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七宝怪談  作者: 七宝
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行ってはいけない家 1

 私が育った村には絶対に行ってはいけないと言われていた家があった。何人か行ってしまった者もいるが、全員例外なくその家に行った月の最終日に死んでいる。月末に行くと大変だ。行った日から何かしら見えるようになるらしく、自分の家から出られなくなってしまう。そして全員死ぬ瞬間にこう叫ぶ。


「あの家に行ってはいけない!」


 怪談に出てきそうなありがちな話だ。この話を聞いた誰もが嘘だと思うだろう。しかし本当なんだから仕方がない。この村の人間であれば疑う余地もないのだ。


 祟りの確定しているこんな家に行こうなどと思う人がいるということが私は怖い。と最初は思っていたが、どうしても行きたくなってしまうカラクリがあることが最近分かった。私には楓という妹がいるのだが、先日その妹が被害者になってしまったのだ。私はあの家に行った人間の一部始終を見た。


「お兄ちゃん、今日スーパーで変な子を見たの」


 楓のこの言葉から悲劇は始まる。

 母と一緒に買い物に出掛けていた楓は、お菓子コーナーに佇む中学生くらいの男の子に目を奪われた。初めて見るほどの美少年だったのだ。しかし、その美少年の手には両腕のない薄汚れたクマのぬいぐるみが二つ抱えられていた。


(何あれ? あの年齢でぬいぐるみを持ち歩いてるの? しかもクマだし腕ないしだいぶ年季入ってるしちょっとキモいな⋯⋯)


 そんなことを考えていると、美少年は楓に近づいてきてこう言った。


「君かわいいね。今から僕の家に来ない?」


 楓は先ほど感じた嫌な印象も忘れてこの美少年にときめいてしまった。しかし、母と来ていたのでいきなり居なくなる訳にはいかないと思い、母に聞くことにした。


「ママに聞いてみる! ちょっと待っててね!」


 楓はすぐさま鮮魚コーナーにいた母のもとへ走っていった。母はサーモンの刺身を選んでいた。


「ママ! かくかくしかじか!」


 母は驚いた様子で少し考え込み、こう言った。


「ダメよ。その子には用事があるって断りなさい」


「ちぇっ。いけず」


 楓は渋々断りに行くことにした。しかし、お菓子コーナーに彼の姿は無かった。


「あいつ、からかいやがったな」


 楓は激怒した。


「はいはい、どうせ私はブスですよ。私なんかにあんなカッコいい子が声かけてくれるわけないもんね。はぁ⋯⋯んもう! クソが! ⋯⋯クソがぁああ!」


「ほら楓、他のお客さん達見てるから! 早く帰るよ!」


「うるせーババア! あんたに私の気持ちが分かるもんか! あんなイケメンに声かけられたことないだろうが!」


 ビタン! と母は楓の頬を叩いた。


「あるわよ! それに、誰がババアよ! あんたもババアじゃないの!」


 取っ組み合いの喧嘩にまで発展してしまった。七十歳の娘と百歳の母との喧嘩はまるで地獄のような光景だった。この辺りで買い物が出来る場所はここしか無いので、客はほとんどご近所さんだ。しかしそんなことに構うことなく喧嘩を続ける二人。


「おい、おめぇらやめねぇか⋯⋯」


 客の一人が凄味のある声で言った。この男はこの村のボスのような存在である金夜(きんや)さんだ。何か問題が起こると現れ、解決して去ってゆく。


「金夜の小僧か⋯⋯仕方ない、帰るか」


 母は金夜の顔を立て、娘を連れて帰って行った。楓は怒りながらも少し離れて後ろをついて行った。


「ほらいつまでもムスッとしてないの! かわいい顔が台無しよ?」


 後ろ姿の母が言う。


「⋯⋯⋯⋯」


 (ママもあいつと一緒だ。私がブスなの知っててこんなことを言う)


