はるばる来たぜ、日本へ
いつから、ここに居るのだろう。
ここなら吹く風が心地良く、いつまでも、いつまでも居続けていられそうに考えたから、やって来たのだ。
上を見上げれば青空が広がり、下を見渡せば濃い緑の熱帯雨林が遥か彼方の地平線まで、びっしりと埋め尽くされている。
熱帯雨林の中で、少し頭を出した巨樹の突端に、ボクは居る。
「つかまっている」というか、
「腰掛けている」というか、
「ぶらさがっている」というか。
とにかく、ボクは、だいぶ昔からここに居場所を定めていた。
そして、この場所に移って来てから、ずっと風に吹かれながら「休んでいた」。
そう。
来る日も来る日も、ボクはずっと何もしないで、ただ風に吹かれていた。
何も考えず、何も意識することもなく。
ボクは、「人間たち」から「神」として祀られていた。
その代わりに、ボクは「神」として祀ってくれた「人間たち」のために「働いてきた」。
もう、千年くらいは頑張って来た。
でも、ある時、何だかとても、つまらなく思えて来たんだ。
何が、どうということではないのだけれど、
今までの「日常」を、これからもずっとずっと続けていくことが、何だかとても退屈に思えて来たんだ。
だから、しばらく「お休み」することにしたのさ。
ボクは、もともと、谷に棲んでいた。
とてもジメジメして暗い所さ。
別に、ジメジメして暗い所が嫌なわけじゃない。
むしろ、今でも好きだ。
だけど、このまま谷や「人間たち」の住んでいるところに居続けるのが嫌に成ってしまったんだ。
それで、今までとは全然違う場所に、ボクは居場所を移そうと思ったんだ。
だから、森の中からポコッと頭を出した樹のテッペンだったのさ。
ああ。
また、風が吹いて来た。
風に吹かれているということが、これほど気持ちが良いなんて、思ってもみなかった。
とにかく、次から次へと「仕事」が有ったからさ。
「生きていく」ってことは、「忙しい」のさ。
だから、風に吹かれた時の感覚を楽しみ、味わえるような気持ちに成れなかったのさ。
そうだ。
「最後の仕事」が終わってから、もう、どれくらいたったのだろう。
さすがに百年は過ぎてはいないけど、1年か2年はたっているかもしれない。
でも、それくらい休んでいても良いと思う。
ボクは、本当にシャカリキに成って「働いてきた」んだもの。
「戦ってきた」んだもの。
今は、すっかりのんびりしている。
時たま、「人間たち」がお供えしている「もの」を「食べ」に行くくらい。
だから、あとはずっと風に吹かれながら、何も考えず、意識もしないでいるのさ。
お。
おー。
あんな遠いところから「合図」が上がった!
「人間」からの「合図」だ。
「人間」と言っても、とても恐ろしいヤツだけどね。
あのあたりの呪術師は、誰だったかなぁ?
だいぶ、呪文の渦が鮮明だからな。
おお。
既に、いくつか「神」たちが集まって来ている。
おや?
アイツは、結構、強力なヤツじゃないか。
ボクと同じように、今は、どこにも「こめられて」いなかったんだな。
あんな強い「神」が呼び寄せられるなんて、よほど強力な「呪物」を作ろうとしているんだな。
へぇ。
何だか面白そうだな、ウフフフ。
いったいどんな「呪物」を作っているんだろう。
ちょっと見物してみるかな。