表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

第2話 連絡先交換

「大丈夫......?」


 千秋は怪我していたところを叩かれて悶絶し、現在風音の部屋で治療を受けている。


「はい、ほら、服脱いで」

「えっガチっすか」

「そんな恥ずかしがんなって」


 風音は再び背中を叩こうとするが寸前で止めた。

 

「(危ない......危ない......)」

「なんか言いました? 先輩」

「ああ、何でもない、それより早く脱いで」

「シャツも?」

「もちろん!」


 千秋は渋々上半身を覆うものを脱いだ。

 

 (あれ? なんか筋肉ついた? 前までヒョロだったのに......)


 現れたのは以前とは比べ物にならないほどガッシリとした肉体、ある程度固くしまった筋肉。

 

 風音は少しぼーっとしていたのか千秋の声で我に帰る。


「先輩、やるならさっさとしてください」

「ああ、ごめんごめん」


 やはり千秋の背中に大きな紫のあざが1つあった。

 とても痛々しいものである。


「これどうしたらこうなるの?」

「ベットから落ちました」

「ああ、なるほど......」


 風音は湿布を2枚用意して千秋の背中に貼る。


「はい、これでオッケー」

「ありがとうございます」

「後でちゃんと病院行くのよ? 後輩くん、いつも怪我した時大丈夫って言って済ますじゃない」

「......はい」


 ***


「先輩はどうしてここに引っ越してきたんですか?」

「ん? 内定貰ったからどうせなら会社に近いところの方が良いかなって、それでここの部屋が案外良い物件だったから」

「それ大学通学大変じゃないですか?」

「ううん、そんなにかな、電車で45分くらい」

「ああ、まあまあですね」


 千秋と風音は思い出話にふけったり世間話をしたりした。ここ数年話したくても話せなかった。

 懐かしいやり取りに千秋は思わず微笑んでしまう。


「何ニヤけてんのよ、千秋」

「いやあ、こうして話すのも久しぶりだなって思いまして」

「......それもそうだね、懐かしいや、みんな何してるんだろ」


 千秋はふと、風音の卒業式のことを思い出した。

 何かを言いかけていたがクラスのみんなに呼ばれて遮られていた。あれは何を言おうとしたのだろうか。

 千秋は気になって問いを投げかけた。


「先輩」

「ん? どした?」

「そういえば卒業式の日のこと覚えてます?」

「うん、まあね、高校の卒業式なんて1回きりだし」

「そりゃそうですね、それであの時何を言いかけたのですか?」

「ああ、えっと、どの時だっけ?」

「ほらあの桜の木の前で話していた時です」


 風音はあの時のことを思い出す。

 (あっそういえば私あの時......まあ昔の話だし言わない方がいっか)


「別に大したことないよ、頑張れって言いたかっただけ」

「なるほど、そんなこんなで今や大学生です」

「私ももうすぐ社会人だー!」


 風音はそう言って荷物を下ろして背伸びをした。


「よし、あとはこの段ボールを開けて終わりだ」

「ですね、やっと綺麗になってきました」


 8個くらいあった段ボールも残り3個となっている。

 2個は母の食品の仕送りらしいのでまだ開けなくて良いようだ。


 つまり残すところあと1個。


 風音は張り切って段ボールから数十冊の本を取り出した。とても重いだろう。


「先輩、それ俺がやりますよ」

「ああ、いいよいいよ、これくらい」


 そうは言っているものの足がぷるぷると震えて明らかにきつそうである。

 やはり不安だ。

 

「せっ先輩?」

「だだ大丈夫!」


 千秋はヒヤヒヤしながらそれを見守っていた。

 そして案の定危惧していた事態が起きた。


 風音は荷物で隠れて足元があまり見えておらず、足元にたまたまおかれていた服を踏んでそのまま後方へ滑ってしまった。


「きゃっ......」


 千秋はすぐに駆けつけて風音の背中を支えた。

 (危なっかしいな、こういうドジっぽいところも変わっていないんだな)


「危ないですよ......」

「ごっごめん......あっありがと」


 風音は頬を赤くした。

 (まさか私が守ってもらうなんて......)


「たくっ.....重いのは俺が運ぶので先輩は軽い荷物を持ってください」


 頼もしくなったその背中を見ながら小さく、うん、と返事した。


 ***

「今日はありがとう」

「どういたしまして、本当に1人でさせなくてよかったですよ」

「だから言ったじゃない」


 風音は親指を立てて超絶ドヤ顔をした。

 (可愛いな、おい、ってそうじゃない)


「褒めてないです、誇らないでください」


 千秋からは風音に対する好意は消えていた。流石に数年も経てば変わっているものである。

 しかし千秋から見て風音が可愛いと思うのは事実。大学でもある程度モテているだろう。

 彼氏ぐらいできてそうだよな、と千秋は思ってなぜか不安に駆られるのだった。

 

「先輩」

「ん? どした?」

「あの、彼氏ってできました?」


 真剣な口調で聞くと流石に何かと気まずいので、少しいじるような雰囲気で話す。

 そう聞くと、風音はバツが悪そうに視線を逸らした。


「......いない、というか彼氏いない歴イコール年齢」

「まあ、そうですよね、世話が大変ですもんね」

「子供扱いすな!」


 風音はぷくっと頬を膨らませている。そういうところが子供っぽいのだが置いておこう。

 千秋はなぜか安堵した。風音先輩に対する好意は消えていたのだが、高校時代の名残なのかもしれない。


「てか、そういう君は?」

「......彼女いない歴イコール年齢です」

「人のこと言えないじゃん!」


 

 そして千秋は自分の部屋に戻ろうとした。しかしそれを風音が止める。


「それではこれで......」

「あっちょっと待って」


 風音はスマホを取り出した。


「あのさ......連絡先、よかったら交換しない......?」


 あの時言えなかったことの1つである。

 (まっまさか先輩が言ってくれるなんて......!)


 もう遅い感が何とも否めないが千秋もポケットからスマホを取り出して連絡先を交換した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