、少し悔しいですね……。 えっと、次は聖獣の森ですか? そこが一番近いですよね!今からいきますか?」
「あー……」 ライルとみさきは、顔を見合わせた。
「申し訳ありません、ルルさん。実はその“聖獣の森の封印”、さっきみさき様がもう解いてしまいました」
「そ、そうですか……。ちなみに、お聞きしますがどうやって解くんですか? 特殊な呪文を? 聖剣みたいな武器を使って……?それとも長期的な儀式を行うのでしょうか?」
黒淵メガネをくいっとしながら、食いぎみにみさきにぐいぐいと近づくルル。
(熱量がえぐい……)
「特に何かするわけではなくて……こう、触るとパリンって割れます」
「???」
ルルは一瞬ポカンとしたあと、少し考え込み真顔で言った。
「つまり、みさきさん自身が、封印を解く“鍵”そのものだということですか?」
こくりと、みさきがうなずく。
「……そうですか。それじゃ、いくら研究しても答えにたどり着けないわけですね」
明らかにがっかりするルル。
「ルルさん……?」
「ごめんなさい……わたし、一緒には行けません」
「えっ?!」
あまりの急展開についていけない。その言葉にライルもみさきも思わず声を上げた。ルルはキッとこちらをにらみながら言う。
「わたしのやってきたことって、なんだったんですか? 封印を解いて、その場所に眠ってる人を助けるために――毎日、必死で…… 他の研究者たちも皆そうです……!」
その目には、悔しさと涙がにじんでいた。
(ほんとごめん……! 土下座で許されるなら何回でもする……!!)
静まり返った空気の中、ルルは小声で何かを呟いていた。 「……解く鍵が……どうして……どのように……」 その声は、まるで呪いの呪文のようにも聞こえて…恐怖さえ感じた。
無理強いはできないが、さすがにここで「さようなら」というわけにもいかない。
『あの!』 みさきとルルの声がハモった。みさきがルルにどうぞと促す。
「やっぱり一度、封印を解くところを一緒に見てみたいです……! それで、自分を納得させます!」
(お、おう……)
こうして、ルルが「一度見て納得したいから」という理由で旅に加わることになったが、不安しかない。
封印を追い、研究に人生を捧げた女性。
そのすべてを、一瞬で終わらせる存在との遭遇。
嘲笑か、祝福か。
“選ばれなかった者”の叫びは、誰にも届かない。
……届かなくても、観測はできる。