アデスの預言
人は我らを数多の名で呼ぶ。「カミ」、あるいは「タォ」、あるいは「ヤハウェ」・・・。そして「アデス」・・・。我らは数多の異界を巡り、数多の物語を観てきた。数多の戦、数多の命、数多の絆・・・。小さく、儚く、弱く、そして愚かなモノの紡ぐ幾千もの物語を・・・。その全てが愛おしく、忘れがたい。どれほど醜く、哀しい物語であったとしても・・・。時に我らは、愛おしさのあまり物語に触れずにはいられなくなる。眠る童の頬に、伏した兵の手に・・・。その度に、我らは数多の異界を喪った・・・。またその度に、我らは数多の異界に遇った・・・。我らはアデス・・・数多の物語を愛し、慈しむ漂浪の霊・・・。愛しきモノよ、其方らに、再び我らが触れることを許してほしい・・・。
アデスとは、異世界、すなわち別の宇宙で生まれた意思を持った存在だ。生物と化学物質の何れかであり、また同時に何れでもない。彼らは「物語」に出会うため、異世界を巡り、同時に十の十乗の十乗の・・・異世界を消している。(中略)彼等は時に我々人類に様々な形で干渉する。それを認知できることもあれば、できないこともある。そして彼らは、人類と共に物語を紡ごうとする。電子頭脳として、厄災として、物質として・・・。そして一人の人間として・・・。もしかしたら、今これを書いている私、あるいはこれを読んでいる何者かが、アデスなのかもしれない・・・。彼らは常に、物語の近くにある・・・。
(抜粋:シン・ドゥバッド著『異世界より』セントラル出版)