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第10話 伝えたかった想い

 ピピピピッとアラームが鳴った。


 それを千秋は消そうと手を伸ばす。


 しかしその時、体制を崩しそうになり、慌てて力を入れてベッドにまで戻った。


「あっぶね......てかこんなことよくあるよな、気をつけないと」


 誕生日だと言うのに実に目覚めの悪い朝だ。

 千秋はアラームを消して朝の支度をしに行った。


 誕生日だからと言ってもやることは変わらない。


 午前は大学の講義だ。


 まあと言っても午後からは風音が来る。少し心躍らせながら、支度を終えた千秋は大学へ向かった。


 ***


「誕生日おめでとー」

「ありがとうございます」


 午後5時ごろ、インターホンが鳴りドアを開けると風音が立っていた。

 2つの袋を持って。


 チラリと見ていれば一方の袋にはビールとおつまみが入っていた。

 もう一つは......よく見えない。


「あっ後輩くんまだ飲んでないよね」

「まあはい、朝から講義だったんで」

「ふふん、よろしい」



 お邪魔します、と言って風音は中に入っていく。


「あっそういえばご飯は持ち帰りしてきましたー」


 そう言ってもう一方に袋をゆらゆらと揺らした。


「それは?」

「餃子、これがビールと合うんですよね」

「まじありがとうございます」

「いいよ、別に、私も好きでやってるだけだし」


 そう言っているがこちらとしてはだいぶありがたい。

 誕生日をこうやって祝ってくれるような人なんてそうそういない。


 まあ風音は誰かとビールが飲みたいというのがあるのかもしれないが。


 果たしてビールはどんな味がするのだろうか。酔うってどんな感覚なのだろうか。

 様々な好奇心が溢れてくる。


 まだご飯を食べるのも少し早いので風音と千秋は1時間ほどゲームをした。

 そして6時を過ぎた頃、風音はフライパンで餃子を温め直し、ソファー前のテーブルに並べた。


 お酒と共に。


「ここで食べるんですか?」

「うんうん、お酒を飲む時はテレビに近い方がいいからね」

「......絶賛今テレビ故障中ですけど」

「えっまじ? まあいっか」


 そして千秋たちは座った。


「それじゃあ後輩くん誕生日おめでとー! かんぱーい」

「かっ乾杯」

 

 缶の蓋を開けるとプシュッと音がした。


 初ビール、謎に緊張する。今まで飲んだことがないものだ。


 俺はそれを少し口に含んだ。


「どう? 初ビールの感想は?」

「......麦ですね」

「あはは、そっか、それで餃子の方も食べてみて」


 俺は箸を手に取り、餃子を食べた。


 ......いや何これ、うまい。というか合う。

 俺は自然とビールを飲んでいた。


「ふふーん、美味しいでしょ、ビールにはおつまみが不可欠なんです」


 風音もそう言って餃子を取って食べた。


 なんだろう。これは色々と癖になりそうである。


 次々に箸が進む。


「思ったよりも美味い......」

「でしょでしょ、飲み過ぎには注意だけどね」


 若干酔ってきたのか風音のテンションは上がっている。


 (この感覚は案外いいかもしれない......たしかに飲み過ぎには注意だな)


「この前みたいになりますもんね」


 少しいじるようにしてそう言うと風音は酔いのせいもあっていつもより顔を赤くした。


「あっあれはちょっと色々あっただけで、その、いつもはあんなんじゃないんだからね!?」

「知ってますよ、冗談です、それでもあれは飲み過ぎですけどね」

「むう......」


 酔った実感はないが明らかにいつもより高揚している。

 ......これが酔っているというやつだろうか。


 久々に千秋たちは高校時代の思い出に花を咲かせた。


 思えばこういう場はなかったかもしれない。

 懐かしい。気分が高揚しているのもあって風音と話しているのがとても楽しい。

 

 (でもなんだろ......この感じ、これも酔い? ......そうだよな、きっと)


 

 そして風音は卒業式の話を切り出した。

 一瞬胸がドキリとしてしまう。

 ......風音に想いを伝えられなくて後悔した日。


「そういえば後輩くんあの時何言おうとしてたの?」


 顔が少し赤くなっている風音はそう聞いた。


 (まさか告ろうとしてたなんて言えるわけないしな、無難に連絡先欲しかったって言うか)


「先輩の連絡先欲しいなって思ってたんですけど、なにぶん女子耐性がないもので」

「ああ、なるほど、それでひよってたんだ、ヘタレだなー」

「そういえば先輩も何か言おうとしてましたよね?」

「......ああ、あれ? うーん、何だったっけ」


 風音はニコッと笑った。その姿に胸がドキリとしてしまう。

 (......いや、これは酔いじゃないか、思えばちょっと前から)


「先輩......」



 俺は気づいたら風音を押し倒していた。

 酔いの力は怖い。いつもならできないこともやれてしまうことがあるのだから。


「どっどうしたの後輩くん?」


 顔を赤らめて風音は視線を逸らして言った。しかし嫌がるそぶりは見られない。

 その姿に千秋はまたしても、可愛い、と感じてしまった。


 酔いって怖い。いつもなら言わないことも言ってしまうのだから。


「先輩、実は卒業式の日に先輩に告ろうとしたんです」

「......そっそうなの?」

「はい、でも想いを伝えきれなくて、しばらく会ってなくて気持ちもなくなったと思ってたけど、やっぱり俺はでも風音先輩が好きです、付き合ってくれませんか?」

「ちっ千秋......」


 気づいたら口が動いていた。でもそれがヘタレな自分にさよならをするいい機会だったのかもしれない。


「私も高校時代から千秋が好きだった、実は卒業式に私も告ろうとしてたの......今も千秋が好き、だからいいよ?」


 その返事を聞いた千秋は風音に口付けをした。


 ***


「おはよう、千秋、朝だよ」


 翌日の朝、千秋は風音に起こされる。


 (あれ、なんで風音がここに......というか頭痛い)


 これが2日酔いというやつだろうか。ゆっくりと千秋は体を起こした。


 (昨日告ったところまでは覚えて......ってあっ)


 そう、千秋は昨日風音に告ったのである。酔っていたとはいえそれが事実には変わりない。


「本当に改めてだけどよろしくね、千秋、それにちゃんと責任取ってよね」

「......うん、まあ、風音を幸せにさせるよ」


 いきなり呼び捨てで呼んだからか風音は少し頬を赤らめた。


 千秋は風音の髪をそっと撫でた。


完結です。最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。

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