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試練の迷宮攻略記  作者: 凡鳥工房


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26/26

26.「俺たちの冒険はこれからだ!」

 リックと妹のハンナ、幼馴染のエルの三人組による試練の迷宮チャレンジ、今日は第五層、第六層、そして第七層を最短時間で抜けるルートの検証を目的としたタイムアタックである。


 一人白銅貨1枚を払って第四層直通エレベータに乗り込む。

 決して安いとは言えないが、一定以上の実力を備えた迷宮挑戦者や魔物狩り(ハンター)は積極的にエレベータを利用する。


「運賃分は、エレベータで短縮された時間で取り返せますし」

「そう考えるようになったら、もう新人ルーキーたぁ呼べねえなあ」


 エレベータの建屋前で出会い、同乗した双剣のベテラン、宵闇よいやみの二つ名を持つおっさんは感慨深げにつぶやいた。


 リックたちが神々からの恩恵ギフトを得るための迷宮チャレンジをはじめた、まさにその最初期にすれ違い、言葉を交わしあってから一年強。


 ときに楽しそうに先輩風を吹かせ、リックとエルの命の危機を救ってくれたこともある。

 またあるときはひどく落ち込んだ様子で愚痴を垂れ流し、ここ最近は無理をしているのか、ほほが削げ、酒臭い息を吐く。


 ベテランの魔物狩り(ハンター)が試練の迷宮に挑むことはあれど、一年以上も滞在するのは極めて珍しい。


 なんといっても、『試練の迷宮は金にならない』。

 また、恩恵がなくとも、魔物の間引きや隊商護衛はこなせる。


 しかし、双剣のおっさんが試練の迷宮に戻ってきた理由は切実だった。

 【暗視】という『はずれ』恩恵のせいでパーティも組めずに単独ピンでやってきたが、歴史上、二つ目の恩恵を得た例があることを知り、希望にすがったのだという。


 恩恵は、一人に一つ。

 何が得られるかも神様任せの、人生一度きりのチャンスであるとされている。


 が、確かに双剣のおっさんの言う通り、二つ目の恩恵を得た記録があることは、リックたちの助言者サクールトも認めていた。


 ただ、その条件がまったく不明なのだ。

 事例自体が少なすぎ、恩恵の研究者でさえも記録の誤りではないかと眉に唾して扱う。


 なんにせよ、『魔物狩り(ハンター)は自己責任』。

 己の立ち居振る舞いに責任を持つべきベテランに、リックのような若輩者が口をだすほうがおこがましい。


 ただ、現状のおっさんの姿は、正直、好ましくない。

 だから、第四層直通エレベータの籠を降りてそれぞれに別れたとき、リックは意識せずに安堵の吐息を漏らしていた。



 ◇ ◇ ◇



 リックたちは第五層、第六層、第七層と順調にルートを消化し、第八層への階段の間で小休止がてらの反省会を開いた。


「今回のルートだと、最短ルートより魔物との遭遇、戦闘回数が減ったとは言いにくいな」

「同じだけ戦うなら、最短ルートでいいもんねえ」

「時間と戦闘のバランスがいいルート、まだまだ検証の余地あり」


 第十層を目指すなら、戦闘回数を抑えつつ、いかに短時間で突破できるかがカギとなる。

 会話中に、その音に最初に気が付いたのはハンナだった。


 ドッドッド……

 遠く、地響きめいた音。


「地震……じゃないよね。魔物が駆ける音……にしては?」

「三匹四匹じゃないぞ、これ」


 あわててそれぞれに武器をとり、警戒態勢に入る。


 迷宮の通路と玄室で振動が反響し方向も距離も定かではないが、音の大きさからは近づいてきている感じがする。

 第八層へ下りる階段の間から延びる通路は一本、もしその先から魔物が群れをなして現れたら、ひとたまりもない。


「いざってときは下に、第八層に逃げるぞ」

「ヤ!」

「うん!」


 幸いにも、試練の迷宮の魔物は階層をまたがない。

 ここが階段の間、逃げ道のあるところでよかったと、そんなことを考えた矢先であった。


