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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編

関西弁の子が、親友クラスの女の子に告白する話

作者: zig

 「うちなぁ。めっちゃ好きやねん、アンタんコト」

 「は?」

 

 某ファーストフード店の二階でハンバーガーをパクついていた私に、向かい合わせの席で頬杖をつきながら窓の外を眺めていた環ちゃんが唐突に言いだした。


 「ちょ、ちょいちょい環。なんて?」

 「だからぁ。アンタんこと、好きやっていってんの」


 思わず目をぱちくり。

 瞬きを繰り返しながら不機嫌そうな環を見ていると、咥えたポテトの残りが頬の内側にもごもご消えていく。

 関西から来た、わたしの友達。

 もうすっかり親友クラスの突然な告白に、ハンバーガーを持つ手が止まった。


 「そ、それって……。友達としてのライク? それとも彼氏彼女的なラブ?」

 「彼氏彼女的なラブ」


 戸惑いから口にした質問は、長い睫毛を添える大きな瞳のジト目を連れて返ってきた。

 

 「ほ、ほぉぉ~? こ、この私に、ラブな感情をお持ちですかぁ」

 「そや。わるい?」


 別に悪くはないけど、とぼそぼそと言いながら、間を取り持つようにハンバーガーをぱくっと食べる。

 ようやく鼻筋を窓から私に戻した環は、その不機嫌そうな頬杖と拗ねたような瞼は崩さないまま、私の食べる様を黒い前髪の下からじっと見つめてきた。


 「で、でもなんで、そんな機嫌悪そうな顔していうの? しかも今」


 ここは午後三時過ぎの賑やかな店内。一段落してるとはいえ、まだまだ子供も大人もいっぱいいる。

 そして私たちのように、授業が終わっておしゃべりに来ている女子高生たちだって、ちらほら見かける。

 場所もムードも、全然ない。


 「……自分の胸に、心当たりは?」

 「……・ありませぇん……」


 そう答えたら、はぁ、と環がため息をついた。なんで?


 「あんなぁ。自分、昨日か一昨日くらいに、先輩に告白されたんやろ?」

 「あっ……。うん。まぁ……」


 ギクッとして、またハンバーガーを持つ手がとまった。


 「ウチ、なーんも聞かされてへんのよ。南が先輩に告られたっちゅーことを。親友なのに。親友なのにやで!?」

 「あ、あー」


 ずいっと威圧感を増してくる環の視線を、窓を見るようにして回避する。

 もうハンバーガーどころの話じゃない。授業が終わってお腹すいてるのに。くすん。


 「で?」

 「で、とは?」

 「返事」

 「返事?」

 「あー!!! もう! 自分ニブいわぁ! 返事っつーたら、その先輩への返事に決まっとるやん!!」

 「あ、あー。それね……」


 今度は視線の逃げも許されない程に詰め寄られてしまった。

 環のキレイな目が、私の瞳孔を捉えている。あ、環の肌めっちゃキレイ。……じゃなくて。


 「こ、断ったよ」

 「なんで!」

 「なんでって……」

 「タイプじゃなかったんか!? それとも他に好きなヒトでもおるん!?」

 「い、いや、だって……」

 「かぁぁぁぁ! はっきりせぇや自分!! 女やろがぁ!!」


 女だからなんなのだろう。男ならはっきり言わなくてもいいのだろうか。

 とはいえ、そんな屁理屈じみた返答をしても到底許してもらえるビジョンが思い浮かばないので、仕方なくありのままの気持ちを伝えてみることにした。


 「だって……」

 「だって、なに!?」

 「私には、環しかいないし……」

 「へぁあ!?」


 観念して正直な気持ちを呟いたら、環が変な声を上げてフリーズした。


 「ちょ、ちょっとまって。なに? 自分、このタイミングでそんなこと言う? そんな、マジメにあかんやん自分。これじゃまるで、ウチが告白強要したみたいになってしもうとるやん。あ、あっつー。今日ごっつ暑いわぁかなわんてホンマに。ちょ、ちょい冷房とか下げられへんかなホンマに」

 「環。落ち着いて環」


 テーブルに乗り出していた身を引いてもらえたはいいものの、さっきより明らかに顔の赤い環。

 さっきの不機嫌そうな顔もいいんだけど、この動揺っぷりもかわいいんだよなぁ……。


 「あ、あー。アンタがウチをそんな風に思っとってんのは知らんかったわぁ。ウチはアレやで? べつに南がウチを好きってゆーか、友達的なライクでも別に知ったこっちゃないことはないけどともかく彼氏彼女的なラブの意味で言ってくれたってゆー解釈でオーケー?」

 「お、オーケーオーケーその通り。彼氏彼女的な意味でラブだよ」

 「ほああ!?」


 今度は全身を緊張させて、環がビクンっ! と固まってしまった。


 「環といるとさ、なんだか落ち着くんだよね。一緒にいると楽しいし。親友……よりも近い存在になって欲しいっていうか……。……ダメかな?」

 「だ、ダメなことない!!」


 わ。声おっき!


 「う、うち、ウチ……!」

 「ちょ、落ち着いて環……。みんな見て……」

 「ウチ、アンタんコトが、ホンマにめっちゃ好きやねんから!!!!」


 はうあ……。

 と、息を飲んだ瞬間、他テーブルからも一斉に視線が注がれる気配を感じた。


 「好き!! 好き!!! 好き過ぎてたまらんの!! ウチ、アンタと一緒じゃないと耐えられへん!!!」

 「ちょっ! 環! シーっ! シーっ!!」

 「女だけどっ!! 好きやからっ!!! だからお願い! 付き合ってっっっ!!!!」


 その絶叫は、圧倒的で。

 二階にいた全員が、固唾を飲んで見守っていて。

 その様子がわかっていたし、第一目の前でふーっ、ふーっ、と肩を荒げる環の必死さが尊くて。

 だからつい、私も言ってしまった。大胆に。恐れることなく真正面から。


 「……環」

 「ふぇ……?」

 「私も、環のこと、好きだよ」

 「んっ……!?」


 そして、愛し過ぎる唇に、キス。

 

 「……。えへへ。初めてのキスだね」

 「……もぉ。アホちゃうん。みんな見てる……」

 「見せつけちゃおうよ。私と環が、どのくらい好き合ってるかっていうことをさ」

 「……。バカ」


 初めて交わした恋人のキスは、すごく熱くて、柔らかくて。

 黄色い悲鳴が上がる二階で、私たちは、また確かめ合うようなキスをした。

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