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試練の迷宮攻略記  作者: 凡鳥工房


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20/26

20.「やっぱり数は力だとわかるね」

 学舎併設寮の応接室にて、リックは白湯さゆをすすった。


 ホライ勢を含む滅亡村落の遺児連合は、試練の迷宮チャレンジにて小人数に先行して恩恵ギフトを得させるという方針を決定した。

 先行者が戦闘に役立つ『あたり』恩恵を得られれば、以後の聖石集めも第十層アタックも飛躍的に楽になるハズという目論見である。


「戦闘に役立つ恩恵でなかった場合、目論見自体が崩れますけどね」

「リスクはあるが、メリットも事実だろ」


 確率は数の力でカバーする。

 恩恵の先行獲得者が各村一人として、五村で五人の全員が『はずれ』とは考えにくい。


「信じきるほどお人好しにはなれないが、さりとて不信感丸出しで和を乱すのもな」

「逆に、五村連合が機能しているうちに恩恵獲得を目指すべきかも?」

「長引くと、アザークスが抜けるからな」


 彼らが学舎併設寮で寝起きしているのは、シラクー伯の恩情である。

 学ぶべきことを学び成人すれば、あとは自力で身を立てていくしかない。

 そのための恩恵ギフトであり、魔物狩り(ハンター)なのだ。


 連合最年長格のアザークス勢は長くてもあと二年、もしかすると今年いっぱいが成人までの猶予期間モラトリアムの限度かもしれず、成人後も同じ熱意で連合に関与し続ける保証はない。


