町中華料理屋のアルバイト女学生で推し活をする終わっている男
それから、翌日も、和久田は夜ごはんをこの夢園で摂ることにした。
店内に入店すると、またしても、例の爺さんが厨房奥の椅子に座って佇んでおり、婆さんのみが「いらっしゃいませ」と、にこやかに声を出し、昨日と同じ位置に座したボクの目の前に、おしぼりを持ってきてくれ、また、隣の席に立てかけてあったメニュー表を見せてくれた。
メニュー表を眺めると、紹興酒ハイボールなる独特なお酒もあり気になったが、結局のところ、餃子に、ホワイトホースハイボールを注文し、心が病んでいたのか、ハイボールはウィスキーダブルにするよう、婆さんにつたえた。
そうして、丸テーブルから厨房の中を、自分が観察していることはバレぬよう、スマートフォンで某SNSを眺めつつ、もっとも、そのSNSは非常に心身に両方に対して悪い影響を与えているようにしかおもえず、大抵は、婚活でアポイントを取った男性が、割り勘を要求してきただの、夫婦生活において、夫にいつもの牛乳を買ってくるよう伝えたら、全く違うもの買ってきて、その行動一つを切り取り、何の役にも立たないだのと愚痴を垂れ、その愚痴は最早、明日、夫氏が自分の想定していた商品と違う牛乳を選んだことに端を発し、核戦争が勃発し、人類が滅びでもするかのような言い振りであったが、とにかく女性の意見が優勢であり、学校の授業かどこかで聞いた、平和な時代は女性の権力が優位になり、国家の存亡が脅かされるような戦争に突入すれば、男性優位の時代になるという言説を聞いたことを思い出し、それはたしかにその通りなのかもしれないなぞと考えながら、和久田の目線は、爺さんが餃子を作り出すかどうかの一点を、注視していたのであった。
しかしながら、期待が外れたというよりかは、期待通りに、爺さんは椅子に座ったまま、床を眺めて佇んでいたままだった。爺さんの恰幅はよく、身長は170センチぐらい、体重は80キロ程度はありそうなで白髪頭、ボクの創り上げたストーリーの中では、隠居して、地元でこじんまりとお店を営んでいるが、かつては料理の達人だったというような人物像が、その通りにはならないようで、婆さんがまたしても、餃子を作り始め、餃子が焼かれるジュウジュウとした良い音が、客席内に響き渡っていた。
そうして、五個入の餃子に、ホワイトホースハイボールが目の前に出されると、まずはお酒を半分ほど一気飲みし、餃子をほうばった。この時間は至福の時間であった。なんとなく、最近、胸の真ん中あたりが痛いのが気になっているが、無視をして、追加でラーメンを食べて帰った。つまり、最大の目的であった夢子との再会は果たせなかった。彼女は今日はシフトに入っていないようだった。
その翌日も再度、夢園に入店した。目的はもはや、ホワイトホースハイボールでも餃子でも、ラーメンでもなく、いまのところ2分の1の確率でシフトに入っている、夢子に会うことだった。結果、夢子がシフトに入っている確率は3分の1だった。
「(今日もいないとはな)」
心の中で独りごちた和久田はチャーハンを婆さんに注文し、またしても、厨房の中に佇む爺さんでなく、ウエイターも兼ねる婆さんが中華鍋で熱心に炒めたチャーハンをほうばった。
湯気がもくもくと立っていて、二酸化炭素濃度が通常よりも多いように感じたと同時に、胸の右下あたりが10秒ほど痛みだし、収まった。
かとおもうと、その中年男性は、気を失った。あまり格好いえる気絶とはいえず、青白い顔が、エビのむき身が入ったチャーハンの中にダイブしていた。