 突如、通路の先、松明の光が届かない闇の中から黒い影が飛び出した。

 一瞬、人型の魔物かと身構えたが、闇色の外套らしきものを頭からかぶり、腕を顔の前に組んで勢いそのまま駆けてくる。


「おい!」


 呼びかけに答えることなく、人影は第八層への階段に飛び込んだ。

 直後、魔物たちが階段の間になだれ込んできた。


「下がれ、逃げろ!」


 ハンナとエルが階段に駆け込むのを確認してリックも逃げた。

 階段を走り下りた先、第八層で荒い息を吐きながら汗をぬぐう。熱い汗も冷たい汗も、両方だ。


「とりあえずは、無事か?」

「なにあれ!」

「しばらく、上には戻れないね」


 妹と幼馴染の声に安堵しながら、予備の松明たいまつを取り出し点火する。

 休憩中に新しい松明たいまつに交換したばかりだったのに、三人分の長燭台型松明(たいまつ)支えごと残してきてしまったのが痛い。


「残り四本、待ち時間考えると一本ずつにするしかないか」


 どのくらい待てば、標的を見失った魔物たちはばらけるのだろうか。

 経験のない事態に、リックたちは頭を抱えた。


 そして、より頭の痛い問題がある。


「なすりつけ、だよね」


 魔物を他人から押し付けられる行為。これまた初めての経験である。


 倒せない魔物と遭遇した際に逃げるのはわかる。

 逃げた先で、他者の命と自分の命を比較して、自分を優先すること。これも理性では理解はできる。


 だが、決して褒められる行為ではない。


 なにより、手に負えなくて逃げたのなら、すれ違いざまにでも一声かけることはできたはずだ。階段を下りたあたりで詫びの一言くらいは言えたはずだ。

 しかし、第八層から上に向かう階段の間に、先に飛び込んだはずの黒い人影は見当たらなかった。


「『事故』にみせかけた……」

「迷宮の、殺人鬼」


 エルとハンナの顔が青ざめる。

 多分、リックも同様だろう。


 迷宮の地図と、魔物の出現パターン情報、そして魔物から一定距離を稼げる脚。

 この三つを持つ者が、対処できない数の魔物を引き連れ標的にぶつける。

 標的が魔物に倒されてもよし、弱ったところを追撃してもよし。


「……私たち、狙われてる?」

「そう、考えたほうがいいだろうな」


 飲み込んだつばが喉に絡んだ。


 対策を練る間もなく、嫌な想像に違わぬ結果がもたらされた。

 先ほども聞いた、あの音。魔物たちの駆ける音である。


 ドッドッド……


「どっちだ?」

「……右」


 リックたちは音と反対側の通路を駆ける。


「次の玄室には入らず、右に!」

「ヤ!」


 通路からまっすぐつながる玄室は、いわゆる会敵ポイント。

 ハンナの指示により戦闘を避ける迂回路に進むが、進めば進むほど、第七層への階段から遠ざかることになる。


「最悪、第十層の帰還の間から戻ることも考える」

「第九層の地図は未完成だよ」

「かき集められた魔物の相手よりはまだ勝算がある、かな」


 第七層への階段に向かおうとして、固まっていた魔物に捕捉されあわてて逆戻り。

 迷宮の黒い影、いや、迷宮の殺人鬼が魔物を引っ張っては振り切り、要所に固めているようだ。


「走り回ってるだろうに、たいした体力だな、ちくしょうめ」

「魔物の配置がぐちゃぐちゃだよ」

「誘導されてるってわかってるのに!」


 せめて体力を温存するつもりでいても、過去一度も会敵したことのない通路で人型と幽霊型の複合グループに遭遇する。

 幽霊型にはハンナが特効の投げ網アタックで、人型はリックとエルの共同作業で始末をつけるが、じわじわと追い詰められている感に気が滅入る。


 そんなタイミングで一本目の松明が燃え尽きた。



 ◇ ◇ ◇



 数時間後、リックたちは息を殺して第九層への階段を下りていた。

 階段の間に追い詰められ、迫る魔物から逃げるしかなかったのだ。


 しばらく第八層には戻れない。かといって援軍のアテも長期滞在の準備もない以上、第九層に下りるしかない。