 むしろ、正式に家を継いだ後は連合への関与を減らす、ないし、関与できなくなっていくと見るほうが妥当である。

 裏読みをすれば、連合による恩恵獲得協力体制は、単独では第十層に届かない、間に合わないと判断したアザークス勢の都合とも考えられる。


「この秋冬の半年が勝負か?」

「そうだな。俺たちホライ勢としても『あたり』恩恵を最低一人は確保したいだろ」


「それで、第一陣はいつになるんです? 護衛のあては?」

「護衛のあてはないお。正確には、謝礼金が準備できないんだお」


 またしても、金である。

 社会の血液、世の潤滑油。言葉以上の誠意。金である。


「だから、連合でチームを組んでの第十層アタックなのか」

「だな。でもって、第五層は地図があるが、第六層以下は情報が少ない」


 試練の迷宮は下層になればなるほど聖石を得やすくなるが、同時に出現する魔物の脅威度も増す。

 金にならないことも含め、とあるベテラン魔物狩り(ハンター)曰く「とにかくいやらしい」のだそうだ。


「マッピング含めた情報収集からか」

「第十層までのルート探す準備期間は、各村最低二人出してチーム編成だろ」


 五村で二人ずつ出向で十人チームとなる。


 試練の迷宮の浅層は通路メインで、二人以上で並んで戦える場所自体が少ないが、深層となると今度は玄室が増え、数人で戦線をつくることができるようになる。

 それでも1チーム十人というのは多いが、交流目的含みかつ不測の事態に備えた予備戦力とみれば納得できる範囲ではある。


 なお、チーム探索中に得た聖石は頭割り。


「頭割りだと、非戦闘系のメンツで水増しされそうですね。具体的には僕みたいなので」

「おめーはそれなりにやれるだろが」


 正面戦闘だとともかく、搦め手込みのサクールトはそれなりに戦える。

 イワークとマッケンジーにしても、戦い方としては同系統のミク姫の護衛というポジションにサクールトを置いておくことに不満はない。


「迷宮内での露営ビバークも予定しているだろ。五~六層なら日帰りもできるが、七層以下となると移動だけでも時間を食う」

「十層まで直通のエレベータがあればなあ」

「理論上は建造できるらしいよ」


 試練の迷宮は、地上と同一・連続するの空間構造だろうといわれている。

 少なくとも迷宮内の地図に整合性が取れなかったり、空間がゆがんでいるとか容積率がおかしいとか、そういった迷宮特有の不思議空間は確認されていない。


「できるとやれるはちょっと違うお」


 仮に造ったとして、じゃあどれだけ利用されるのか、言い換えれば運賃として回収できるのかと。

 第四層直通エレベータ利用には、一人頭白銅貨1枚を払うが、そのほぼすべてが維持費に消えていくという。


「誰もが考えるけど実際にやっていない事って、やらない理由があるんだよね」



 ◇ ◇ ◇



 滅亡五村連合それぞれが人を出して編成した特別チーム、総勢十三人。

 なし崩しでホライ勢の一員として参加することになったリックも、マッケンジーとともに出向している。


「おい、ホライのリックか。次がお前たちの班で前線な」

「うぃーっす」


 十三人を二~三人ずつの小班に再編成し、数の暴力で第五層まで最短路で一気に駆け抜けた。

 今回は第五層のマッピングおよび魔物の情報、そしてチームを組むメンツとの交流を主眼にした、比較的(ぬる)い探索となっている。


 リックにとっては初めてとなる試練の迷宮・第五層は、分岐し合流し行き止まる通路が縦横無尽に走り、玄室は少ない。

 印象としては第四層までとさほど変わったところはない。


 新顔の魔物は蝙蝠型。

 初の飛行タイプであり、天井付近を飛び回られると手が出せない。


 また第一層でおなじみの芋虫型も複数出現し、強さはともかくこれが意外とバカにできない相手となった。


「強くはないんだけどなあ」

「複数ってのが面倒だな。声かけあっていこうぜ」

「駄弁ってないで助けろ! 小剣じゃ蝙蝠に届かん!」


 誤射誤爆が怖いため、試練の迷宮内では飛び道具自粛という紳士ルールがあるが、一度連合チームを経験したサクールトは、細縄で括って射程を制限した石を投射する戦法を解禁したという。

