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七宝怪談  作者: 七宝
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霊感ゼロVS幽霊ホテル

幽霊なんて信じないもんね

 友人の谷村に教えてもらったそのホテルは、過去に五十二人の男性と十八人の女性が亡くなったという、とんでもない事故物件のホテルだった。

 まさに崖っぷちというような所に建っており、自殺には持ってこいの場所だそうだ。


 谷村の話によると、このホテルには霊が出るらしい。さすがにこれだけ死んでいて噂が立たないわけがない。潰れないのが不思議だ。


 谷村はおそらく霊の存在を一ミリも信じていない私を怖がらせたいのだろう。泊まってやろうじゃないか。今までも事故物件と言われるような所を渡り歩いてきたんだ。

 

 もちろんだが、私は霊を見たことがない。なので信じていない。しかし、皆は私が霊感を持っていないだけだと言う。何を勝手なことを。

 だいたい居るはずのない人や物が見えたなら幻覚を疑うべきだし、それで見えた見えたと集団で騒いでいるのはただのごっこ遊びに過ぎないと思うのだ。


 話を戻すが、今その幽霊ホテル「ローズ」のすぐ前まで来ている。谷村が来るまで車で待機だ。ホテルの周りには何もなく、駐車場があるだけだ。その駐車場もボロボロで、いかにも霊が出そうな雰囲気だ。だが、車が沢山ある。意外と混んでいるようだ。


 先に言っておくが、私は怖がりだ。今も怖い。幽霊を信じていなくても夜は怖いし一人も怖いのだ。だから谷村も一緒にと無理を言ったのだ。


 怖さでぶるぶる震えていると、携帯電話が鳴った。この状況でいきなり鳴るのは怖いよ。

 

 電話は谷村からだった。お腹が痛いから来られないとのことだ。

 谷村のせいで一人で行くはめになってしまった。


 とはいえ、チェックインは十五時なので、それまであと三十分ほどある。谷村と電話でもして時間を潰そう。電話にはすぐに出てくれた。


「もしもし、もうなにかあったのか?」


 あまり具合が悪そうには聞こえない声で聞いてきた。


「いや、チェックインまで暇だったから話でもと思ってな」

 

 他愛もない話で盛り上がり、さっきまでの恐怖と緊張が吹っ飛んでいった。


「ありがとう、そろそろ行くよ。またね」

 

 電話を切ろうとすると、谷村が念を押してきた。


「本当に気をつけろよ。霊感が無いからって何も無いという保証はないからな」

 

 まったく、心配性だな。そもそも霊感自体存在するか分からないのに。


「はいよー」

 

 怖さも吹っ飛んでいたので、私は軽く返事をして電話を切った。


 自動ドアの近くまで行くと、ドアのすぐ向こうにここのスタッフらしき人が見えた。もしかして駐車場に着いた時から待ってくれていたのか? 悪いことしちゃったな。


 いざ前まで来てみると、やっぱり怖いな⋯⋯魔王の城に入る時の勇者ってこんな気持ちなのかな。でも勇者にはセーブがあるから私の方がかわいそうだな。

 そう思いながら私は足を踏み入れた。


「ようこそ、ホテル『ローズ』へ!」

 

 満面の笑みで迎えてくれる店員に、私は言い放った。


「うんこ!」

 

 店員はビックリしながらも、お手洗いに案内してくれた。


「さあ、こちらです」

 

 実は私はトイレに用事など無いのだ。なのに突然うんこ! と叫んでしまった。自分でもわけが分からない。しかし、うんこ! と言ってしまった以上すぐに出ていっても変なのでしばらく個室で時間を潰した。


 トイレを出ると、さっきの人が待っていてくれた。


「二名様でご予約の谷村様ですね。ところで、お連れの方は⋯⋯」

 

 私を見ただけで分かったのか? どういうことだ? そもそも私は佐々木だぞ?


