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光石の街

ここでは、カサルアと行動を共にする事が多いが、同じだけあの四人の龍達とも会う事は多い。

レンは、他に出かけている事が多いが、帰って来たら必ず健康状態を確認しに来てくれた。レンと話をしているととても落ち着く―――癒しの「地の龍」だけあって心地よい雰囲気で気が休まる感じだ。

イザヤは見かけや周囲の評判と違い、忙しいカサルアの代わりに細々と親切に優しく接してくれる。それを先日、ラカンに言ったら驚かれた。

『嘘!イザヤが?親切で優しいだって?信じられない! あいつは、頼りになるけど表情無いし、隙ないし、陰険で煩くて。親切だとか優しいだとか言う単語は当てはまらない奴だけど?うわ~そんなイザヤ見てみたい』   

そう言うラカンは、いつも話題豊富で一緒にいると楽しく話も弾む。


問題なのはラシード―――


ラカンと一緒にいる事が多いので、その時は問題ない。彼と一緒の時はラシードの雰囲気も少しは柔らかくなっているし、それにラカンばかり喋っていてほとんど口を開く事が無いのだから・・・でもラカンがいない時は気不味い。相変わらず口は開かないが、口数が少ないというより無視されている。だからアーシアはいつも今日は会いませんようにと毎日祈っていた。


(それなのに、それなのに・・・恨むわ、にいさま・・・)


 今、アーシアは兄に心の中で恨み言を言いながら『震龍州』の州城に翼竜で向かっている最中だ。それもレンと、それから苦手なラシードと三人で―――

翼竜は大きな翼と長い尾を持つ動物で、知能も高く性格が大人しいので一般的な空を飛ぶ交通手段として使用されている。

アーシアはレンと一緒に乗せてもらっていた。大空に風を切って飛ぶ翼竜は大好きなのだが・・・楽しむ気分は半減している。


ラシードと一緒に出かけるようになったのは全部カサルアの意地悪のせいだ。カサルアから

『肩慣らしにレンを手伝ってやってくれないか』

と言われ二つ返事で受けたところ、

『もう一人、護衛も兼ねて誰かつけるけど?誰がいい?』

と訊かれたから迷わずイザヤかラカンと答えた。それなのに『じゃあ、ラシードにしよう』と言われ、カサルア曰く、

『仲間なんだから好き嫌いは駄目!親睦を深めなさい』

と言って送り出されてしまった。


(親睦を深めようにも無視しているのは、彼の方なんですけど・・・)


アーシアは溜息をついてあきらめると、空の旅を楽しむことにした。

カサルア達の砦があるこの『震龍州』は山岳地帯だがその切り立った山々には二つの姿がある。一つは砦がある場所のように、森林に囲まれた動植物が多く生息するところ。

 もう一つは雪の降らないこの州に、まるで雪山と見違えるような白い山肌の山脈がある。この白い山脈は、調度品から建物に美術品にと様々な加工ができる白い光石の大産地である。光沢があり白く美しく更に丈夫な石は非常に人気の高い産物なのだ。ここから切り出されたものが他州に運ばれて加工される。当然この州の一大産業のため、ほとんどの住民がこの仕事に従事していた。大きな産業を持つ州は活気が違う。少ない平野には様々な品物を売る市が立ち並び、結構な賑わいをみせている。


 しかし州城はそんな平野でなく光石の山脈にあった。山脈をそのまま加工した総光石造りの贅沢な城だ。山脈にあるので必然的に翼竜か次元回廊でしか行き来できない。

 ここの州を管理する長である州公はカサルア達の秘密の協力者だが、最近彼らの活動が活発なためか、中央の監察が厳しく、カサルア達は表立って動けない状態だった。それで〈力〉を使う次元回廊は目立つ為、今回は時間がかかるが正規の道順で向かっている。


 州城への用向きは、最近震龍州で流行している原因不明の奇病の件だった。それは突然昏倒して意識不明になるらしい。どんな治癒も効かないらしく困り果てた州公が当代一と謳われるレンの力を借りたくてカサルアに相談した次第だ。

 夕暮れ時、州城が見える街までやってきた。夕陽が白い山脈を茜色に染めている。

 ラシードとレンは翼竜を降下させると、見るからに立派な宿屋の前に降り立った。


「どうしたの?城に直接行かないの?」

「ええ、もう夕暮れですから、城にあがるのには失礼な時間ですので」

 レンはそう言うと、背の高い翼竜からひらりと身軽に飛び降りた。

「それもそうね、何事かと思われたら大変よね」

「大丈夫ですか?降りられますか?」

「大丈夫・・かな? きゃっ!」

 そのとき翼竜が急に動き、アーシアは落ちそうになった。

「危ない!」


 レンが手をさしだしてくれたので落ちる事はなく、二人でほっと息をついた。アーシアは結局降りることが出来ず、レンに抱きかかえられて降りたが、ラシードは二人を無言で眺めているだけで手助け一つしなかった。黙っていても、まだか? と皮肉たっぷりに言いたそうにラシードの瞳は語っていて、しかも口の端を少しあげて馬鹿にしたような態度だった。

