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フェイクじじい  作者: ワーク笹沼
2/11

なにもしないコックじじい

 「いらっしゃいませ〜お好きな席へどうぞ〜〜」


 その女子高生と思しきアルバイトの子は、ボクの入店を確認するとすぐ、微笑みながら、発声をしてくれた。


 これはマニュアル通りの接客なのかもしれないが、彼女の柔らかい微笑みは、まるでアザラシが微笑んでくれたような、周囲の雰囲気を柔らかくしてくれるような、不思議な魅力に包まれ、その微笑みのために店内は、下町の中華料理屋なのか、花園なのか、分からなかったが、もう1名のお客さんを一瞥するに、きっと中華料理屋なんだろう。なにをいっているのか分からないかもしれないが、彼女は香水のいい匂いがした。脳内で、ボクは彼女のことを夢子(ゆめこ)と命名することにした。


 個人経営のお店で懸念していた不安も無事に払拭された。つまりは、常連客しか来ないお店であり、ボクのような一見さんが来た瞬間、新型感染症を恐れてよそものを排除しようとする地方在住者のごとく、鋭い眼光で睨みつけられ、「お前、なにしにきた」と言わんばかりの態度を取られるのではと不安に感じていたが、そういうことは一切なかった。


 店内にはスタッフが3名いるようだった。


 1人は、先程から何度も登場している、ボクを出迎えてくれた、夢子。


 もう1名は、微かに厨房内を除くと視認できる、白髪の爺さんだ。おそらくこのお店の店長であり、70歳ぐらいだろうか。料理を担当しているのであろう。


 そしてもう1名は、厨房内で待機している、70代と見える婆さん。おそらくは爺さんの妻だろう。


 ここは爺さん婆さんの自宅でもあり、2人は年金ぐらしをしているから、客が入らなくてもやっていけるのだろうと推測した。もしかしたら、近所のアパートの大家でもあり、家賃収入があるのかもしれない。


 ちなみにお店の作りとしては、入り口入って右側がレジ、左手に10人程度が腰掛けられる丸テーブルが設置しており、また真正面が厨房となっている。丸テーブルの奥、つまりは厨房スペースの左側に、8人がけのテーブルと、更にその奥には、4人がけのテーブルが左右に2つ設置されていた。


 サラリーマンのお客さんは、中年ぐらいと見えるが、8人がけテーブルの、手前左側、つまり壁際で、なにかザーサイのようなおつまみを食べながら、紹興酒を嗜んでいたというわけである。


 ボクは、10人掛け丸テーブルの窓際に着席した。つまりは、厨房側と、夢子を常に視認できる位置に着席したということになる。


 「お決まりになりましたら、またお声がけくださいませ〜」


 夢子は、おしぼりとメニュー表を持ってきてくれ、アザラシの微笑みで発声してくれた。


 「ありがとうございます」


 と返事をし、メニュー表を確認。何を注文しようか迷ったが、エビチャーハンと餃子、それに、ハイボールを注文することにした。ハイボールはホワイトホースハイボールだった。


 大きく挙手をし、夢子が気づくの待った。その挙手に彼女が気づくと、


 「注文お願いします」


 などと、あまり喋りなれていない、いかにも童貞であることがバレバレな、情けない声量で叫んだが、正確に「注文お願いします」が聞き取れたかどうかは定かでないものの、この輪久田未来が、注文を告げたいニュアンスで挙手をしたことに関しては察してくれたようで、伝票に注文を記入する準備万端の状態で、夢子が近づいてきてくれた。


 「エビチャーハン、餃子、ハイボールをお願いします」


 「はい、かしこまりました!」


 こうして、ボクの注文は、厨房へ告げられ、いよいよ、マスターと思しき白髪の爺さんが腕を振るうタイミングが来たぞと、期待をして厨房内を覗いてみると。爺さんは何もせず、椅子に座って茫然自失としていた。


 まずは、婆さんがホワイトホースハイボールを作り、夢子に渡して、ボクのテーブル席に運ばれてきた。


 そうか、お酒は婆さんが作ったのか。いよいよ、爺さんがエビチャーハンと餃子を作り始めるぞと、厨房内を観察していたが、一向にその爺さんは動かない。


 爺さんは動かないが、中華鍋を振るう音、餃子を焼く音は聞こえてくる。


 え、、、いや、中華鍋を駆使して、チャーハンを炒めているのも、餃子を焼いているのも、婆さんじゃあないか。


 そうして出来上がったエビチャーハンと餃子を、また夢子が運んできてくれた。


 ボクは、チャーハンと餃子を口に運びながら、ハイボールを飲んだ。味は、近所の町中華料理屋といった味だった。旨いか不味いかでいえば、旨かった。


 こうしてレジでお会計を済ませ、お店を出ていこうとする刹那、夢子が語りかけてきてくれた。


 「また来てくださいね!」


 「おいしかったです。また来ます」


 はぁ、、、なんなんだあの子は、愛想が良すぎるし、可愛すぎるだろうが。


 ボクは、彼女がいる時間帯に、再訪することを決意した。


 それにしても、チャーハンも餃子も調理しないあのコック服の爺さんは一体なんなのだ。ボクがお店に入ってから、出るまで、一切なにもしていないじゃあないか。


 後日、その爺さんの秘密が明らかになるが、いまはただただ、夢子のことが気になって仕方がなかった。自宅アパートで睡眠をし、起床すると、彼女の顔が終始浮かび上がってくる。


 33歳の冴えないサラリーマンのボクが、16〜17と見える女の子に恋をしてしまったらしい。


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