「いえ、谷村は連れで私は佐々木です。谷村は急遽来られなくなってしまいまして」


これに対し不思議そうに店員が言った。


「失礼いたしました。名札に書いてあったもので、すみません」

 

 そうだった。そういえば今日名札つけてたんだった。何かあった時にすぐ名前が分かるようにと谷村が作ってくれたんだ。私が谷村つけてるってことは佐々木はあいつの家か。

 それにしても、谷村陽一郎⋯⋯フルネームの名札をつけるなんて初めてだ。まあ念の為このままつけておこう。

 

 私の部屋は七一四号室だそうだ。七階か⋯⋯。まあ、荷物も無いし階段で行くか。


 階段はあまり使われることがないのか、掃除が行き届いていなかった。埃は積もってるわ虫は死んでるわで、階段は使わないことにした。

 

 ロビーに戻ろうと、さっき入ってきたドアに手を伸ばす。⋯⋯開かない。押しても引いても開かない。覚悟はしていた。どうせ幽霊が居るんだろ。さっきのうんこ発言もこれも幽霊の仕業なんだろ! 幽霊! お前性格悪いな! こんな汚い階段昇らせやがって!


 人生で初めて幽霊の存在を認めた瞬間だった。


 なんとか七階まで来た私は、階段の近くに置いてあった椅子に腰を下ろした。

 ふう、運動不足のおっさんにこの階段はきついぜ。帰りは絶対エレベーターにしよ。


 少し休憩したら元気が戻ったので部屋を探すことにした。ここはかなり広いので、案内を見てもちゃんと行けるかどうか。

 あった! 七一〇から七一八だ! よし、すぐそこだな。


 しかし、歩いても歩いても七一四号室まで辿り着けない。部屋はたくさんあるのだが、番号が書いてあるところと無いところがある。使える部屋は十個中三個といったところか。確か全部で千室くらいだったので、三百部屋か。七百部屋に何があったんだ。

 このホテルで亡くなったのは男女合わせて七十人だったはず。なのにその十倍も部屋が使えないなんておかしいな。


 やっと見つけた、ここが七一四号室だ。疲れたから入ったらすぐに寝転がろう。

 ⋯⋯やっぱりおかしい。ドアが開かない。ずっと向こうに押してるのに。あれ、もしかして引くのか?


 ガチャ


 こっちだった。引くやつだった。

 でも、変じゃないか? 普通はそっち側に開くべきだろう。そうじゃないと中から開けた時に通行人にドアが当たってしまう。

 まあそんなことはどうでもいいか、実際このドアなんだから。


 私はそのままドアを引いた。開かない、途中で止まってしまった。おかしいなと思い部屋の中を見てみると、そこには青白い顔の女が立っていた。その女の灰色の手にはドアノブが握られていた。こいつがドアを止めていたのか。


「あの⋯⋯ここ僕の部屋なんですけど」


 映画館でよくあるパターンだ。言い難いんだよ。相手の場所が分かってれば自分がそっちに行けば済むが、分からないのでお手上げだ。


「カ⋯⋯エ⋯⋯レ⋯⋯」


 本気で言っているのか。さすがに怒るぞ。自分の間違いに気付かずにいるようだから指摘してあげたのに、それを帰れだなんて。


「ちょっとそれはないんじゃないかな!」


「カ⋯⋯エ⋯⋯レ!」


 バタン!


 ものすごい力で閉められてしまった。ちょっとフロントに文句言いに行こ。でも一階まで戻るのも面倒だな。

 もう一回だけ開けてみるか。そういえば、ここはオートロックじゃないんだな。私はドアノブに手を掛け奥に押した。


 ガチャ


 ドアを開けると、さっきの女は居なくなっていた。トイレにでも行ったのかな。

 部屋の中は荷物が散乱している。片付けて出ていってもらわないと。とりあえず探そう。まずはトイレからだ。


 ガチャ


「キャー!」


 女が入っていた。しかし、よく見ると別人だ。


「なんですかあなたは!」


 女は怒りをあらわにして私を怒鳴りつけた。


「それはこっちのセリフだ! この七一四号室は俺の部屋だぞ!」


 私も負けじと言い返す。


「いやここ七一五ですけど」


 そんなはずはない。さっき確認したんだ。

いや、ちょっと待てよ、二回目に開けた時ドアを押した気がするぞ? もしかして別の部屋なのか?