「もう知らない!」


 楓はあさっての方向に走り去って行った。


「ちょっとなんでそっち行くのよ! 帰り迷うわよ!」


「うるせーババー! 私がどこ行こうと勝手じゃーい!」


 七十歳とは思えぬスピードで野道を駆け抜けてゆく楓。百歳の母は追いつくどころか走ることすら出来ず、その場に立ち尽くしていた。


「私のせいで楓が⋯⋯」


 先ほどの美少年の特徴に母は覚えがあった。母も昔誘われたことがあるのだ。その時はぬいぐるみがキモかったので誘いには乗らなかったが、楓は乗り気だった。おそらくあの美少年はこの世のものではない。楓から聞いた特徴が九十年前に会った時と全く同じだったからだ。


「へぇー、あの子楓って言うんだね」


 母の背後から声がした。聞き覚えのある声だった。


「久しぶりだね、春山ハミコちゃん。僕の誘惑に唯一抵抗した女の子」


「あんた楓をどうする気だい? そもそもあんた何者なんだい?」


 ハミコは恐怖を感じ震えていたが、娘を守りたい心が彼女の口を動かした。


「そうだね、君になら話してもいい⋯⋯。僕はある人間の呪いによって動いている。もう百年も前からだ。もっと細かく言うと、君が生まれた日からだ。」


「私が生まれたこととあなたは関係があるっていうの?」


「そう、君は僕だ。そして、僕は君だ。ちょっと今から忙しくなるから、またね」


 そう言うと彼は姿を消した。


 楓が危ない! なんとしてもヤツを止めないと!


 その頃、楓はすでに家に帰っていた。適当に走り回っていたらたまたま着いたのだ。


「お兄ちゃん、今日スーパーで変な子を見たの」


「お前も十分変だけどな。そのお前が変な子って言うってことはなかなかの逸材だな」


 楓は少しムッとしながらも話を続けた。


「すごくかっこいいイケメン男子で、私のことかわいいって言ってくれて、家に誘ってくれたの」


「変なんてレベルじゃないな。お前それやばい宗教かなにかの勧誘だぞ。絶対に騙されてる」


「うるせージジイ! まともに話も聞けんのか!」


 楓はあさっての方向に走りさっていった。


「あいつ靴も履かずに飛び出しやがって⋯⋯」


 そう言いながら兄の夏男は靴を履いて家を出た。楓の話に出てきたスーパーにとりあえず行ってみるのだ。


「おーい夏男! 楓見なかったかい?」


 やつれたハミコが夏男に尋ねる。


「さっきまで家にいたけど走ってどっか行っちゃったよ。イケメンがなんちゃらとか言いながら。靴も履かずに出ていったから今俺も探してるんだ」


 それを聞いたハミコは鬼のような顔をして走り出した。百歳の命懸けの走りを見られるのは今だけだ!


「ふーっ、けっこう走ったなぁ。あれ、ここどこだろ?」


 その頃、楓は迷っていた。七十年育った村なので土地勘はあるはずだが、今日はどこか変だ。そもそもこの村に知らない場所など無いはずなのだ。適当に走っても知ってる場所にしか出ない。


「待ってたよ楓ちゃん」


 例の美少年が立っていた。


「あなた、さっきはよくも私をからかったわね!」


「誤解だよ。さっきはあの場を離れるしかなかったんだ。金夜が居たから」


 なんだ⋯⋯私の勘違いだったんだ。よかった、この子に捨てられてなくて。


「そうだったのね。ごめんね、怒ったりして」


「いいのいいの、気にしないで。さ、早く僕の家に行こう」


 生まれて初めて男の子の家に⋯⋯! しかもこんな美少年の家に! 心臓のドキドキが止まらない!


「おいクソガキ、そいつの手を離せ!」


 男の太い声が聞こえた。


「どうやってこの道に入った。金夜(きんや)幽歌九(ゆうがく)


「春山家の二人と歩いてたらお前が楓の手を引いてるのが見えてな」


「君はいつも僕の邪魔をする。君との戦いは避けたかったが仕方がない⋯⋯今日殺しておこう」


「望むところだぜ!」

次回、バトル展開!!

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