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りんご飴と悩んで結局買ったぶどう飴を頬張りながら、商店街を歩く。もちろん、右手はリオ様と手を繋いでいる。それにしてもリオ様の背が高いから、手を繋ぐとなると割と手を上げなきゃいけなくて大変だ。まあ、腕の力を抜いてもリオ様がしっかりと握ってくれているので、大丈夫なんだけども。
私達は、ラディ様を先頭に商店街の色んなお店を渡り歩いていた。ラディ様は鑑定を持ってないはずなのに目利きが出来るらしく、色々と商店にあれそれ注文を付けながらたくさん買っている。どんどんマジックバックに野菜やら果物が入っていく。吸い込まれていくその様は、見ていてとても面白い。ついでに、野菜とかの相場もわかって、私も嬉しい。
アマデオ様が、商店街に入る前に「鑑定の訓練になるから野菜とか商品みてごらん」と言ったので、先生の言う通りたくさん見て回る。買ってないのに人のものを見るのはいいのか、と聞いたが問題ないらしい。むしろ買い物するなら鑑定は必須だよ、とケラケラ笑われてしまった。別にする気はないけど、悪いこと出来ない世の中だな、と思ったら、そもそも鑑定持ちは珍しいらしい。それに鑑定持ちが偽物だと騒いでも、それを証明する手立てとなると面倒くさい。だから自衛程度にしかならないんだとか。自衛できるだけでもすごいと思うけどな、と言うとにこにこ笑みを向けられた。
なお、不思議なことに、野菜はだいたいが知っている名前だった。おお、こんなところにも先達の気配が。
「これだけ買えば十分でしょう。マリア様、もし野菜が萎びそうになったらアイテムボックスに入れてくださいね」
「いいですよ。今から入れますか?」
「いえ、そうなるとマリア様のお手を煩わせることになるので、今はこのままで構いません。食材が無駄にならないという保証があればいいのです」
「そうですか。ちなみに、お肉は現地調達オンリーですか? 私のアイテムボックスなら、時間停止機能なのでお肉も腐りませんよ」
「それは魅力的なお誘いですね。逆に、狩ったヤママバトやホーンラビットを保管していただく方が、経済的ですかね……」
ラディ様が悩み始めてしまったが、私のアイテムボックスは容量の1割しか使っていない。まだまだ空きはあるので問題ないのだ。私は食べ終わったぶどう飴の串をアイテムボックスに放り込んで、手と口にクリーンをかけた。
もぐもぐと屋台のフランクフルトのようなものを食べていたアマデオ様が、首を傾げてこちらを向いた。どうでもいいが、森人族ってエルフなのだ。アマデオ様のお耳も長いし、エルフらしくキラキラしたお顔だ。そのファンタジーあるあるなエルフが、お肉に齧りついている姿は何故か涙を誘う。いや、好きなもの食べてくれていいんだけども。エルフといえど、ベジタリアンじゃないんだね……。
「僕もヤママバトを狩るし、わざわざ肉屋で買わなくてもよくない? 僕達、肉に困ったことない気がするよ」
「それもそうですね。無駄な出費をする必要はありません。では、今度外に行ったときに肉の調達をお願いします」
「いいよぉ。でもマリアちゃんがいるならお肉確保できるし、お肉の出ないダンジョンに潜るのもアリだね」
「ああ、ゴーレムダンジョンとかな。倒すのは面倒くさいがリターンが大きいダンジョン」
「あとは、もっと海に出るのもいいねぇ。護衛依頼受けてついでに移動も経済的じゃない?」
詳しく話を聞いてみると、ダンジョンとは魔物の出るスポットだが、そのスポット内では魔物を倒すと、魔物の一部だけが残されるらしい。それをドロップと呼び、それを集めて生活している冒険者もたくさんいるようだ。3人も難しいダンジョン攻略もしたことがあるらしく、冒険者ランクの級数が高いのはそういった理由からのようだ。
そのダンジョンの中でもゴーレムダンジョンは、ゴーレムしか出てこない。そしてゴーレムのドロップは、鉄や銀といった鉱石らしい。奥に居るゴーレムを倒すと、宝石なんかもドロップするそうで、実入りがいいらしい。ただ、食べ物は一切ドロップしないから、どれくらい移動速度を上げられるか、食べ物を持ち込めるかが勝負らしい。……私ならアイテムボックスいっぱいに食べ物入れられるし、異世界通販があれば追加も可能だ。連れてってもらえるなら、相性めっちゃよさそうだね?