 では先に飛び込んだ黒い影、迷宮の殺人鬼は、獲物を第十層経由でむざむざ地上に逃れさせるだろうか。

 豪商子弟グループも、タンチャウの彼も、致命傷に至ったのは第九層で間違いないだろう。


 仕掛けてくるとしたら、まずポイントになるのは階段を下りきった先の玄室だ。


 エルとハンナに合図をして、リックは松明たいまつを階下の玄室に投げ込んだ。

 とりあえず、明かりの届く範囲には魔物も人影もない。


「行くしか、ないんだよな」

「階段じゃ、炙られたり射られたりしたら逃げ場がないもん」


 全身の神経を張り詰めて警戒しながら、リックは第九層に踏み込んだ。

 直後、剣が飛んできた。


「ック!」


 とっさに短槍を払って叩き落とす。だが、剣を投げてくるとはどういうことか。


 人型の魔物は拾ったものを使う。

 あるいは迷宮の殺人鬼ではなく、人型が未回収になっている武器の一つでも使ったのか。


 いや、魔物のはずはない。

 魔物であれば、索敵圏内に入った人間にはとにかく襲い掛かってくる。


 玄室の中ほどまで放り投げた松明たいまつの明かり以外に光源はなく、ただ、重い闇が周りを取り囲んでいる。


 そろりそろりと、壁を背に階段から離れ、エルとハンナも展開できる間をつくろうとしていたリックは愕然とした。

 投げつけられた剣の柄にロープが結ばれており、カラカラと音を立てて剣が闇の中へ消えていく。


「誰だッ!」


 返答代わりに、今度は袋が投げ込まれた。


 狙いはリックたちではなく、バシャっという音に続いて松明たいまつの炎が減退する。

 すぐに、闇の領域がリックたちを侵食した。


 時折、誰かに見られているようなむずがゆさを感じて反射的に身をひねる。

 自分の荒い息遣いが耳に響く。


「いい加減に出てこい、迷宮の殺人鬼!」


 闇の奥に、淡い、かすかな光がともった。


「やっぱり……やっぱりあんたか!」

「やっぱりって、なに、俺のこと疑ってたの? カーッ、悲しいねえ」


 聖石は、圧力によって発光する。


 その特性を活かし光量を調整できる聖石ランタンの淡い光を背に、薄笑いを顔面に張り付けたおっさんがゆるゆると近づいてきた。

 双剣の、宵闇よいやみの、【暗視】の恩恵持ちの、リックとエルの命の恩人の、ベテランの魔物狩り(ハンター)その人であった。


「三対一ですよ!」

「おじさん強いよ? 特にこぉんな暗がりなら、坊ちゃん嬢ちゃんなら三人がかりでも余裕? ヒヒッ」


 おっさんは、自前の双剣は両腰にいたまま回収した剣を掲げる。


「いい剣だよな。さすが豪商の息子たん、たっけーぜ、これ」

「……背嚢にしまってたのか」


「んだんだ。俺が持ってるって知られてないから、この剣、本当に都合いいんだ」


 回収されていない剣での傷なら、犯人がおっさんだとは思われない。

 所持がばれたら、直前に魔物を倒して拾ったと言えばいい。


「なんでこんなことを」

「そりゃあ聖石をいただくんだよ。おめー、迷宮入る前にごっそり引き出してただるぉう?」


「聖石って、まさか……」

「次こそは、次こそは二つ目の恩恵もらえるかもしれないじゃないか!」


 こちらを見据えて瞬きもしない目には謎の眼力が備わり、口角に泡がわき、唾を飛ばして怒鳴る。

 狂気、得体のしれない、理解してはいけない感覚がリックたちを捕えていた。


「おじさん、ひらめいちゃったんだ」


 おっさんは無造作に、歩を進める。


「何回100個捧げてもダメなのも当然。だって二つ目だぜ? 聖石は200個必要なんだよ!」


 何回、恩恵チャレンジを行い聖石を捧げてきたのだろうか。

 それだけの聖石を、まっとうな手段だけで集められただろうか。


 リックとエルを助けたとき、権利として取得した聖石。それが奪うという手段を……

 いや、思い返せば、あの時のおっさんの態度は少し変だった。


 助けられ側だから見てこなかったが、エルに矢を射かけリックをなぶった男を、誰何すいかもせず奇襲一手で首を落とすというのは、殺意が高すぎやしないか?


