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宝珠の宴

 同じ夜、小さな灯かりだけが揺れる薄暗い一室で密談が行われていた。城下街から遠く離れた砂岩の渓谷にある隠れ家。ゆらゆらと揺れる灯かりに照らされた一人は体格のいい〈龍〉と、もう一人は妖艶な〈龍〉のリラだっだ。

リラは口もとを残忍に歪めて相手の男を焚きつけていた。

「素晴らしい宝珠よ。それを手に入れたら四大龍の〈紅の龍〉にだってなれるわ。そうなれば、わたくしも嬉しいわ」

「本当にそんなに力が強い宝珠なのか?」

「ええ、そうよ。今回お披露目の宴にでるのだから。わたくしが手引きするから絶対に大丈夫よ。あなたは、ぱっと盗んで次元回廊で、ここへ一緒に逃げ込めばいいだけよ。簡単なことよ」

 男は野心を全身にみなぎらせていた。

「そんなにいい宝珠か、堪らんな~しかし、ぱっと盗めるか?」

「大丈夫。手は打っているから」

 リラは思った。ラシード達が、ただ遊びに来るだけなどありえない。それもあの宝珠を連れて―

何かある筈と探っていると四大龍が現れた。絶対何か事を起こすに違いないと思う。事が終われば安心して隙が出来る筈。そこを狙ってあの忌々しい宝珠をラシードから奪ってやる。

 目の前に座る男を見る。自分の取巻きの一人だが〈火の龍〉で、そこそこ力がある龍だ。しかし、

この腐りきった世界で惰眠を貪る最低な奴。ラシードには到底及ばない。


(ラシードは渡さない! あんな宝珠などめちゃくちゃにしてやる)


「月の宴」で見た二人を思い出し怒りが込み上げてくる。あんなラシードは見たことがなかった。夜陰から三人の様子を窺っていたのは彼女だったのだ    

 思い出すだけで眼の前が怒りで真っ赤に染まるようだった。孤高の紅の龍。願わくはその真紅の瞳に映るのが自分であるようにと、誰もが憧れる。それなのに―――   


(あの瞳は私のもの!)


「ところで、その宝珠はラシードが連れていたやつだろ?」

「そうよ。先日も四大龍のセイ様がその宝珠に目を付けて所望していたわ」

「へえ~ますます本物だ」

 男はいやらしい目つきでリラを見て、怪訝そうに言った。

「ラシードはいいのかい?」

 リラは妖艶に微笑むと、男に腕を絡ませて、ねっとり囁く。

「あなたも見ていたでしょう? あんなに恥をかかされて・・・許せるものではないわ。それに今はガイ、あなたがいるもの。関係ないわ」

「俺もラシードの奴は、前々から気に食わなかったんだ。力はたいしたことないくせに偉そうで! あいつの大事なもん盗るなんか最高だな。それも最高級の宝珠ときたら楽しみなことだ」

リラは 〝あいつの大事なもの〟 と訊いて嫉妬が心に渦巻く。


(そう・・・あの宝珠は、ラシードの大事なもの・・・壊してやる)


「そうよ。奪って、あなたのものにしたらいいわ。高慢な宝珠だけど世間知らずよ、無理やり肌を合わせたら、大人しく言うこと利くわよ」

「そりゃいい。白くって可愛かったもんな。しかし、リラ、おまえ恐ろしい女だな」

「嫌い?」

「いいや。最高の女だよ」

 砂岩の渓谷に、砂塵を巻き上げながら猛り狂う嵐のような風が吹き抜けていった。




 いよいよ「宝珠の宴」の幕開けだ。時間は夕刻から始まるが、宴が始まってすぐに結界が発動する。丁度その頃はまだ食事もでていない〈宝珠〉たちのお披露目会の真っ最中の予定だ。一番、気持ちが浮つく頃合いだろう。

 アーシアの仕度もいつにも増して念入りにおこなわれた。望んではいないが〈碧の龍〉を惹きつけなくてはいけないためだ。〈龍〉好みに仕上げるために何度も試着しては、駄目だしをもらい、やり直していた。もちろん判定係りは、ラシードとラカン。

 アーシアは昨晩の事で、ラシードとどんな顔をしていいものかと、散々悩んだのに当の本人は普段とまったく変わらないのだ。やっぱり冗談だったの? それともお酒の飲みすぎで寝とぼけていたとか?などなど思ってしまった程だ。

