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試練の迷宮攻略記  作者: 凡鳥工房


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23/26

23.「次にリックは『なんだかなあ』と言う」

 魔物あふれで滅んだ五村の遺児たちは連合し、神々からの恩恵ギフトを求めて試練の迷宮に挑んでいた。

 しかし、お城のほうから「風聞(よろ)しからず」とされ、道半ばにして解散が決まる。


 彼らの衣食住はシラクー伯の恩情によって後援されてきた。

 最年長でも二十歳はたちに届かない年若といえど一家一党を率いる者たちである。その筋からのご指示に表立って逆らうことはできない。


 連合で一度は第十層へのチャレンジを行い、『あたり』『はずれ』はともかく、元五村それぞれに最低一人は恩恵を得ることはできた。


 連合を組んだ目的は最低限達成したと言えなくもない、そんなタイミング。

 感情の落としどころではあった。



 ◇ ◇ ◇



 五村連合の解散式が学舎併設寮の食堂でひっそりと行われた翌々日、城下で焼き物商を営むセト屋先代の子リークロウ(通称リック)は、妹のハンナおよび幼馴染のエルとともに、滅亡五村の一つホライ勢と面談していた。


 勝手知ったる学舎併設寮の応接室で、白湯さゆをすすってくつろぐ三人と、ホライ勢の四人とで、いわば身内の反省会だ。

 ホライ家の若様イワークとともに突入チームに参加していた従者ヨシュアリ家のマッケンジーは、口の端に達成感と諦観の混じった歪みを浮かべていた。


「突入チームの全員、生きて帰ったはいいけど、ボロボロにされたなあ」

「解散一区切りで改めて御機嫌伺いがてら探ってみたけど、護衛・案内(ガイド)を頼むと、そこまで被害は出ないようだお」


 その護衛・案内を頼む金がないから、連合を組んで数の力で押し切ったわけで。


「どうも、魔物を避けるタイミングやルートがあるっぽいお」

「腕のいい護衛・案内人の秘密、商売のタネってもんなんだろ」


 知識は金になる。

 試練の迷宮・第十層までの護衛・案内人を雇うと、最低でも一人銀貨2枚以上。なかには四分金貨以上の報酬を求める者もいるという。


「スキをついて魔物の索敵圏を走り抜けるみたいな?」

「振り切っちゃえば追ってこないし、あるかもね」


 犬型・蛇型など見かけの姿形すがたかたちはどうあれ、魔物は生物ではない。

 脳をはじめ耳や目などの器官はないくせに、どういう理屈か敵を察知して襲ってくる。


「俺たち、第八層・第九層の地図完成前に突入したしなあ」

「連合に批判的な噂が出始めて、時間的な猶予もなかったしね」


 政治的事業として行われる迷宮攻略でなら、数百人規模の組織立った作戦もありうるが、ことが試練の迷宮では、大人数での行動は目立つのだ。

 リックのような合力加勢も込みで、男子およそ三十人。いずれも少年たちとはいえ、傍目にはちょっとした武装集団に見えていただろう。


 迷宮内での獲物の奪い合いもあるわけで、他の迷宮探索者たちからの印象は悪い。

 豪商子弟グループが、連合に邪魔されるのが嫌で第十層に行くのを先送りしている、などという噂もあった。


護衛・案内(ガイド)生業なりわいにしている人たちからの横やりもあったのかも?」

「自力で到達しようなんて、商売の邪魔ですもんねえ」


 連合して神々の試練に挑むことは、何かしらのルールに違反したわけではない。


 『風聞(よろ)しからず』とは、良くない噂があるぞ、民衆の上に立つ武家として悪目立ちしないよう自制自重しろということだ。


「結局、内々に解散を指示されたけど、それはそれとして、頑張っているって評価もされてるお」

「アザークスの若様、恩恵も得たし、正式に家を継がせる冠親の打診が来てるそうだ。えらい喜んでた」


 彼らは、魔物あふれの際にたまたま城下に留学していたために生き残った、滅んだ村の遺児。

 親類縁者、頼れるあてがある者はともかく、基本的には後ろ盾のない少年少女たちだ。


 今回、連合を主導した最年長格のアザークス勢の若様が無事に成人、家督を継げば、残り四村も同様の見込みが立つ。


「継げる家があるだけマシなのか、お武家様は大変だなあというべきなのか」


 リックたち町人三人は、家を継げないから消去法で魔物狩り(ハンター)という道を選択したが、ホライ勢ほかは家を継ぐしかないから、武者働きと収入のために魔物狩り(ハンター)にならざるを得なかったわけで。