アーシアは癪に障って仕方が無かったが我慢した。宿の主人に部屋まで案内されながら、心の中でめちゃくちゃラシードを罵倒しては、その言葉にクスッと笑ったりしていた。

 横を歩くラシードはアーシアのこぼれ笑いを訊き止めて、チラリと横目で見た。何やら憎々しげな表情をしていたかと思うと楽しそうにしている。

(変な奴だ)と思う。


 部屋に案内されると扉は一つだが中は広い部屋の他に寝室が三つあり、この立派な宿の中でも一番良い部屋に違いない。宿の主人も、上客とばかりにやたら親切だ。

「お食事はどうなさいますか」

「ここに運んでくれ」

 ラシードが勝手に返事して、主人に色々注文をしている。主人もニコニコしながら書きとめると仰々しく挨拶して出て行った。

アーシアは部屋をぐるりと見渡しながら言った。

「こんな立派で目立つような宿に泊まって大丈夫なの?一応隠密な行動なのでしょう?」

 もちろんラシードは無言だが、レンが答えてくれた。

「そうですね、逆にこっそりしている方が目立つ場合もありますし、特に監察の厳しい時はこんな所の方が甘いの――」


「そうも言っていられないようだな、今回は・・・」


 レンが言い終らないうちにラシードが口をはさんだ。

何やら外が騒がしくなってきたようだ。中央管轄の監察官たちが宿検めに踏み込んできたらしい。宿の主人ともめているようだ。しかし、ラシードとレンは涼しい顔をしていて慌てる様子もない。

アーシアはだんだん近づいてくる足音に心細くなってきた。

「ど、どうするの?」

 レンは、大丈夫だからお茶でも飲んで座っていて下さい、と言う。

 けたたましい音とともに扉があくと、高飛車で人相の悪い監察官の三名が部屋に踏み込んで来た。入り口では宿屋に主人が、折角の上客に何かされたら大事だと、青ざめながら心配そうに覗いている。


 監察官の一人が高圧的に言った。

「おい!おまえ達!今日この州に入ったんだな、身分検めをしている速やかに身分証明を出せ!」

シンと静まりかえったが直ぐにラシードが馬鹿にしたように軽く嗤った。

「そこのおまえ!何笑ってやがる!無礼者!俺たちを誰だと思ってやがる!」

ラシードは怒鳴る隊長らしき監察官の眼の前に、証明と言われるものをぶらりとぶら下げた。その証明は金の薄い板のようのものだった。

それを眼の前で見ている監察官は眼を大きく見開いて口をパクパクさせた。

「無礼者はどちらかな?」

 ラシードが証明書を揺らしながら、低く冷たい口調で言った。


「し、失礼しました!」


 ラシードは大げさに溜息をついて追い討ちをかけた。

「本当に失礼極まりない。わざわざ黄葉を見にきたのに無粋な。さっさと去るがいい」

「は、ははい。誠にご無礼いたしました!」

「た、隊長どうしたんですか!」

「うるさい!速く来い!」

 ぺこぺこお辞儀をして監察官は転がり出るように去っていった。

 部下たちも慌てて追いかけながら隊長に尋ねる。

「いったいどうしたのですか?」

「馬鹿!俺たちなんか足元のも及ばない天龍都の大家の紋章だった!機嫌でも損ねたらあっという間に俺たちの命なんか飛んじまう!」

「ひえぇ~だから隊長言ったじゃないですか、こんないい宿屋に泊まる奴らなんか普通じゃないって!」

「うるさい!黙れ!さっさと帰るぞ!」

 バタバタと足音が遠ざかっていくのを訊きながら、アーシアは一人きょとんとしていた。


「今のどうしたの?」

 ラシードはもう何も無かったかのように涼しい顔をしている。

答える様子の無い彼に代わりレンが答えた。

「ラシードの身分証明判を見て驚いたのですよ。彼は中央でも大家の出身だから無礼でも働いたら大変ですからね」

「そうなの。今はそんな証明みたいなのが発行されているのね」

「そうですね、中央の厳しい管理下に置くために人々を区分けしていますね。それで発行されるのがその証明判です」

 アーシアは興味を覚えた。さっきは、チラリとしか見てなかったので役人がそんなに驚く証明判が見たくなったが・・・


(ラシードに頼みたくないし・・・)


