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第4話 入学式

Leonです。

本作を読んでいただき、ありがとうございます。

さて、ここから第1章。本篇に突入です!

面白い作品となるよう精一杯書きますので、今後ともよろしくお願いします。

「桜の舞うこのよき日に、この学園への入学を迎えられたこと、誠に喜ばしく思っております」


講堂に、セスティールの落ち着いた声が響く。


「このリングア・ラティーア学園で日々鍛錬に励み、精進し続ける所存です。教職員の皆様、先輩方、まだ至らぬ点の多い我々ですが、御指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します」


ここ、リングア・ラティーア学園は、天国、地獄、人界の中間点に有る新世界に建てられた学園である。

かつて罪を犯し神に罰せられた人々は、過ちを繰り返さないために天使、魔族、人間が一つ所に集まって学ぶ必要があると考えた。乱れた世を整えるために、互いの種族の文化、性質を尊重し、四元世界を支えることができる優秀な人材を育てることが急務であると判断されたためだ。

新世界と学園の誕生から早1000年。今年も13歳の少年少女たちが多く入学した。総勢約300人の新入生とその保護者、そして在校生と教職員の前で、セスは今新入生代表の挨拶を行なっている。


「学園の生徒としての自覚と責任を持ち、伝統に恥じることのない生活を送れるよう心がけて参ります。改めて、本日はこのような素晴らしい式典を開いていただき、誠にありがとうございました」


新生活への抱負と共に、セスティールは挨拶を締めくくった。溢れんばかりの拍手に包まれながら、壇上を後にする。


席に着くと、隣に座る銀髪碧眼の美少年が声をかけてきた。まるで天使のような容貌だが、セスティールの幼馴染で、地獄のグラキエス伯爵家の長男ルイスだ。


「お疲れ様です、セスティール様。見事な挨拶でした。素晴らしかったですよ」

「ああ、ありがとう。だが、そう思っているのは少数のようだぞ」


先程聞こえてきた拍手とは裏腹に、周囲からは「魔族がでしゃばりやがって」だの「卑しいプラフラマ家が偉そうに」だの貶めるような言葉が聞こえてきていた。前者は天使の上級貴族で、後者は地獄の他の神貴家だろう。


この学園は、表向きには社交のためではなく人材育成のための施設であるので、クラス分けから進級まで実力を元に判断されている。

それはもちろん入学式での新入生代表挨拶にも言えることであり、毎年入試試験の順位で判断される。

つまり、セスティールは全新入生の中で最も良い点数をとったということだ。


本来ならば喜ばしいことなのだが、今回ばかりはそうでもない。

かつて神の怒りを受け人々は態度を改めたものの、実際には未だに種族間の禍根は残ったままだし、プラフラマ家は神貴家の中では新しい家であるので、セスティールが目立つことを好まないものも多い。こういう役割は一番身分の高いものがやるのが最も都合がいいのだ。

所詮、階級社会というものである。


まあ別に、多少嫌味を言われた所でどうということもないのだが。


「あんなもの、気になさる必要はございません。嫌味を言うだけで何もできない連中ですから、無視なさればよろしいのです」

「ははは、なかなかに毒舌だな。ところでルイ、お前、なぜ急に敬語なんだ」


そう、むしろ問題はそこである。

ルイスはセスティールの幼なじみだ。身分差など理解できないような歳の頃から共に過ごしてきた。今ではかけがえのない親友だと思っている。そのため、2人の会話は普段からタメ口だ。

数日前に会った時も、そうだったはずだ。

何か心境の変化でもあったのだろうか。

周囲の奴らに余計なことを言われたとか?


「ああ、いえ。自分も学園に入学したからには身の程を弁えたほうがいいかと思いまして。身分差もありますから、いつまでも対等なように接するのもいかがなものかと。父にもそのように諌められましたし」


ああ、やはりな。

こいつの父親は穏やかでいい御仁なのだが、多少堅苦しすぎるきらいがあるのだ。今回も悪い癖が出たようだった。


「何を言うんだ。いつも言っているだろう、俺はそんなことは気にしない。大体、俺とお前は『対等なよう』な関係じゃない。紛れもなく対等な友人なんだ。あまりよそよそしいことをしないでくれ」


そういうと、ルイスはふんわりと微笑んだ。その銀髪の輝きも相まって、美少年レベルがまるで神の使いである。


「わかったよ。僕も、君が嫌がるだろうということはわかっていたんだけれど、ほら、体裁とういうものがあるだろう?了承も取らずに馴れ馴れしく接するよりも、初めは弁えた態度だったけど無礼を許されたからタメ口で接してますの方が都合がいいと思ったんだ。僕も君もね。だけど、すまなかったよ」

「いや、いいんだ。むしろ配慮が足りていないのは俺だったみたいだな。だが、個人の関係が世間に左右されるなど、全く不愉快極まりない」

「そうだね。でもはっきり言って、お上の中では君がちょっと異質なんだと思うよ。君のお父君だって、身分差には厳しいだろう?僕には寛大にして下さるから、こんなふうに君に接することができているけれどね」

「そう言うが、俺はお前が今でも口調を繕っていることを知っているぞ。いつのまにか『お前』が『君』になってるし、『俺』から『僕』に一人称が変わってるじゃないか」

「それは、僕の容姿だと粗野な言動は合わなくてむしろ変に頑張ってる感じが出ちゃうから、上品に喋りなさいって言われたからであって、体裁気にしてるわけじゃない。君は全く関係ない」

「そうか、難儀な顔してるんだな」

「もう…。あ、セス、僕ら、ちょっと喋りすぎちゃったみたいだ」


そう言われて顔を上げると、前で話終えたらしき学園長が壇上を去っていくところだった。セスティールの挨拶からプログラムが2、3個進んでいる。

しまった。今は入学式の最中だったということをすっかり忘れていた。


「やってしまった…」

「そうだね…」


程無くして、入学式が終了した。入試結果に基づいたクラス分けが発表される。優秀なものから順に30人ずつ、Sクラス、Aクラス、Bクラスとアルファベット順に割り振られる。無論、セスティールとルイスは同じSクラスだった。ちなみに、入学式の際の席順も首席から10位までは順位順である。つまり、セスティールの隣に座っているルイスは次席ということになる。優秀なやつだ。


係員に連れられて、教室に向かう。この学園はまるで王城のような壮麗な作りであり、規模も広大だ。講堂から教室まではそこそこ距離があった。


新入生たちはそれぞれ物思いに耽りながら、学園の廊下を歩む。

セスティールもその1人だった。上手くやっていけるだろうかと、ふと不安になる。


不意に、隣を歩くルイスがこちらに顔を向けた。


「学校生活、楽しみだね、セス」


まるで、こちらの不安を見通しているような優しい表情をしていた。

思わず表情が緩む。


「ああ、そうだな」


やはり大丈夫だ。今は、何も憂うことはない。

少なくとも、こいつと一緒なら楽しくやれそうだと思いながら、セスティールはたどり着いた教室に足を踏み入れた。


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