海も似たようなことが言える。船の積載可能重量というものがあるし、食べ物をどれだけ乗せられるかは大きい。足の速い野菜や果物がないと、やっぱり病気になるみたいだし。海を渡る時に船を使うのは一般的な移動方法なので、食糧問題がある程度解消されるのは大きいらしい。
「え? リオ様の国、海の向こうなんですか?」
「正確には、ここは半島になっていて近くにはトゥルスの街くらいしかない。だから俺達も海を渡ってきた」
どうも大きな大陸の出っ張りのようになっている半島に、この神子の塔を始めとしたトゥルスの街があるらしい。なら陸続きのところから入ればいいじゃないか、という話なのだが、その陸続きのところにはやたら高い山脈が連なっていて、簡単には山越えできないらしい。その山越えしたところで大森林が広がっているので、人里に辿り着くのは至難の業なんだとか。
では、トゥルスの街ではどう生活しているかというと、転移の魔法陣を利用して他の場所から物の移動をしているらしい。また、トゥルスの街を囲むように農耕地や酪農地があって、そこから新鮮な野菜や乳製品などが集まってきているらしい。そして、そこを更に囲むように森林が広がっている。いくつか海辺へつながるルートは確保しているらしいが、冒険者の護衛は必須なんだとか。そこからも物の流れがある。
トゥルスの街やこの半島の説明を受けていると、にこにこしているのに目が笑っていないアマデオ様が私に笑いかけた。
「帰りが憂鬱だったけど、マリアちゃんがいるなら僕達は大丈夫だね。もう干し肉だけの日々は要らないよ……」
「転移の魔法陣、使わないんですか?」
「あるけど利用料が死ぬほど高い。いくら僕達が高給取りとはいえ、あれは無駄遣いに入ると思うなぁ。船旅だって安くはないのに、その何倍だっけ?」
「約50倍ですね。一般人には到底払いきれない金額です」
仮に船旅が10,000円だったとして、その50倍の転移の魔法陣は500,000円。確かに払うのもバカバカしい金額だ。多少我慢して船旅をした方が、安上がりである。きっと転移の魔法陣は、移動時間も買うことになるから高いのだろう。保守点検とか大変なんじゃなかろうか。神子の塔で普通に転移の魔法陣を使っていたけれど、あれはオーバーテクノロジーだったんだろうな、きっと。
そんなことを話していると、可愛らしいカフェのようなお店に案内された。さっき色々食べたからまだお腹は空いてないけど? と首を傾げると、リオ様が手を繋いだまま、反対の手で頭を撫でてきた。
「お茶をしながら、さっき買った召喚魔法陣のカタログ見よう。俺のステラに合う召喚魔法陣が売っているか確認する」
「宿だと集まるにも椅子が足りないからね。カタログ見るくらいならカフェで十分」
「お高いカタログでしたが……?」
「マイナーなカタログを冊子にしたんだから、そんなもんじゃない? それにヴィルの野生の勘や僕の気配察知から、逃げられる人がいるなら見てみたいね」
お高いものをカフェという人の目のあるところで広げていいのか、という疑問はアマデオ様に笑い飛ばされた。あとリオ様、野生の勘とか言われているぞ。それはいいの? いいんだ。それなら、まあいいけど。
貨幣価値を教わってから気付いたのだけれど、あのカタログは銀貨1枚、10,000イェン。つまり、日本円にして約十万円の価値があるのだ。そんなもの、気軽にポンと買えてしまうリオ様達の金銭感覚が怖い。そして何の疑いもなく私に渡してしまう感覚も怖い。いや別に、悪いことしようと思ってないけどね……!
とある転生者「異世界転生ヒャッハー! はっ? 周り何もねぇじゃん、人里イズどこ? ……森を抜けたと思ったら山越えか、いいよやってやんよ!……また森かよ、ホントどこに人里あんの。あ、原住民はっけ……――」
とある転生者「異世界転生といえば、まったりスローライフだよね。うん? まず開墾からスタート? 大変だけどがんばるか。……森を切り開かないとかぁ、大変だ。……あの、ぼっち耐性があっても誰も来ないし原住民みたいな生活までは求めてなくてですね」
とある転生者「うひょー、これはまさかのMNN! ちょっと神様? ポイントの振り直しがしたいんですが? できない? あ、そう。詰んだ……」
※これはフィクションです。