「次にリックは『なんだかなあ』と言う」

「なんだかなあ……ハッ!」


 イワークは、いたずらが成功した無邪気なわらわのような笑い声をあげた。


「次にリックは『俺の心を読んだ!? いやもしかして、』と言う」

「俺の心を読んだ!? いやもしかして、……ハァッ!?」



 ◇ ◇ ◇



 マッケンジーが席を立って窓際に向かった。もとより立ち控えていたサクールトも少し位置をかえ、廊下への扉の前に陣取る。

 リックの両脇で、エルとハンナは居住まいをただした。


「イワークの得た恩恵、【時戻ときもどり】だお」


 本人主観では、意識だけがシュっと数秒前に戻ってくるみたいな感じで「やり直せる」のだという。


「ほんの数秒が限界だお。三年前、あの頃のホライ村には戻れないんだお……」


 ホライ家の後継者、イワークの弱音であった。


 普段は一家一党を率いる者としてふるまっているが、彼とて12歳の少年にすぎない。失った故郷や両親、本来あるべきはずだった日々を思うこともある。


 イワークの【時戻】は、主観的には数秒の時を戻るというが、もしかしたら世界規模で時が巻き戻っているのかもしれない?

 いやしかし、いかに神々の力でも、世界を過去に戻すことは無理かもしれない。

 そもそも、未来を経験した意識が過去に戻ってきて、やり直して未来が変わったとしたら、ではさっきの未来はどこに行ってしまったのか。

 時とは、未来とは、過去とはいったいなんなのか。


 ハンナは思考のドツボにはまってわけがわからなくなり、考えることをやめた。


「若様の恩恵、私たちに教えていいの?」

「今回恩恵を得た元五村の男子、登城拝謁の呼び出しがかかってるお」


 その際に、隠し間に控えた【鑑定】や【看破】持ちから、情報を抜かれるのは想定内。

 配下の評価考課は領主として当然の行動だし、下っ端武家としても己の恩恵を上位者に「知られている」のは織り込み済みだという。


 当人が切り札を隠すのと、知るべき人が知っているは両立する。

 誰もが知っていては伏せ札失格だが、上司が知らなくては使いどころへの配置、能力の発揮のさせようがない。


「どうせ知られるのに、身内に隠すのは信義が立たんお」

「まあ、そういうことであれば」


 リックたちは改めて、がっつり身内認定されていることに気づいたが、これも今更の話だ。

 傘下臣下に下る、ホライ家に仕官するという最終決断だけはリックに預けているものの、着実に外堀を埋め終わっている感すらある。ハンナと向かいあうミク姫は穏やかにほほ笑んでおられる。