 でも好奇心にはかなわなかった。ラシードの真正面に進み出ると、真っ直ぐ見上げて手をさしだした。

「ラシード!それ見せて頂戴!私、見たこと無いから見たいの」

 あくまでも、お願いとは言わない。

 アーシアから話しかけてくることは今まで無く、思いにもよらなかった行動にラシードは少し面食らったようで瞳を一度大きく見開いたが、何も言わずそれを渡した。

 手のひらにのせられた証明判は金と貴石で豪華に輝いていた。

「凄いのね、ピカピカだわ」


 アーシアはそう言うと無意識にラシードに向かって「ねっ」と首を傾げながら、にっこり笑った。

いきなり「ねっ」と同意を求められ、会心の笑みまで貰ったラシードは再び瞳を大きく見開いて戻すと、珍しく応えてきた。

「証明判は素材などで分けられていて、この貴石で刻まれた部分が家の紋章と家名。そしてここに私の名前が入っている」

 指をさしながら教えてくれる。ラシードが珍しく喋ってくれるので、アーシアは嬉しくなって色々質問してみた。彼も観念したのか彼女の質問に丁寧に答えている。

レンもそのラシードの様子に驚いてしまったぐらいだ。


そうこうしていると、食事が運ばれてきて卓上には沢山の料理が並び始めた。

アーシアはいったい誰がこんなに食べるのかと、呆れたぐらいだったが以外と彼らは見かけによらず大食漢で着実に平らげていた。それでも食べ方は至って優雅だ。


(・・・凄いわ。どこに入るのかしら?)


 アーシアはもともと少食だが、震龍州風の料理が口に合わなくあまり食べれない。もともと彼女は北の坎龍州出身でこの州は火を通した温かな料理が主流であり、震龍州はほとんど火を使わない生ものが多い。そんな冷たい料理が苦手だった。砦も料理を作ってくれる人達は地元の人が多いので、やはり震龍州風だからあまり食べることなく、最近では体重も軽くなったように思える。

 アーシアは料理をつつくだけでほとんど口にしていなかった。ふと見ると給仕してくれる女の人達はラシードとレンに熱い視線を送りながら彼らばかりに構っている。

レンがアーシアの様子に気付いた。


「どうしましたか?食べていませんが、どこか調子が悪いのですか?」

「えっ、大丈夫よ。いつものことだから気にしないで」

「いつものことって?どういう事ですか?」

「ん~私、北の出身でしょう。震龍州風の冷たい料理が苦手で食べきれないの」

「食べきれ無いって!今までどうしていたのですか!それで最近顔色がすぐれなかったのですね?どうしておっしゃらなかったのですか」

 レンのちょっと厳しい言い方にアーシアは少し、しゅんとして答えた。

「ごめんなさい・・・我儘なことだから言わなかったの。食べられるものもあるし」


「言わない方が迷惑だな。レンのように心配するものもいるし、作っている者も迷惑だ。材料の無駄だからな」


 ラシードが会話に入ってきて痛烈な言い方をした。彼の言い方をレンは窘めてくれていたが、アーシアは全くその通りだから言われても仕方がないと思った。

「いいのよ、レン。そう言われても仕方がないもの。ラシードの言う通りだから・・・好き嫌い言うほうが我儘だから・・・頑張って食べてみるわ」

 彼女の言葉にラシードは少し驚いた。


(宝珠は自尊心が強くて我儘な者が多いのに?こうも素直な態度とられると驚いてしまう

な。それに、もともと我儘言いたくなかったとか言っていたし・・・)


 結局楽しそうに、レンと話しながら食べようとしているアーシアを見て、ラシードは給

の女に追加注文を耳打ちした。それは直ぐに運ばれてきてアーシアの前に出された。初め

て見たもので、甘い匂いのする柔らかそうな料理だった。

「これは?」

 ラシードはつまらなそうに答える。

「それも冷たいが菓子だ。それなら食べられるだろう?栄養価も高い――これ以上軽くなってどうする。今度は翼竜から降りられないどころか、飛んでいる最中吹飛ばされる」


 アーシアは始めラシードの気遣いに、あの 〝お礼〟 で喧嘩した以来、彼には言いたく無かったお礼を言おうと思ったのに後の意地悪な言葉を訊くと、ムッとして言葉を引っ込めた。そして、パクッと一口食べてラシードを睨む。それは甘くて濃厚な味が口にひろがり、とても美味しかった。アーシアは一転して気分を良くすると夢中で口に運んだ。

 レンはラシードに、今の言い方をまた窘めてはいたが、そっと耳打ちした。

「しかし、あなたが珍しいですね、こんな気遣いなんて。感心しました」

「・・・・・・・・・」

 ラシードは無言で食事を再開したが、レンが何に感心したのかは謎だった。

 レンは感心した・・・ラシードは仲間内でも関心を払うことは滅多にない。まして女性や特に宝珠には驚くほど冷たいのにだ。それなのに今日は、嫌味な言い方だがまともに相手をしている。レンは同じものを追加注文してやっているラシードと、嫌そうな顔をしているアーシアの顔を見比べながら一人微笑んで食べ始めた。


この場面を私は水戸黄門と言っています。わかる人にはわかると思うけど~今時知らない人多いでしょうね。ラシードの父親は偉いだけで無く名家の出身だったと云う訳です。能力高く権力あって金持ちで無口で冷たくて横柄なラシードですが私の好きパターンですね。いつものことでごめんなさい。私も好き!と思っていただける方がいると嬉しいですね。

 ここでアーシアに注文してくれたお菓子はさて何でしょうか?分かりましたか?私はプリンをイメージしました(笑)


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