⑲悪魔の能力その1
目が覚めると、そこは見慣れない天井だった。
ベットの天蓋だとういうことはわかった。
わたしは、自分がどこにいるのか、すぐにはわからなかった。
思い出せたのは、しばし、眠れマリー。という深い声だった。
思いだしたと同時に、悪魔への転生の儀式が完了したのだと理解した。
悪魔と言えばの角は、頭部を触ってみたがなかった。
お尻をふれたが、尻尾の感触もない。
起き上がり、あの美しい猫足の鏡台を目にして初めてここが、案内された自室だと気づいた。
鏡台の鏡に写った姿で変わったのは、髪の色だけだった。
燃えるような赤いカーリーヘーアーが、黒いストレートヘアーに変わった。
でも、インナーヘアーは、燃えるような赤毛のストレートだった。
一見すると、アスタロト様と同じ、黒髪のストレートロングの髪型になっていた。
同族だからということだろうか?
悪魔的な容姿に変化するのだろうと思い込んでいたので、やや拍子抜けだった。
部屋のドアがノックされシンシアが部屋に入るや否や、起き上がっているわたしに駆け寄ってきた。
「マリーお嬢様、起き上がっても大丈夫ですか!?」
「ええ、大丈夫よシンシア。わたしどこか、かわったかしら?」
シンシアは、わたしをしげしげと見まわした。
「いいえ……どこも変わってはおりませんね?お嬢様、そんなことよりお体は大丈夫ですか?」
「ええ、どこも何ともないの」
「それは、ようございました。アスタロト様が自らマリー様を抱きかかえてこられました。マリーお嬢様は、もっと長い時間眠っていらっしゃると伺いました。アスタロト様がお嬢様をベッドに横たえられてから、お着替えをしているわずかの間に、みるみる髪は黒くなりました。それ以外は、特別かわったところはありませんでした」
「本当に悪魔になったのかしら?」
ーなったさ!ー
「えっ?」
ー我のテレパシーだー
「えっ、ええええ?」
ー頭にうかんだことを伝えることができるー
ー頭にうかんだ?ー
ーそうだ。身支度をしてダイニングへきなさい。朝食にしようー
ぐるるるるるぅ~。
猛獣の唸り声が部屋中に響き渡り、わたしは顔を赤らめた。
ー体ではなくテレパシーを使いなさい。それにしてもマリーは口以外の会話が上手だなー
ーお褒めにあずかり光栄ですー
シンシアは、後ろを向く配慮をしてくれたが、肩を震わせていた。
シンシアに身支度を手伝ってもらった。
ここに来てからというもの着替えてばかりだ。
まるで、等身大の着せ替え人形だ。
けれど、やっぱり女子としては、楽しい。
黒い総レースの細身のシルエットのドレスだ。
中に黒いシルクのベアトップドレスを着ている。
それ以外の部分は、うっすら肌が透けている。
せっかく悪魔になったのだから、妖艶な黒がいいだろうとシンシアと相談して決めた。
髪は、ハーフアップにしてインナーヘアーの赤い髪がよく映えるようにしてもらった。
ダイニングにつくとヤギハシさんが席まで案内してくれた。
ながいダイニングテーブルの端と端にわたしとアスタロト様は座っている。
「声が届きずらいと……」
ーテレパシーを使いなさいー
「あっ!」
ーはいー
常夜とは聞いていたが、朝なのに窓の外は暗い。
なのに、朝食?
でも、わたしの中の猛獣は猛り狂っているのだ。
ーテレパシーより使いやすいのか?ー
ーはい、人前では、さらさぬように隠しておりましたが、昔からよく使ってしまうスキルですー
ーそういえば、前にもそんなことがあったなー
アスタロト様がにこやかに嫌味を言っているのが、よく見える。
イケメンは、何をしても素敵なのだ。
ヤギハシさんが、笑いをこらえて料理をサーブしてくれる。
朝食は、サラダ、スープと順に出てくる。
卵料理は、サニーサイドアアップ。
席に着いてすぐのときにヤギハシさんから卵料理は、いつものでよろしいですか?と聞かれてサニーサイドアップをお願いした。
へスぺリデス家にいたときから、朝食の卵料理は、スクランブルエッグだった。
ただし、へスぺリデス家は全員同じ卵料理だった。
すでに決められていたのだ。
卵料理くらい、自分で決めてみたかった。
お父様の意志は、家族の総意だった。
念願のサニーサイドアップとカリカリベーコンの組み合わせは最高だった!
アスタロト様は、何になさったのかしら?
そう思った瞬間、視界がぐっとアスタロト様のお皿にズームした。
「えっ?」
ー 人の料理が気になり過ぎて、能力の説明をする前に、能力を使いこなすとは……すでに人あらざる者の能力の高さか?いや、単に食い意地が張っていただけか?悪魔いじょうに悪魔だとは驚きだー
ー褒められた?ー
ー褒めていない。嫌味だー
「あああ!」
ーテレパシーの訓練も兼ねている、会話はテレパシーで行いなさいー
ーはいー
でも、ヤギハシさんは、笑いをこらえきれず後ろを向いて肩を震わせている。
ー執事には、テレパシーの能力はあるが、メイドにはない。ー
だから、シンシアはきょとんとしているのか。
ー何か聞きたいことはあるか?ー
ーはい、食後のヨーグルトにかけるソースは、選べますか?なにが……ー
ヤギハシさんは、たまらず噴き出した。
「テレパシーは有意義なことに使ってくれないか?ちなみにソースは、なんでも好きなものを好きなだけかけなさい」
ーあら?悪魔の会話は、テレパシーが基本なのでは?ー
ヤギハシさんは、爆笑し、アスタロト様は、苦いものを口にした時のようにちょっとだけ右眉をくいっと上げさわやかな朝に、そぐわないため息を大きくついた。
でも、アンニュイな雰囲気が悪魔っぽくてお似合いだと思った。
瞬間、アスタロト様の白皙が赤く染まった。