 そういえばあのころから、試練の迷宮内での『事故』や『事件』が継続的に発生しだしたような気もする。

 おっさんの様子がどこかおかしくなっていった時期もも……


「ほら、聖石出せよ」


 リックは唇をかんだ。

 無造作で狂気を感じても、だが、おっさんにスキはない。


 リックはベルトポートから聖石の入った小袋を取り出そうとして、震えた手が、後ろ腰に結わえたままのナタに当たった。


「おぃ、ぁくしろよ! とっととよこせやコゾー!」


 息を整える。エルと、ハンナに目線を送る。

 二人とも真っ青な顔で、それでもそれぞれ、ぶんぶん丸二世、エスカリボルグ二世を構えている。


 リックは聖石の入った小袋を左手に掴むと、おっさんに向かって中身をぶちまけた。

 一瞬の間を置いて踏み込み、捻りを加えた半身で右腕とともに短槍をめいっぱい突き出す。


 空中に散る聖石の中に飛び込みんだリックの短槍は、しかし、おっさんの革鎧に真新しい引っかき傷をつけるだけでそらされてしまう。

 逆に、槍の穂先を半身にそらしながらおっさんの振るった剣の切っ先が、リックの腹をえぐる。


「グギィッ!!」

「ハッハハッ!」


 手放した短槍が地面に転がり、倒れるリックの木片うろこ鎧もどきが悲壮なメロディを奏でるが、それに負けじとおっさんの笑い声が響いた。


「リッ君!!」

「甘ぇんだよ。人間ってのはなあ、脇腹ちょっと斬るだけでまともに動けねぇ。すこぅし深く入って内臓に傷がついたら勝手に死ぬ。……まあ、もともと生かして返すつもりもなかったがな!」


