夢のようなナオン
東京のある下町、客が多くはいないが何故か閉店せず営業を細々と続けている中華料理店がある。特に特徴もない、どこにでもある町の中華料理店といった趣で、いわゆる町中華と呼ばれるタイプのお店だ。ボクは、自宅から最寄り駅迄の通行中に、そのお店があることを認識はしていたものの、この町で暮らして7年、入店したことはなく、同じように通りにあるクリーニング店や焼き肉屋、コインランドリーと並び、風景の一つと化していた。
しかし、何もかもが嫌になりながら、つまり、監視していた会社の、女性社員のトゥイッターアカウントを覗き見すれば、「無能上司がアホすぎて辛い」とボクのことが書いてあるし、マッチングアプリではいくらメッセージを送っても出会うどころか返事すら来ず、かといって、自殺するほど勇気があるわけでもなく、結局のところはダラダラと生き続けてしまったある日の帰り道、その中華料店前にて、心奪われる出来事が起こった。
ちょうど、時刻は19時半ぐらいだったろうか。自宅に向けてダラダラとゆっくりした歩き方にて、ようするにこの男の絶望的な点はまさに無意識中にこそ見られるものであるが、冴えない人間、陰湿なキャラクター性の人間、パートナーはおろか恋人、友人さえもいない一人ぼっちの人間というものは、歩くスピードだけは人一倍早いと相場が決まっているのに、それすらもゆっくりとしている点に見られるのであり、話が横道に逸れてしまったが、ふと中華料理店の中を覗き、また歩を進めようと足が動く前に、中華料理店内を二度見してしまった。
店内には、夜限定のアルバイトなのか、えらく容姿の整った、若い女性がホールにおり、身長は157センチぐらいで、肌は白く、髪は黒髪ロングで髪先はウェーブがかかっていた。全身から優しい雰囲気が放出されていた。目は黒目の部分が多く、口をアヒル口に曲げており、どこか、誘っているかのようにも見えた。おそらく年齢は16〜17ぐらいといったところだ。客はサラリーマンの一人客が静かに、紹興酒を嗜んでいるのみだった。
彼女の姿を視認した瞬間、死んだ魚の目をしたボクから、瞬間湯沸かし器のごとく、ある欲望が湧いてきた。
・・・「(彼女に注文を、してみたい)」
ボクこと、和久田未来は、根がどこまでも優柔普段にできており、あそこまでの美少女がいながらも、入店するかどうか迷っていたが、中を覗いていると、彼女と目が合い、微笑んできたため、まるでストーカーのように捉えられるのも嫌なので、あくまでも料理が気になるぞといった体で、その中華料理店、夢園の、スライド式の扉を開け入店した。