生と死と愛と
霧に白く塗り潰された夜
私は生まれた
月の光などの無い闇に向かって
私は叫んだ
生への憧れと恐怖のために
母への感謝と恨みのために
羊水にまみれた私の体を持ち上げ
「男の子です」と彼は言った
無知な私に大きな未来が描かれた
私に過去などなかった
生まれるまでの過去など存在しなかった
いや、分からなかった
この世に生を受けるときに
すべてを忘れ去っていた
自ら計画したことも
やらなければならないことも
私の生きる目的すべてをも
母の腕に抱かれ
安心できるその中で
いつしか時が過ぎていった
自らの目的を忘れ
育ち始めた私には
焦りさえもなかった
ただ生きて行くために
最小限の努力しかしなかった
十歳を過ぎた頃
死を怖れ始めた
身近な者の死の予感が
私を苦しめ出した
孤独、そして絶望
愛する者を亡くす時の不安と痛み
人は何のために生きているのか
なぜ私は生まれてきたのか
愛する者との別れを
なぜに経験しなければならないのか
来る日も来る日も
私は死というものの姿を考えた
22歳の時に父は逝ってしまった
23歳に祖父と祖母が
人は死んでいく
そして後に残るものは
思い出
すべてが思い出となり
残った者達に問いかける
お前は生きている
生きているってことは
辛いこと
楽しいこと
すべてを感じられるってことだと
24歳に
私は一人の女を意識した
それをはじめは愛だと知らなかった
ただ大切に思う気持ちがあった
話すことも寄り添うこともない
精神的な愛だった
一方通行の愛だった
彼女には愛する人がいた
私には振り向くはずのない人を
遠く見つめているしかなかった
叶う望みもありはしない
苦しく惨めな愛だった
その場だけの楽しみと
彼女の笑顔だけが
私の思い出となり残っていった
自分の想いを伝えることに
私には勇気が必要だった
それは乗り越えなくてはならない壁だった
私の心が粉々にならないうちに
彼女の友達という一言で
片思いは終わった
愛は思い出となり
過去へと流れた
しかしその愛も生きているからこそ
感じられた
そして生きている限り
新たに感じることもできる
生きている限り思い出を創ることが出来る
死という一つの終わりが来るまでの間
人は感じ続ける
喜びも楽しみ怒りも悲しみも
憎しみも痛みもすべては思い出となり
過去へと流れていく
そして新しい思い出を創るために
生きることに希望を持ち
明日を夢見て
前進する
自分のために
夢のために
愛する者の為に
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