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七宝怪談  作者: 七宝
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行ってはいけない家 2

「お前はいつも余裕をかましてやがる⋯⋯それが気に食わねぇ」


 金夜は怒りをあらわにし、美少年を睨みつける。いつも気にかけていた春山家をターゲットにされたのだ、当然の怒りだ。


「余裕があったのは君がいつも遅れてくるからだ。今日はそんな余裕はないよ。君の力を知っているからね」


 そういう彼の表情からはまだ余裕を感じられた。


「出来れば僕は戦いたくないんだ。ねえ金夜、取引をしないか。君が応じればこれ以上の被害はなくなる。約束するよ」


「どんな内容だ」


 こいつに何人も殺されているため、金夜はもちろん疑っている。


「ハミコちゃんを殺してくれ」


「!?」


 一同は驚きを隠せなかった。自分を殺すように言われているハミコは少し涙ぐんでいる。


「僕はハミコちゃんが生まれた日、ハミコちゃんのお母さんによって生み出された魔物なんだ。そして君のお母さんは僕に君を呪い殺すよう頼んだんだ」


「え⋯⋯ママがそんなことを!」


「君に物心がついてから僕は君を呪い始めたが、君には効かなかったんだ。だから代わりに何人か殺して経験を積み、力を得ることを考えた」


「そんな⋯⋯私のせいでみんなが死んでたなんて」


「耳を貸すな! こいつの嘘だ!」


 金夜はあくまでハミコは悪くないと言っている。


「つまり、君が死ねば僕も消えるんだ」


「お前さっき取引だって言ったよな? こんな取引、お前になんのメリットがあるっていうんだ」


「そもそも僕の目的はハミコちゃんを殺すことなんだ。僕は消えちゃうけど、目的を達成するために今まで頑張ってきたんだからそれで満足だよ」


「だァーーーーーーっ!!」


 夏男が突然叫んだ。


「なにが取引だ。母ちゃんを殺すだ殺さないだと勝手に言いやがって! 俺が許すわけないだろ!」


「夏男⋯⋯」


 ハミコの涙は嬉し涙に変わっていた。

 こんな状況でも嬉しいだなんて、私ってやっぱり変ね。私も戦わないと!


「あんた嘘ついてるね。私の母親は出来る限りの愛情を注いでくれていたわ」


 ハミコは彼の嘘を暴こうとする。


「そんなこと言われてもねぇ。心の中では違ったんじゃないの」


「あんた、さっき会った時言ったよね『君は僕だ。そして、僕は君だ』って。それってつまり、私があんたを作ったってことじゃないのかい」


 百歳とは思えぬ完璧な推理をするハミコ。


「さすがハミコちゃん、その通りだよ。君には敵わないなぁ」


 悪びれる様子もなく嘘を認める美少年。


「百年前、君は生まれたと同時にあることを強く願った」


「もう行こーよ! 早く行こーよ!」


 話が長すぎて退屈したのか、楓が騒ぎ出した。美少年の腕を引っ張ってどこかへ行こうとしているようだ。


「ごめんごめん、もう少しだけ話させてよ」


「ハミコちゃんは『今、この村で一番可愛い女を殺したい!』と強く願ったんだ。その結果僕が生まれ、その瞬間一番可愛いかった君が標的となった」


「それは照れる」


 赤ん坊が一番可愛がられるのは分かっているが、それでもハミコは嬉しかった。この歳になって、自分が一番可愛かった頃があったことを思い出させてくれたのだ。


「君が死なないならもうどうしようもないからね。他の人がまた死ぬよ」


(何か方法は無いのかしら⋯⋯もし私が死んだとして、絶対に彼も消えるとは限らない。また嘘をついているかもしれない。なら⋯⋯あっ! そうだ!)


「消えろぉぉぉおおお!」


 ハミコは力の限り叫んだ。


 パッ


 瞬く間に美少年は消えてしまった。


「おい婆さん、これは一体どういう事だ?」


 金夜はわけがわからないと言った顔をしている。夏男も同じような表情だ。楓は少し悲しそうな顔をしている。


「私が強く願って生んだ魔物なら、強く願えば消えてくれるんじゃないかと思ったの」


「なーるほど! あっけなかったな! 結局俺の出番もなしで!」


 金夜は納得して帰って行った。いつの間にか周りの景色が見慣れたものになっていた。地面には両腕のないクマのぬいぐるみが二つ落ちていた。


「これはね、昔あの子が現れた時に欲しがって無理やり持っていこうとしたんだけど、私がどうしても嫌で引っ張ってたらちぎれちゃったの」


 ハミコが懐かしそうに語った。


「ちぎれちゃうくらいなら最初からあげてればよかったなぁ。寂しかったからぬいぐるみが欲しかったのかなぁ」


「あんなやつに同情するなよ」


 夏男が言った。


「生まれたばかりの私が何かの間違いで生み出してしまって、こっちの都合で消えてもらっちゃって、なんか悪いなって⋯⋯あー! くよくよしてても良くないか! 帰ろう! ほら楓も、手繋いで帰るよ!」


 三人で手を繋いでゆっくりと歩き出す。


「晩ご飯はホットケーキだよ!」


「やったぁー!」


 二人は無邪気に喜んでいる。三人は笑顔のまま帰って行きました。めでたしめでたし。




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