殺
渡瀬松‥‥あることをきっかけにクラスのヤンキーを殺してしまう主人公。
柿田藍‥‥松のストーカーで、松のことを匿う主人公。
僕はパシリだ。
僕は渡瀬松。
クラスのヤンキーのような存在、町野くんの奴隷。
「おい、お前飲み物買ってこい。俺は炭酸な。」
「俺オレンジジュース!」
「水。」
「お茶。」
「炭酸。」
全部僕のお金で買うのに。
「あとパンもよろしくな。焼きそばパン。人数分。」
「はい。わかった…。」
僕はこけながらも走ってパンを先に買いに行った。
五人分のパンを抱えるのは大変で、僕は家にあった風呂敷を持ってきた。そして風呂敷に包んで飲み物を買いに行った。
自動販売機で五人分の飲み物を買い、床に置き、風呂敷で包んだ。立ち上がろうとした時、上から水が降ってきた。
上を見ると窓からバケツも降ってきた。頭にバケツが当たって痛かった。
でも僕は風呂敷を抱えて走った。
「…買ってきたよ。」
「チッ……んだよこれ。ビショビショじゃねぇか。買い直せ。」
水をかけたのはお前らだろって言いたかったけど、言えなかった。
僕は俯き、髪から水を垂らしながら小さく頷いた。
こんなのもう嫌だ。僕は走りながら泣いた。
髪から垂れる水と涙が混ざった。
家に帰っても僕一人。父さんは引きこもり。母さんは、父さんのせいで過重労働をしすぎて死んだ。
僕は家に帰って料理を作ろうと包丁を持ってキッチンに立った。
ああ。いつまでこんな生活を続けるんだろう。
そんな時、キッチンから見えるリビングのテレビで「生徒が生徒を刺して自殺した」というニュースが流れているのが見えた。
僕は手に持っている包丁を眺め、決めた。
あいつを、
あいつを、
あいつを殺すと。
翌日。
僕はいつものようにパシリをしていた。
「昨日言ったやつ買ってこい」
「わかった。」
僕は自動販売機に向かって走った。きっと、走っている時の僕は笑っていたと思う。今日、あいつが死ぬ。
僕は自動販売機の前に立ち、ポケットの中のナイフを握りしめた。そして笑った。
やっと。やっと死ぬんだ。
その時、パシャっとシャッター音が聞こえた。
振り向いてみたが誰もいなく、幻聴かと思い知らんぷりをした。
教室について、あいつに一歩、一歩と近づく。
あいつは僕に背を向けて楽しそうに喋っている。
僕は今だと思い、走ってあいつに抱きつくように刺した。
ナイフをあいつから抜き、そっと後退りをする。
そして、あいつが倒れるのを待つ。
数秒後、あいつは苦しそうにバタッと倒れ、血を流していた。
クラスのみんなが静かに驚いていた。
そして、みんな僕のことを見た。僕の手元の血だらけのナイフを見つめた。
僕は捕まらないように走って、学校から抜け出した。
パトカーの音が聞こえる。救急車の音も。
走って逃げて、隠れられるような暗い建物と建物の狭い間に隠れた。疲れ切ったのか、建物に背をつけ、崩れ落ちるように座った。そして、笑った。
あいつが死んだ。
SNSには『クラスのやつが陰キャに刺されて死んだ』とか『やばい、人殺されたんだけど』とかが書かれていた。みんな、あいつが刺されたことしか書いてない。でも一つだけ、全然違うことを書いてるやつがいた。
『俺は、嬉しい。』と。
その時、「ねぇ。」と誰かに話しかけられた。
僕は見上げた。でも逆光で、よく顔が見えなかった。ただ、僕の学校の制服だということはわかった。
僕は立ち上がって「ぼ、僕を捕まえようと思っても無駄だよ」と言い、逃げようとしたが後ろからハグをされ、「俺は君の味方だよ。」と言われたので、僕はそいつから離れて顔を見た。見たことない顔。でも、綺麗な顔立ちをしている。
「こっち、来て。」そいつは僕に顔が隠れるくらいの黒くて深い帽子を被せた。
そして僕の腕を引っ張って走った。
しばらく走ると、大きい家についた。
「ここ、俺の家。」
そいつは鍵を開け、「入って」と、ドアを開けた。
「お邪魔します。」と玄関まで入ると、「いいよ、入って。」と手招きされたので、リビングまで行った。
すると
「え…。」壁一面に僕の写真が貼られていた。
「あ、これ?ごめんごめん。」そいつは僕のことを押し倒し、「俺は柿田藍。松くんのストーカー。」と笑った。
あ、あの時のシャッター音はこいつの…。
そう思うとなんだか怖くなって、僕は立ち上がって、逃げようとした。
すると腕を掴まれ、引っ張られた。
その拍子にキスをしてしまった。
「…!ぼ、僕はもう行く。」
手を振り払ってドアを開けようとした時に、
「あーぁ。せっかく匿おうと思ったのに。君が逃げたら、君の居場所、警察に教えちゃうよ?」とそいつはスマホを僕に見せて、ニヤついた。
スマホの画面には、僕の位置情報のようなものが表示されていた。
「松くん居場所は、僕が知ってるんだから。」
…捕まるくらいなら。自分の身を犠牲にしてしまおう。
「…匿って…ください。」
「よくできました。」柿田藍は微笑み、僕に抱きついてきた。
「これからよろしくね。松くん。あ、あと匿う上で条件が一つあるんだ。俺と付き合うっていう。」
「は?」
「あれ?反抗しちゃう?」
「…わかった。」
「いい子いい子。」
柿田藍は僕の頭を撫でた。
こうして始まった、僕と僕のストーカーの逃亡生活。
でも、僕は知らなかった。
僕が、猛毒に染まってしまうことを。柿田藍に堕ちてしまうことを。
恋は、猛毒だということを。