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第5話 ひとりぼっち誕生日回避

「あれ、千秋の冷蔵庫、ビールがない」


 (人の冷蔵庫を勝手に漁ろうとはこれいかに)


 はあ、と心の中でため息を吐く。朝ごはんを提供したはいいものの、なぜか風音は帰ろうとしなかった。

 帰ったかと思えば、着替えに行っただけで、そのまま時刻は11時を過ぎている。迷惑ではないから良いのだが。


「朝からビール飲まないでくださいよ」

「あーいやいや、そういうのじゃなくてさ、千秋ってビール飲んでなかったっけ?」

「まあ、未成年ですし」

「えっ!?」


 風音が驚いたように目を見開く。しかしすぐに納得したように頷いた。


「そっか、私が21だからまだ19か」

「そうですよ、なので買えません」

「......私の記憶が正しければ誕生日再来週?」

「あっまあ、はい」


 (先輩、俺の誕生日覚えてくれてたんだ......)


 数年話してもいなかったというのに、覚えてくれていたことに少し感銘を受けた。


 (というか、もう半月後か......)


 思っていたよりも誕生日が間近にあることを改めて実感させられる。


 あんまり他人からも祝われないし、祝われたとしてもおめでとうぐらいだ。

 虚しくなるなと思い、自分から祝おうとは思えずコンビニのショートケーキを買って食べているだけである。

 なので誕生日が特別な日という感覚は子供の頃に比べて薄れていたようだ。


「それならその時は私が祝ってあげよう、おすすめのビール買ってきてあげるよ」


 風音はドヤ顔で言う。


 思わぬ提案に胸が少し高鳴った。これでひとりぼっち誕生日は無事回避である。


「えっ本当ですか!? 宅飲みってやつですか?」

「そうそう、あっアレルギーないよね?」

「多分ないです」

「オッケー、先輩の奢りだから安心して」

「ありがとうございますー!」


 ビールってどんな味するんだろう、酔うってどんな感じなんだろう。

 素直な疑問が頭に浮かんでくる。


 そして昨日の出来事も頭に浮かんだ。すると段々と不安になってくる。

 (ああいう風にはなりたくないな......うん)


 飲みすぎなければああはならないだろう、とほぼ願いに近いがポジティブに考えることにした。


 ***


 もう時刻はちょうど12時である。しかし風音はまだ帰っていなかった。

 このまま夕方までいるそうだ。別に誰も部屋に来ないし、外出の予定もないし良い。

 

 お互い対戦型のゲームをしていた。なお、風音は全敗中である。


「ああ、また負けたー」

「先輩ゲーム弱すぎません?」

「反論したいけど反論できない......」


 風音はスマホを開き、時刻を確認した。


「あっえっと、休憩がてら昼ごはん食べる?」

「そうですね、お腹空きましたし......コンビニで何か買ってきますか」


 千秋は財布を持って立ちあがろうとした。しかし風音は腕を掴んで静止した。


「まあ、待て、後輩くん、先輩の手料理を食べたいとは思わないかね」

「え?」


 風音は自身に満ち溢れた笑みをしている。


「作ってくれると?」

「もちろん、味は......まあお楽しみに」


 何とも不安な回答だが自信満々な顔である。


 風音が昼食を作ってくれるようだ。


 千秋とて即答で食べたいと言いたいところだが、謎の罪悪感がそれを邪魔していた。


 (なんか悪いな、わざわざ作ってもらうなんて)


「いいんですか?」

「もちろん! 逆に食べさせたい」


 結果、食べたいという欲が勝ち、お願いすることにした。


「ではよろしくお願いします」

「よしきた、先輩にお任せあれ、後輩くんはここで楽しみに待ってて」


 そう言って風音はリビングで昼食の準備をし始めた。


 なぜか自然と緊張してくる。


 落ち着かない気持ちになり、スマホを触るが、良い匂いが鼻腔を掠めてそちらの方に意識がいってしまう。


 そういえば高校時代にも先輩の手料理食べたことがあったなと千秋は思い出した。


 (本当は友達のために作ったやつらしいんだけど、その友達が体調不良で早退しちゃったから、余りの分俺にくれたんだっけ、普段は学食かコンビニ使うけどその日だけ高校生活、最初で最後の手作り弁当だったな)


 たしか絶品ですぐに完食してしまっていたような気がする。

 その中に入っていたハンバーグは非常に好みの味だった。


 楽しみという思いが強くスマホには全く目が行っていなかった。


 そうして待つこと約15分。


 エプロンをつけた風音がドアをノックして部屋に入ってきた。


「お待たせ、じゃあ食べよっか?」


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