 そうこう悩んでいるうちに、人形のように黙って、次から次へと着替えていた。

 

 アーシアが次ぎの着替えの為に、隣室に引っ込んだ時、ラカンが、ずばりと、ラシードに問いただした。

「で、何したんだ? 正直に言いな」

「何が?」

「何がじゃねぇよ。アーシアにだよ。見りゃ分かるって! おまえをめちゃくちゃ意識している。明らかに昨日と違ってな!」

 ラシードは瞳を伏せると、横から視線を流す。

「告白しただけだ」

「お、おまえ、馬鹿じゃないのか! アーシアには逆効果だろうが。言い寄る奴は撃退されるぞ。俺が折角、やんわりもっていってやったのに、おまえ性急すぎ! ばぁか」

「のんびり構えていたらカサルアに持っていかれる。お前たちみたいに優しい兄を演出するつもりもない。彼女には私という〈龍〉を認めさせてみせる」

 ラカンは呆れた。喋るまえに心の中で 〝大馬鹿野郎〟 を三回唱えたぐらいだ。


「〈龍〉の魅力だけならカサルアだって負けないから、それでそうなるのかよ。逆戦法のつもりか? 誇示しすぎだってぇの! はあ~」

 ラシードはとても清々しい顔をしている。心を曝け出したせいもあるのだろう。

 ラカンは大きな溜息をつきながら、本当に世話がやけると、ぼやくのだった。

 アーシアが着替えて出てきた。鮮やかな紺碧の色―――深みのある濃色の青。貴石の飾りは淡青と透明の輝きに満ちている。アーシアの白い肌を、一層白く際立たせていた。

「これはどう?」

 アーシアはうんざりしながら二人に訊く。

「おお、これはいいね。ん~いい! 決定!」

 ラシードがすっと近づく、アーシアは一歩退く。

「悪くないが、いかにも〈水の宝珠〉のようで、気に入らない」

 龍の正装は自分達の〈力〉の色を肩衣に使う。ラシードも今回は緋色の肩衣を付けている。ラカンは藍だ。宝珠には決まりはないのだが、主がいるものは、龍と同じ色を纏うことが多いのだ。

「別に宝珠は、色の決まりが無いんだからいいじゃん。それに碧の龍の奴、喜ぶんじゃあない? 水の龍の俺としたら、嬉しいもん。それとも紅色でも着せて〈火の宝珠〉みたくする?」

 ラシードは腕を組むと考えだした。それから小さく溜息をつくと首を振った。

「駄目だ。ここにある離龍州の紅系の衣は、露出が多くて、アーシアは似合わない!」

「へいへい、アーシアちゃんを見せたくない訳ね~」

 アーシアはラカンの言った 〝見せたくない〟 を訊いていない。先に言ったラシードの言葉にむっときていた。


(露出が多くて似合わないですって!どうせリラみたいな人が似合うと思っているのね。にいさまもそうだけど、みんな私を子供扱いして!私だって負けないもの)


 アーシアは無言で隣室に引っ込んだ。ムカムカしながら、衣を選ぶ。本人は気付いていないが、明らかにリラに対抗意識を燃やしていたのだ。ラシードと似合いの大人の女性―――

 髪形も変えた。半分上げて緩やかに下ろした毛先はゆるやかに巻いて形をつける。

 鏡で確認して満足すると扉から出た。出てきたアーシアを見て、二人は呆然とした。真紅の衣だったのだ。普段は優しい色の衣を好んでいたが、ここでは濃い目のものが多いので、しかたなく着ていたのだが、さすがに鮮やかな真紅などは避けていた。

 ラシードが言ったように露出が多い。脚はかなり上から斜めに切り込みが入っているので両脚とも見える状態なのだが、すんなりと伸びた形の良い脚が美しさを際立たせていた。髪を上げているせいか首元をすっきりとさせ肌の白さが透けるようだった。