「そして、当初の目論見なら、恩恵を得た者が残りのメンツを順次ひっぱるという話だったけど、この【時戻】が戦闘に役立つとはとても言えないお」

「期待できるのは万一の保険だけど、兄上の意識だけが数秒前に戻っても、取り返せる状況になるかなあ」


 【時戻】は無制限に使えるわけではなく、意識を飛ばすたびに頭痛が出るという。


 七人の少年少女が知恵を絞ったが、保険以外だと、先ほどのいたずらのように、交渉事の席で相手の反応を見てからの後出しじゃんけんができるかもという程度。

 使いようによっては化けそうでもあり、さりとて有効活用するにはイワーク自身の知恵と機転が必須でもあり。


 『はずれ』くさい恩恵を得てしまったイワークにどう接すればよいのか決めかねて、リックはやや強引に話題を戻した。


「まあ、連合解散の圧力は予想外だったとはいえ、第十層までの地図と魔物の情報、戦闘経験も積めたし、俺たちも損はしてないからなあ」

「もとより、目論見通りにいくなどとは誰も考えていなかったわけだろ」

「それは、そうなんだよね」



 ◇ ◇ ◇



 翌日、休養日を予定していたリックとエルは、セト屋の店先で陳列物のツボを磨いていた。


「……使い道、ありそうでなさそうで」

「器の使い道は人が決めるものさ」


 客もなく、勘定台から動かない大兄おおあにが声だけで返した。

 ツボの話ではないのだが、ソレはソレ、アレがナニかなど説明してよいものではない。


「それで、聖石は今どのくらいだ?」

「100は超えた」

「100個集まってたんなら、便乗して第十層行ってくればよかったのに」


 話に混ざるハンナに大兄おおあにも頷く。

 連合チームでの第十層突入は、恩恵を得る大きなチャンスだったのは事実である。


「ほら、俺はまだホライ家に仕えるって決めたわけじゃないし、それに、第一陣はやっぱりお武家様たちのものだよなって」

「そこであえて自分の都合でガツッと食いつくのも甲斐性だと思うんだけどなあ」

「まー、リッ君はそういうのじゃないし」


「リック、売り時の見極めは大事だぞ」

「リッ君が『はずれ』恩恵だと暴落、『あたり』なら暴騰……」

「今が最高値かもね?」


 セト屋は商家である。エルの家も雑貨屋である。この場の全員、そろって無意識に商人である。


「それはそうと兄さん、ツボばかり磨いて飽きないの?」

「それがなー、なんだかこう、落ち着くんだなあ」


 ようやくリックもツボの魔力にとりつかれ……もとい魅力に目覚めたのかと大兄おおあには得心顔で頷くが、ハンナには別のご意見があるようだった。


「私がお出かけできるのはせいぜい週半分、午後だけだからね。試練の迷宮、行けるうちに行っとかないと」


 店の奥で帳面をめくりながら、大兄おおあにが手を振っている。

 休養日の予定であったが、こうなってはリックも立つしかない。エルもまた背伸びをしていた。



 ◇ ◇ ◇



 神殿前広場でミクとサクールトとも合流。

 第一層から第五層まで流しで云々と打ち合わせしながら迷宮に入ろうとしたところ、門番に止められた。


魔物狩り組合(ハンター・ギルド)の通達は知っているか?」

「いや」


 組合に顔を出してくるようになどと言われるのは、五人とも初めての経験である。

 リックたちは首をひねった。


「魔物の大規模接近で魔物狩り(ハンター)総動員なんて雰囲気じゃないし、なんでしょうね」

「エレベータ、何かあったぽいけど」


 迷宮入り口の隣が魔物狩り組合、その隣に第四層直通エレベータの建屋がある。

 そのエレベータ建屋前に魔物狩り(ハンター)たちが列をなして順番を待っていた。


 リックは、エレベータ待ちの列にいた双剣のおっさんと目が合った。宵闇よいやみの二つ名を持つベテラン魔物狩り(ハンター)だ。

 最近、酒臭かったり眼光だけが鋭かったり、良い印象とは遠ざかっているがリックとエルの恩人でもある。


「ちわっす」

「よう。おまえさんらも捜索か?」

「捜索?」


 双剣のおっさんは日よけの黒頭巾を目深にかぶり直し、ざっくりと通達の内容を教えてくれた。


「豪商の息子たちが、恩恵得るために第十層向かってから今日で足掛け三日目だ。予定ではその日のうちに戻ってくるはずだったからな、泡食った親が金出して捜索させてるのさ」

「それは……」


 リックは言葉を濁した。

 豪商子弟グループとリックたちとは、まったく知らない間柄ではない。


 迷宮内で行方不明三日目となると、状況はかなり悪いと言わざるを得ない。

 第七層あたりまでなら聖石集めのために潜る人もいるはずなのに、いまだ発見されていないというのがまずい。


 連合アタック時の経験では、第八層・第九層を狩場にする者はいない。

 リック自身、第十層を目指すのでなければ、関わりたくないフロアだ。


「第十層からなら神殿に転送される魔法陣があるはず……」


 第十層にたどり着いていれば、戻ってくることはできるはずなのだ。


 連合の武家連中のように、転送で戻ることで神殿に恩恵が筒抜けになることを嫌うなら自力で地上まで戻るしかないが、豪商子弟連中がそこまでする理由はない。

 出発日のうちに戻ってくる予定だったなら、帰還の間から神殿への転送込みでプランを立てていたはずだ。


「引率は腕利き二人。ほら、宿無し武家連中が解散させられたんで、これで邪魔者はいないって意気揚々と出発してったんだぜ」


 宿無し武家連中の一人、ホライ家のミク姫様がひきつった笑みを浮かべる。


「それでこの行列かあ」

「でもおじさん、単独ソロなんですよね?」


 豪商の出した捜索依頼だ。報酬が期待できるのだろう。

 しかしおっさんは、宵闇よいやみの二つ名の由来である【暗視】の恩恵の影響で単独ソロ活動を強いられているはず。試練の迷宮の下層は厳しいのではないか。


「ククク、コツがあるんだ。詳しくは言えないが、魔物の索敵圏を把握してしまえば……」

「そ、そうですか。無理はしないでくださいね」


 そげたほほ、目の下のクマと相まって、双剣のベテランの笑みは凄みを放った。


 いつの間にかリックの背後にまわったハンナが袖を引き、それを機に、五人は双剣のおっさんと別れた。

 目と耳にこびりつく恩人の嫌な笑みにリックの心はざわついていた。





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