スタイリッシュ☆ドゲザ―
アイドル。それは地上に降りた天使。仕事や人間関係に疲れた人々を癒す天使。彼女たちには翼がある。『希望』という名の翼が。
ここは渋谷の裏通りにある喫茶店。リュミエール。昔ながらの喫茶店で、西洋風の内装に彩られた店内には二人の女性が、書類の束を持って、なにやら話をしている。
「しっかし、遅いなー。もう二時間遅刻だよ? 美玖くん」
秋篠静、三十七歳は足を組んで、アイスコーヒーをすすりながら久隆美玖に愚痴を言った。
「キミタカは時間にルーズですから☆」
そう言って美玖はスマホを取り出すと、ラインをチェックした。さっき送ったメッセージが既読になった気配はない。
その時だ。喫茶店にカランカランとベルの音が響く。二人は入り口のドアを見やった。黒い喪服に赤いワイシャツ、ノーネクタイに黒い靴の男が店内に入ってくる。
「おっそいぞ☆、キミタカ。なにしてたのさ☆」
キミタカはサングラスを外しながらそれに答えた。
「ミューズの女神とランデブーしてたのさ……」
「寝坊したんだね☆」
秋篠は入店してきた男を見やる。美玖の話ではギタリストで世界的名声を得ていると言う話だったが、秋篠の知らない男だった。
「それではさっそく」
公孝はそう言うと、なぜか秋篠達とは正反対に歩き、壁に手を付き、振り返りざまに秋篠たちの席に向かって飛んだ。そして空中を一回転して土下座の姿勢を取り、着地ざま叫んだ。
「この度はお待たせしてひっじょーうに申し訳! ありませんでした!」
これぞ公孝の奥義の一つ、ジャンピング土下座ー空中一回転である。
「なんなの? この人。本当に?大丈夫?」
「あ、言い忘れてたけど先生、キミタカは頭のネジが足りないのであまり大丈夫ではありませんけど、やるときはやる男です☆」
美玖はそう言った。
「その言いぐさは何だ! ミック!」
キミタカはズボンの埃をはたきながら言う。
「事実でしょ☆」
「まあまあ、秋篠先生。とりあえず話と言うのは?」
そう言って秋篠の隣に座ろうとするキミタカを、秋篠は両手で止めた。
「ちょ、なんでこっちに座るの? やめて近い、近い!」
秋篠静三十七歳は顔を赤らめて言った。諦めて美玖の隣に座る公孝。秋篠は短刀直入に言う。
「神威公孝さん、ギタリストということだけど、今の所属は?」
「フリーランスです。自由なカラスでいたいんだ。檻の中のクジャクより」
「あ、そ、そう? わたしのプロデュースする秋篠女学院、知ってますよね?」
「無論。俺の股間を徳川リンがヒートアップさせてますよ、無論、実用書として写真集も買いました。実用。写真集ですよ? スケッチの見本として使うのかな?」
「オナニーのおかずでしょ?」
「ちょ、セクハラ! 二人とも。わたし女だから」
「ふむ。で、作曲の依頼ですか?」
「いや、新グループは秋篠女学院とカラーを変えようと思っていて、で、君に白羽の矢が立ったわけ」
「なるほど。少し考えさせて下さい」
「条件はーー」
「やりましょう」
一秒で即答だった。
「はや、返事はっや。神威さん、本当に考えた?」
「ええ、俺のガラスのハートでね。ホットでクールなグループにしますよ」
そう言って公孝は親指を立てた。