 おっさんは短槍を蹴り飛ばした。

 動いたおっさんを挟んで、倒れたリックと、ハンナとエルとが分断される。


「手間かけさせやがる。おい女ぁ、聖石集め直せや!」

「まだぁ……」


 おっさんは、逆手に腰から抜き取ったナタを支えにして半身を起こすリックと、壁際のハンナとエルの両方に警戒を崩さず剣を構え直した。

 片目をつぶったリックは、もう一度エルとハンナに目をやった。


宵闇よいやみぃ! 俺はまだ生きてるぞ!」

「吠えるなクソガキャア!!」


 叫びに反応してリックにまなこを見開いたおっさんに対し、リックは、膝をついたままの姿勢で、その場でナタを地面に振り下ろした。

 その刹那、突如、世界に強烈な光が放たれた。


「ぎゃあああ!! 目が、目がああ!!!」


 聖石は、圧力によって発光する。

 圧力が強烈なら、光もまた強烈になる。


 【暗視】の恩恵の副作用ゆえに、おっさんの目は光に弱い。聖石が瞬時に崩壊する際の光は、おっさんの目を焼いた。


「リッ君の仇!」

「エルねえ、まだ死んでないって!」


 両目を覆うおっさんを、リックの意図を察してつぶっていた片目をひらいたエルのぶんぶん丸が強襲。

 続いてハンナのエスカリボルグが滅多打ちに振り下ろされ、最後に腹をおさえながら立ち上がったリックが、ナタでおっさんの鎖骨ごと首元を砕いた。



 ◇ ◇ ◇



 リックの腹の傷は、エルのために親御さんが持たせていた魔道具、【命の石】の癒しパワーで塞がれた。


 未回収扱いだった豪商子弟の剣、おっさんの小剣二本、組合員の証(タグ)、そして金と聖石などを回収。

 人型の魔物が出現するエリアで武器を残すようでは魔物狩り(ハンター)失格だが、割り切れない思いをリックはこぼした。


「やってることは俺も同じ、殺した相手の死体あさり」

「故意に死体をつくって奪うのと、正当防衛の権利としてもらうのとは違うよ」

「因果応報。兄さんは悪くありません」


 階段を上った間には、まだ集められた魔物がたまっている。

 松明たいまつの残り、時間の猶予はない。


 おっさんの聖石ランタンは、女子組の蹂躙中に原型を失っていた。

 はめ込まれていた聖石に強い圧がかかり明るく輝いているが、いつまでもつかはわからない。


「さすがにこれは、置いていこう」

「ここまで壊れちゃうと、ねえ」


 壊した当人が言うのだから間違いない。

 リックは、ぼろぼろの聖石ランタンを元の所有者の脇に置いた。


「消去法だ。地図は未完成だが、経験と勘を総動員してなるべく魔物と遭遇しないルートで第十層を目指す」

「戻れない以上、進むしかないかあ」


 途中、蝙蝠型の毒で幻覚に惑わされたと言うエルがリックにキスをせまったり、蛇型と幽霊型に無敵を誇る投げ網名人ハンナの襲名式がそそくさと執り行われたり、リックにこれといった活躍がなかったりしながら、三人は第十層にたどり着いた。


 まるで神殿のような石室になっている控えの間から聖杯の間へ。

 神々が恩恵を授ける場と考えれば、まさしく神殿であるのかもしれない。


 おっさん改め迷宮の殺人鬼から回収した分も合わせ、三人分300個を超える聖石が手元にあったため、それぞれ聖杯に捧げ、恩恵を得てしまう。

 技術・能力(スキル)が、その使い方とともに染み込んでいくという神秘体験を経て、三人は帰還の間の転送魔方陣で地上へ戻った。


 魔物狩り組合(ハンター・ギルド)にありのままを報告すると、『迷宮の殺人鬼』の異名がリックたちにかぶせられないとも限らない。


 確証のないグレーであれば裁かれないとはいえ、グレーだからこそ身の潔白も証明できない。

 死体を発見し、タグ他の重要な品だけ回収という路線で口裏を合わせた証言に、組合(ギルド)の、片腕のないおっさんは寂しそうに頷いた。


宵闇よいやみも、悪い奴じゃなかったんだ」

「俺たちも、助けられたことがありますから。……残念です」


 多分おそらく、真相に勘づいているのだろう。

 といって、リックたちの正当防衛も、双剣のおっさんの犯行も、真相を暴く確たる証拠がない。文字通りの迷宮入りなのである。



 ◇ ◇ ◇



 エルは【安息】という【治癒】の上位互換ともいえる恩恵を得た。

 地上に戻ったその時から、神殿の熱烈なオファーが続いている。


 ハンナの【聖域】は、防壁や結界を展開する魔法系だという。

 守り受けより、攻めで一撃必殺の【爆裂】がよかったなどと怖いことを言っているが、決めポーズを練習している際のにやけ顔からは、気に入っているんだろう。


 そして、アガルタ千年の歴史と伝統に従い、魔物狩り(ハンター)で成り上がることを志した少年リックは、魔物狩り(ハンター)がその名を冠するようになったゆえん、【狩人ハンター】の恩恵を得た。


「じゃあ、半年から一年くらいしたら一度戻るつもりで」

「ハンナちゃん、元気でね」

「兄さんもエルねえも、元気でね」


 『使える』恩恵を得たエルに、神殿からのラブコールだけでなく見合い話がぞろりと動き出したため、エルの母親の策、急いでリックと二人で旅に出て、ほとぼりが冷めるのを待つ戦術が選択された。

 この際、エルの親父さんの意向は脇に置いて、そのまま置き去りにする。


「ホライ家は、いつでもリックとエルを待ってるお!」

「水には気をつけろよ」

「ハンナのことはボクが責任をもって確保するから、心配しないでいいからね」

「定期的に連絡よろしく」


 ホライ勢のイワーク若様、従者マッケンジーに、ミク姫、そして助言者サクールト。

 ハンナと共に見送りにきてくれた彼らの前で、リックとエルは外の世界に足を踏み出した。


「愛の逃避行だねえ」

「俺たちの冒険はこれからだ!」





(了)

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