逃げなくちゃ!
おなかいっぱい、もう食べられないよ…。
そんな幸せな思いはすぐに一転する。そうだった、満腹になったらいけないんだ! 今すぐ逃げなくちゃ!
真夜中に、命がけの冒険だ。そーっと忍び足で…。
チャリリン、チャリリン。
うわっ、お腹がなってる!
あわててその場で固まるけど、ご主人様が起きる気配はない。
…よかった。それじゃ今のうちに…。
チャリリン、チャリリン。
またお腹が! しかも、ご主人様がおきちゃったよ!
「うん…? あれ、ハナハナ、こんなところに置いたっけ?」
こうなりゃやけだ! あたしは短い手足で必死にその場から逃げ出した。ご主人様の驚きようはものすごく、悲鳴をあげてひっくり返ってる。チャンスだ!
なんとか窓まで逃げて、あたしは最悪なことに気がついた。一人じゃ窓を開けれないよ!
「ハナハナが、生きてるなんて!」
こうなったら…。
「ご主人様、どうかあたしを割らないで!」
自分でも驚いた。声が出せた! これならご主人様と話ができる!
「割らないでって…あ、それで逃げようとしてたのか」
アハハとご主人様が笑った。
「何がそんなにおかしいのよ!」
こっちは命がかかってるのに、なんで笑うわけ!?
「ごめん、ごめん。でも、割るなんてもったいないことしないわよ。ほら、ちょっとこっちにおいで」
「そんなこと言って、油断させるつもりでしょ!」
でも、あたしは重いからだで逃げることもできず、すぐにご主人様に捕まってしまった。そして…。
「ほら、ここからお金取り出せるのよ」
お腹がスースーすると、そこからじゃらじゃらとお金がこぼれて落ちていった。ご主人様は満足そうだ。
「やっぱり、いっぱいたまってた〜♪」
「で、でも、貯金箱って、割るもんじゃ…」
文字通り固まってしまうあたしに、ご主人様は笑いながら答えた。
「それは昔の話でしょ? 今の貯金箱は、割らずにお金取り出せるようになってるのよ。そうじゃなくても、おしゃべりできる貯金箱を割っちゃうなんて、そんなひどいことしないわ」
そう言ってご主人様は、花がらの豚の貯金箱、つまりあたしを愛おしそうになでなでした。よかった、割られないんだ。それどころか、ご主人様ともっと仲良くなれたんだ。冒険には出られなかったけれど、あたしはお金の代わりに、幸せでお腹がいっぱいになるのだった。