第4話 酔っ払い?
「違います、人違いです」
「やっぱりそうだよねえ? 声とか姿とか千秋だもーん」
懸念していた通りに千秋は風音にだる絡みされることとなった。
(何でこの人こんなに酔ってるんだ)
見ている側が心配になってくるものである。
お客さんは風音以外もういない。先ほどいたお客さんも会計を済ませて出ていった。
問題ないと言えば問題はない。ただ面倒である。
「いやあ、こんなところで何してるのお? うちの高校バイト禁止だよねえ?」
「大学生なんですけど......」
「ふわああん、そうだっけえ?」
(ふわああんって何だ、もうダメだ、ついていけない)
千秋が頭を抱えていると先輩がやってきた。
「あっ先輩助けてください」
「いいよ、助けてあげるぅ」
「風音先輩のことじゃないです!」
「お前ら知り合いなのか?」
「ああ、まあ、はい」
「千秋くんの彼女ですぅ!!」
「違います! ただの隣人です」
そこからは色々と大変だった。先輩の誤解を解いたり、風音のだる絡みに付き合ったりと......。
他にお客さんがいなくて本当に良かったといったところである。
風音は鳥もも串のタレを2本頼んだだけであった。
そのあとは「クレーム処理だ! 頑張れ!」と風音の相手を任せられてしまうことになったわけである。
「もうそろそろ閉店時間ですよ、先輩」
「ふにゃふにゃふにゃ」
(ダメだ、この人寝てる!)
「あー、家隣なんだし送ってってやれよ」
「あっでも後片付けとか......」
「気にすんな、あとはこっちでやっとく、ていうか大体いつもそうだろ?」
「感謝してます、ありがとうございます」
それからパパッと身支度を済ませて先輩を送ることにした。
「先輩、歩けます?」
「うーん......」
起きたのか眠そうに目を覚ます。
「歩けます?」
「無理い......おんぶしてえ」
「......はい」
***
「先輩飲み過ぎですよ? どうしたんですか?」
「......」
どうやらもう寝てしまっているようだ。耳元で寝息が聞こえる。
風音は小柄である。だからそんなに重くはなく、すぐに家の前に着いた。
「先輩着きましたよ」
「......」
相変わらず風音は寝ている。鍵をください、と言っても応答はない。
千秋は風音の物品を漁って鍵を見つけようとしたが、純粋に女子の部屋に入るのも気が引けた。
「......まあ仕方ないか」
千秋は自分の部屋の鍵をポケットから取り出してドアを開けておんぶしたまま中に入った。
靴を脱いで風音の靴夢脱がす。
「先輩ー!」
「......」
相変わらずぐっすりと寝ている。
(何でこんなになるまで飲んだんだか......)
そして自分のベッドまで行き風音をそこに寝かせた。
床は色々と散乱しているがベッド自体は綺麗にしているので多分大丈夫である。
(俺はソファで寝るか......)
そう思い、リビングへ行こうとするが風音の声がそれを止めた。
「千秋......」
名前を呼ばれて後ろを振り返る。しかし風音は目を瞑り寝ていた。
(何だ寝言か......朝弁明するの大変だな、絶対)
風音の寝顔はどこか繊細で可愛らしかった。長いまつ毛にサラサラとした髪が一際目立っていた。
さらに無防備な姿である。その姿に千秋は思わず見惚れていた。
「明日は特に予定がなくて良かった」
風音はソファで眠りについた。
***
弁明が大変なのはいうまでもないことだった。
翌朝、顔が枕で思いっきり叩かれたことによって目覚めることとなる。
「千秋のばかー!」
何度も何度も寝ているところに枕を叩きつけられる。
(......夢か? いや現実だ)
ここを現実と理解するのにそう時間はかからなかった。起きようとしたところもう一発痛いのを喰らう。
「......おはようございます」
「おはようございます、じゃないわよこのスケベ!」
風音は顔を真っ赤にしている。風音も起きたばかりなのか寝癖がピョンと跳ねており可愛い。
(ああ、やっぱり色々勘違いしてんじゃん)
「女の子お持ち帰りしてんじゃないわよ、うう......後輩くんのスケベ! エッチ! 変態ー!」
(朝から罵倒のオンパレードですね、はい)
「先輩、落ち着いてくださ......」
「落ち着けるかー!」
もう一発顔面にクリーンヒットした。
千秋は何度も弁明しようとしたが完全に暴走しており風音は聞く耳を持たなかった。
話を聞いてくれたのは千秋が風音の頭をチョップしたあとだった。
「いたっ......」
「話を聞いてください」
「......後輩くん酷い」
風音は若干涙目になってチョップした場所を手で押さえている。
それからそのまま千秋は事情を説明した。
最初は疑いの目で見ていたが、だんだんと昨日のことを思い出してきたのか、風音は顔を青くした。
「......そうじゃん、昨日そう言えば......えっと、その、はい」
少しバツが悪そうにして目を逸らした。
「俺のこと信じてくれました?」
目を逸らしながら風音は頷いた。
「......ごめん、あとありがと」
「まあいいですよ、それに2日酔いで頭痛いんじゃないですか?」
「動きすぎてさらに酷くなった......」
「はあ、コンビニのですけどしじみ汁飲みます?」
「お願いします」
千秋は、これはチャンスではないか!? と思い、少々風音を揶揄うことにした。
「そういえば、何の勘違いをしてたんですか? スケベとか突然言われて困惑したんですけど」
風音は、またまた顔を赤くして、そういうところだよ! と返した。
色々と忙しい人である。