 イワークの弓矢は「当たるかどうか半々以下」とのことで、文字通りの自粛。


「目を離すな。すばしっこいが、カウンターで落とせる」

「んで、注意が蝙蝠にいってるのをカバーするのが仲間の役割ってことだな」

「んだんだ」

「だから助けろってば!」


 初めての場所、初めての敵、慣れないメンツとの連携。

 リックの入った小班の一人は若干パニックになってしまっているようだった。


 ローテーションで何回か戦闘をしているうちに、第五層のマッピングは終わった。

 他の日でも同様、別の人員編成をしたチームそれぞれが一日でマッピングを終えているという。



 ◇ ◇ ◇



「反省会だーッ」

「「「うぃーっす」」」


 学舎併設寮に帰還し、乗っ取った一室をチーム会議室としてディスカッションが開催される。


 議長は、本日のチーム・リーダーも務めたアザークスの若様である。

 少年というより青年。夏の間のアルバイトでこさえた日焼けがにきびを隠し、精悍な顔立ちを引き締めている。


「やっぱ、初めての相手と組むのは難しいな」

「そのへん互いに把握するのも目的だし、今はしゃーないだろ」


 あーだこうだと、基本的には顔を知っている同世代の男子であり目的意識もおおむね一致しているため、特にギスギスするようなこともなく反省会は進行する。


「今回は顔合わせ優先だったが、今後はサポートも込みで本気マジアタックに切り替えてくんだろ?」

露営ビバーク込みだとサポートなしじゃ無理だ。食料と水運びながら戦うとか勘弁」

「第五層は、蝙蝠型が飛ぶのが厄介程度で済んだが、さらに潜ると一撃が怖い魔物もいるらしいぞ」


 夏のアルバイトの時と同様、アタックチームは男子のみで編成されている。

 その間、女子組はどうしているかが議題にもなったが、結論は出ていない。

 浅層なら女子のみでもいけるという意見もあったが、イワークが妹ミクを心配する兄の姿を打ち出して強硬に反対したため保留となっている。


 戦力ならば、それこそ第四層タイマンできる者がミク姫やエルやハンナのほかにもおり、十分に賄える。


 しかし、女子だけだと「おどし」が足りない。

 試練の迷宮チャレンジャーの中には、お行儀よろしくない者もいるでしょという話なのだ。


 たとえ女子組に不届き者を返り討ちできる戦力があっても、ぱっと見でわからなければ舐められる。

 女の子に無理をさせるのも危険な目に合わせるのも本意ではないのだと、弁を奮ったイワークへの評価は悪くはない。


「女子組って、それ若様の嫁候補よ。女子おなごを大切にするアピールで好印象稼いで悪いことはないでしょ」

「サクールトぉ、そなたも悪よのう」


 そんな主従のやり取りはさておき、アタックチームもこまごまとしたすり合わせが発生する。


「次回はまたメンツが入れ替わり、それぞれ別の人と組むことになると思うが、今日の反省を活かして早め早めにアジャストしてほしい」

「「「うぃーっす」」」



 ◇ ◇ ◇



 連合における女子組のみでの迷宮アタックは保留、アタックチームへの女子メンバの加入も見送られる方向だ。


 しかし、リックとハンナとエルはもともと独立したチームである。

 連合としての活動のない日に、自チームとして迷宮探索を行っても何もおかしいことはない。

 なぜかホライ家のミク姫とサクールトも同行しているが、友好の範囲であり何もおかしいことはない。


 そういうわけでリックとゆかいな仲間たちはそれぞれの獲物を掲げ、試練の迷宮・第五層を目指していた。


「数は力だねえ」

「前衛が俺一人なんで、そこんとこ勘案してくれよ」


 リック以外の全員、搦め手からの撲殺刺殺を戦術的方針として採用している。


 戦力的には十分だが、だからといってリックのような前衛が不要というわけではない。

 いざというときに、身体をはってでも魔物を止めるというその姿勢が、サクールトいわくの「おどし」の裏付けでもあるのだ。


 第四層から第五層への階段を目指す途中、ランタンを掲げたグループとかち合った。

 やってきた方向からすると、直通エレベータで降りてきたものと思われる。


「うぃーっす」

「おーつかれさーん。……おんや、見た顔じゃね?」

「そっちはクリノリンのエルちゃんと、セト屋のハンナちゃん、リークロウ君だったっけ。ほかの二人は……ごめん、新人さん?」


 どれも質のよいものと一目でわかる品々を装備した、豪商子弟たちのグループである。

 リックたちと日常での関わりはないが、実家込みの名前で知っているぞのアピールが繰り出された。


「俺ら今日は第五層流し~。もしかしてカブっちゃう?」

「第六層は毒がうざいし、第四層じゃ物足りないうえ『事故』も怖いだろ?」


 リックたちの名前だけでなく、エルの『事故』も知っているのだろう。

 むろん、他の『事故』や『事件』と同様、噂は広まるもの。知っていてもおかしくはない。


「そっちは護衛頼んで第十層行くって聞いてるが?」

「日程調整ってやつさ。一流の護衛を頼んだからね」


「羨ましいこって」

ひがむなよ。これも親心ってやつなのさ」


 親が子に最上の護衛をつけようというのはわかる話ではある。

 それができるだけの財力を持っている金持ちとは、リスクを取らないでいい身分なのだ。


「俺だって、親のすねかじりで終わる気はない」

「何やっても親の七光りって思われるのもしゃくだしな」


 豪商子弟の若者たちは笑いあう。

 多分きっと、若人らしい素直な野心、覇気の表れなのだろう。


 失礼にならない程度に挨拶を交わし別れたが、リックは気疲れしていた。


 青年たちの素直な覇気や自信、そして家を継げないから魔物狩り(ハンター)になるという立場には共感するし、同じ試練の迷宮チャレンジャーという意識もある。

 だが、彼らの境遇や装備の良さに嫉妬する自分がいて、そんな自分が卑しく思えていやになる。


 少し間をあけるために第四層で時間をつぶしてから第五層に向かう頃になっても、リックのもやもやした気持ちは晴れていなかった。





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