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㉒宣戦布告状


 人数にふさわしい広さになったサロンは、午後の明るい日の光をふんだんにとり込みんでいた。


そのおかげで、秋だというのにとても温かかった。


街から戻ると、一緒に街に同行したヤギハシさんが、アスタロト様にすぐに事の次第を報告した。


「オイジュス王太子が、我の討伐とうばつ進軍しんぐんするというのか?」


「はい。街のものたちから、ひっきなしにききました」


ヤギハシさんは、いつもよりも固い声音こわねが、事の重大性をつたえていた。


「いまさらどうしてでしょうか?」


わたしは、困惑していた。


噂では、わたしは、『インキュバス』か『悪魔の花嫁』はたまた『女海賊』と言われていた。


生家のへスぺリデス家が、もとをたどると海賊だったと知るものはいないとお父様から聞いていた。


そんな世界線もあったが、この世界線では、王家に知られているようだ。


控えめなノック音がして、シンシアちゃんが、入ってきた。


その手には、銀製のプレートに1通の封書と、金細工のほどこされたレターオープナーをのせて入ってきた。


「門番よりこちらをお預かりました」


なんでも、門番の視界に人間が入ったので、追いかけると、直ぐに逃げ出したということだ。


その時に、この封書を落としていったそうだ。


「届けにいらしたのですか?」


「郵便はムリだと思ってのでしょう。でも、意外と普通に来てくれますよ」


「事情を知らん、王家の手の者だろう」


あごに手をやりながらヤギハシさんは、アスタロト様と顔を見合わせた。


アスタロト様は、優雅な手つきで封書を開けた。


ーあまり見つめるな。手元がくるうー


ハッとしてアスタロト様と目が合う。


わたしは、知らず頬が熱くなる。


最近、こんなことがよく起こる。


わたしをからかったり、叱ったりするが、アスタロト様からの眼差まなざしは、暖かで優しい。


親切にしてくださっているだけ。


乗り掛かった舟で、助けてくれているだけかもしれない。


以前にもそう言われたのに、それ以上の想いをアスタロト様の端々(はしばし)に探してしまう。


それが、どんな理由によるものか……。


ー悪魔の気まぐれだー


そう、テレパスは面倒な能力だ。


テレパスのつかえるヤギハシさんは、ハァーと深いため息をついた。


咳払いをしてアスタロト様は、封書に目を通した。


後で読ませていただいたが、内容はこうだった。




 親愛なる黒き隣人諸君。


君らとのにらみあいにも、そろそろ飽きてきた。


そろそろ、ぼくの実力を存分に披露ひろうし、君らにわかっていただこうと思う。


だが、一方的すぎるのは、ぼくも忍びない。


そこで、提案がある。


そちらで厄介やっかいになっているぼくの新妻を、返していただこう。


きっと、君らにたぶらかされ、だまされたのだろう。


今頃、そちらで後悔をしているだろうから、戻りたくてたまらないだろう。


世間知らずなお嬢さんで困るが、ぼくの寛大な心で妻を許してやろうと思う。


無論、妻を返そうという気があるならば、君らに温情をかけなくもない。


君らへの温情は、神の謝罪だけで許そう。


神の御心は、ぼく同様、寛大なのだ。


しばし、猶予ゆうよをやろう。


3日後の正午にわが領土との境界線のエーデンバッハ村の教会にて待つ。


スオカ王国 王太子 オイジュス・スオカ


追伸


黄金に輝く汚れた私財を差し出せば、神の宗主国にて洗い清めて神の御列に加えないこともない。




にらみあい?わたしが王都いたときは、アスタロト様と勇猛果敢ゆうもうかかんに戦っていたときいておりました」


「我が知る、『勇猛果敢』と意味が違うのかもしれん。奴は、金払いのいいお客様でしかなかった」


「『勇猛果敢』とは、ちがいますわ」


「やっぱり、ダメ王太子は、マリー様にふさわしくありません!」


「シンシアちゃん、怒ってくれてありがとう」


「だって、マリー様は、たぶらかされてなんていないじゃないですか!」


「いいのよ、ありがとう。わたしも、お父様もアイツの性根しょうねの悪さを見抜けなかったのが、いけなかったの」


そう、王太子と結婚すれば、幸せになれると思い込んでいた。


それは、違ったし、愚かな考えだった。


「でも、アスタロト様、どうされるおつもりですか?」


「簡単だ」


「わたしを差し出しますか?」


恐るおそるきいた。


「馬鹿な!むろん、正しい意味での『勇猛果敢』を馬鹿王太子に見せつけてやる。ヤギハシ!準備はー」


「アスタロト様、3日もいただいて恐縮です。十分すぎて時間を持てあますことになるでしょう」


「そうか。では、オイジュス王太子さまに存分に我らの力をお見せしよう」


今日のアスタロト様の笑顔は、背筋せずじがうすらさむくなった。


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