 慌てて部屋番号を確認しに行ったが、女の言う通り七一五号室だった。


「大変申し訳ございませんでした」


 レディーのトイレを覗くようなことをしてしまった。許してもらえるのだろうか。


「次は無いぞ」


 なんとか許してもらえたので、部屋を出て七一四号室に向かった。が、七一四号室が無い。両隣の部屋はあるのに、七一四号室だけが無いのだ。フロントに文句を言いに行くことにした。


 もちろんエレベーターで下まで行く。エレベーターからかなり離れたところまで来ていたので、戻らなければならない。


 カツン カツン カツン


 周りには誰もいないのにすぐ近くから足音がする。私が歩みを止めると同時に鳴り止む。


 カツン カツン カツン


 なんだか面倒くさくなってきた私は、この音は自分の足音だと思い込むことにした。

 エレベーターに着いたらすぐにボタンを押す。七階で止まっていたようで、すぐに開いた。


 エレベーターの中には、さっきの青白い女が居た。改めて見ると信じられないほどガリガリに痩せていて、体には怪我や火傷のあとがあった。


「ちょっと一緒にフロントに来てもらっても良いですかね」


「ア⋯⋯ア⋯⋯」


 不気味な女だ。一階に着いたのでエレベーターを出た。振り返ると、女は居なくなっていた。


「カ⋯⋯エ⋯⋯レ⋯⋯」


 もう一度前を向くと女は目の前にいた。私が後ろを向いた瞬間に反対側に移動して、首を戻すまでに前に来たというのか。なかなかやるじゃないか。


「カエ⋯⋯レ⋯⋯オマエ⋯⋯クサ⋯イ」


 なんだとコラ。誰が臭いんだ。


「もう許さん! ちょっと来い!」


 私は女の腕をつかんで無理やりフロントに連れていくことにした。


「すみません! この人がさっきから邪魔ばかりしてくるんです!」


 フロント係はとても驚いた顔でこちらを見ていた。


「触れるんですか、あなた⋯⋯」


「いやいや、触れるも何もないですよ! 早くこの人をどうにかしてください!」


 フロント係の人の話によると、この女はこのホテルで亡くなった最初の一人だそうだ。それ以来客を取り殺し、仲間を増やし続けてきたのだという。ここのホテルで亡くなった人達はその部屋の地縛霊になるらしく、その部屋と周りの部屋は使用禁止にしていたそうだ。ただ、リーダーのこの女だけはホテル中を歩き回る姿が目撃されたという。それならもうホテル自体閉めろよ。


 ⋯⋯ということは、この女は幽霊ということになるわけか。どおりで青白いわけだ。改めて見ると生きているとは到底思えない見た目だ。


「やばいもう無理無理無理無理!」


 女が騒ぎ始めた。普通に喋るのかよこいつ。


「臭いやばい成仏しちゃううわああああ名前覚えたからなてめえコノヤロォオ」


 女は叫びながら消えていった。これで良かったのだろうか。いや、よくない。くさいと言われて傷ついた。幽霊に言われなさそうな言葉ランキングにランクインしそうな言葉なのに、なんの躊躇もなく言われた。


 リーダーを失った地縛霊達も次々と成仏していったようだ。これでここは普通のホテルに戻れるのだろうか。

 つまり私はこのホテルを救ったわけか。谷村に自慢してやろう。


 家に帰ってすぐに谷村に電話したが、出なかった。翌日彼の訃報が届いた。焼身自殺だそうだ。

 

お茶どうぞ(´・ω・)っ旦~

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