 貴石や宝玉の飾りも鮮やかな紅。しかし、派手さは感じられない。アーシアが気品高く見事に着こなしていた。気高く咲く一輪の紅の花のように    


 アーシアが自信たっぷりに言った。

「どうかしら?もうこれでいいでしょう?」

「いや~まいった。アーシア驚いた!〈龍〉悩殺もんだよ。いや~ほんと、変わるね~ラシードなんか固まっているぜ!」

 アーシアはラカンの評価を訊いて満足気に微笑むと、ラシードにチラリと目線を流した。

 視線をうけてラシードは瞳を細めた。

「私の瞳と同じだな。まさしく〈火の宝珠〉だ。だが、却下だ!―――そんなに煽るものじゃない。これでも自制しているのに・・・」

〝却下だ〟 のあとは声が低く呟きに近かくて聞こえなかった。

「ええっ! 私はこれでいくわ!」

「駄目だ!」

「いいじゃん、ラシード。とっても似合っているし。ねえ~アーシア?」

 二対一で対抗されたラシードは、勝手にしろ、と言って部屋を出て行った。


「やれやれ、怒っちゃったよ。大人げないんだから」

あんまり反対されたのでアーシアは心配になってきた。

「やっぱり、似合ってないのかな?」

「うわっ~それぜんぜん無い! と言うか、以外な一面だったけど似合い過ぎ!〈龍〉が大挙して押し寄せそう。特に火の龍なんかがさ! その気高い炎のような感じなんか堪らんと思うよ。ラシードの奴、そんな君を見せたくないんだよ。ほんと大人げ無いうえに、独占欲がめちゃめちゃ強いんだから」

「み、見せたくないとか言う理由?」

「そうそう、内心、す~ごく気に入っているよ。で、どうする? 着替える?」


(なんだ、気に入っていたのね・・・)


 アーシアはにっこり微笑んで答えた。

「ううん、意地悪でこのまま着ていくわ」

「ははは、そりゃいい。じゃ行こうか!」



 三人は、州城に到着した。宴の会場は城の中心部にあたる所にある。支柱ひとつ無い広々とした空間だが、夕刻だというのに会場内は光りにあふれ、まるで昼間のような明るさだった。床と壁と天井が城の表面と同じく光石の化粧貼りをしていて、中で光りが乱反射し明るさを増しているのだ。

アーシアは頭から足先まで、すっぽりと薄衣を覆ってきた。これが趣向らしい。会場内に入ると、もうほとんどの招待客が揃っているようだった。上座のほうに州公とその宝珠達がいたが、宝珠達は姿をさらしている。色とりどりの衣や宝玉に飾られた美しい宝珠たちは二十人ぐらいいそうだった。州公は嬉しそうにその中心に座っている。その両側には『碧の龍』と『銀の龍』が座しているようだ。


 結界の発動が始まる―――


 三人は上座へ進み、一礼して挨拶を交わす。早速、碧の龍が、陽炎のように足音がなく寄ってくると、無機質な表情で話しかけてきた。

「先日は、失礼したね。今日はとても楽しみにしていたよ」

 碧の龍はまた、不躾にアーシアの薄衣を剥ぎ取るように手を伸ばしてきた。

 ラシードは素早く前に出て、自分の背中に彼女を隠すと静かに言った。

「セイ様、趣向でまだ衣は取れませんので、ご容赦を」

「――そうだ、おまえ達に約束していた宝珠だが、州公がどれでもいいと言ってくれた。そこから選ぶといい。のう、公?」

 州公は、頷きながら冷や汗を流している。無理やり承諾させたのは見てとれる。ラシードとラカンは、お互い軽く頷きあうと、時間稼ぎのために州公の宝珠達を見てまわることにした。他の龍が同行した宝珠達も次々被り物を取って、披露しては歓談し始めた。


 包囲結界の完成時間が近づく――――


 その時、碧の龍が無表情のままだが、すいっ、と目線を宙に向けた。

(気がつかれたか?)

 もう少しなのだが、波動が終わるに従って以外と強くなっていたのだ。アーシアは咄嗟に碧の龍に声をかけて、薄衣をはらりと落した。碧の龍だけではない、その周辺にいた者達、州公は腰を抜かしてアーシアに魅入った。幽鬼のような碧の龍でさえも、恍惚とした表情を浮かべていた。

それから手を差し出し、アーシアの髪に触れながら落胆の色を滲ませながら言った。


「これ程とは・・・しかし、残念だ。これはゼノア様にお渡ししなければ。月光の髪に若草色の瞳は、かの君がいつも所望される容姿・・・ザーンとネイダの息子よ戯言は終わりだ。この宝珠は王の為、この場で貰い受ける」

碧の龍がアーシアを捕まえようとしたその時、爆発音が鳴り響き、城が左右に大きく揺れた。続けて爆発音が鳴り再び床が揺れる。


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