大天使
「あ、ベッドの下に入ってしまっていますね。いまお取りしますね。はい、どうぞ」
こうして、和久田の天使こと夢子は、わざと床にほうりなげ、どういうことかベッドの下に入り込んでしまった彼の、その端末にはカバーもフィルムも貼られていなかったiPhone7を無事に拾い上げ、和久田の右手、つまり、点滴が打たれていない腕側でとれるように、手渡してくれたのだった。
「ありがとうございます。すみません、ヘマをしてしまいまして」
和久田は、申し訳なさそうな顔をして、実際は、申し訳ないなどとは微塵も思っていないが、そう伝えた。
「いいえ、いま、暇ですから、なにかお困りごとがあれば何でもおっしゃってくださいね!」
前言撤回。彼女は天使でなくて、大天使。
ここで、和久田はスイッチが入ってしまった。つまり、全く困りごとと関係の無い質問を投げかけたのであった。
「ところで、看護師さんというお仕事は、大変でしょう。私、インターネットで見かけたことがありますよ。年上の先輩方が、大変に厳しいのではないですか?」
大天使ドリーム娘は、少し困ったような顔をして、小声で答えた。
「大きな声では言えませんが、そうなんですよぉ~、、、」
もはや、完全に、大天使の心を掌握したと勘違いしたこの血液ドロドロ瀕死野郎は、続けざまに、質問をした。彼は、会話を膨らますことができず、まるで面接官のように質問を飛ばし続けることしか出来ないのである。コミュニケーションに関して、話し方教室に通ったり、雑談が出来るための自己啓発本を2~3冊や、声の出し方、笑顔の造り方といった本を無駄に購入してこのザマである。やはり、いますぐCCUから、外に脱出できる窓を発見し、飛び降り自殺を図るしかないのかもしれないと考えつつ、口の筋肉は運動を続けた。
「それにお給料も、大した額じゃないでしょう。副業でもしないと、大変ではありませんか?!」
夢園のアルバイト娘はここでついに、自身の招待を明らかにした。
「実は、母が働いているお店で、たまにアルバイトさせてもらっているのです」
和久田はここで、深く追求することにした。
「そういえば、あなたの顔、どこかでお見かけしたことあるような、、つい最近、お爺さんが座っているだけのお店。。」
「あ、夢園です」
「(オッフ、と気持ちの悪いオタクの鳴き声のような叫びを上げること我慢し)ですよね。。そんな気がしていました。どこかで、見たことあるなぁと」
「和久田さん、お客さんでお見えになったの、私も覚えています」
もはやこれは運命なので、結婚したほうがいいのではないだろうか。