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9 【カルト宗教】メガミン、ようやく崇められる!?


 悪徳商人の露店を訪れた翌日、俺とメガミンは旅人風の装いに着替え、広場に立った。

 そして日も高くなり始めた頃、俺たちは作戦を決行する。


「――さあ皆さまお初にお目にかかります! “奇跡の手”ことメガミンが、この町へやって参りました!」


 俺が声を張り上げると、往来を行く人々が一斉にこちらへ振り返る。

 彼らは、なんだなんだ? と眉をひそめ、その場で足を止めた。


「彼女こそ遠いかの地からやってきた女神の生まれ変わり! 人の世の不条理を一手に担うため降臨された、とても慈悲深き方なのです!」


「そうです!」


 メガミンが元女神としての片鱗なんて微塵も感じさせないほど、軽い口調で胸を張る。

 それを見て、道行く人々は露骨に顔をしかめた。


 ああ、なんだ、カルト宗教か…… 

 そういう落胆を含んだ表情である。

 そして人々が再び歩き出そうとしたのを見計らって、俺は再び声を張り上げるのだ。


「ええ、もちろん皆さんすぐには信じられないと思います! だからこそ今ここで実証いたしましょう!」


 俺はメガミンの右手首を捕まえ、そのまま高くかざす。


「驚くなかれ! 彼女の“奇跡の手”は、触れた人間の病をたちどころに吸い取ってしまうのです!」


 一度は興味を失った人々の内何人かが、再びこちらへ振り向いた。

 その一方で、当の本人が「そうなんですか?」などときょとんとした顔で言ってきやがったので、俺は慌ててメガミンの口をふさぐ。

 アドリブも利かねえのかこの元女神は!

 心の中だけでそう怒鳴りつけてやる、その時だった。


「――触れただけで病気を治す、だって?」


 一人の男が、こちらへ歩み寄ってきたではないか。


 筋骨隆々として立派な髭を生やした、いかにも“男の中の男”といった感じの人物だ。

 あまりの迫力にその場から逃げ出そうとするメガミンをすかさず確保して、俺は男に対しにっこりと微笑んで応える。


「ええ、正確には治す、ではなく、彼女が病の元を吸い取ってその苦しみを代わりに請け負うのですが」


「なんだぁ、随分とうさんくせえなぁ?」


 男は鋭い眼光でぎろりとこちらを睨みつけてくる。

 典型的な“「俺がインチキを暴いてやる!」と意気込んで占い師の下へ向かうイキった男”という感じである。

 その表情から窺えるのは100%の疑心であり、その目からは、たとえ少しのボロでも見逃さない、という強い意思を感じる。


 だが、初めにこういう人間に当たったのは運がいい。

 なんせこの男が喧嘩を売りに来てくれたおかげで、道行く人々が不安と期待の入り混じったような目でこちらを眺めている。

 ならば――利用するしかあるまい。


「よければ、試してみますか?」


「はっ、俺がか?」


 男は鼻で笑うと、さながらボディビルダーのようにポーズをとる。

 はちきれんばかりの筋肉、とはこのことだろう。

 俺の陰に隠れて、メガミンが小さく「ひぃぃ……」と悲鳴をあげている。


「――大工仕事で鍛えたこの身体、病気はおろか風邪だって引いたことはねえ」


「へぇそうなんですか」


 すかさず、観察眼。



----------------------------------------------------------------


名前 :ブルーノ

職業 :建築士

状態 :虫歯

LV :7

HP :44/44

MP :6/6

攻撃力:28

防御力:29

魔法力:11

素早さ:19


アクティブスキル


【観察眼(石材)・中級】


パッシブスキル


【目測・中級】

【不屈・初級】

【疲労軽減・小】


称号


【大工の棟梁】

【甘党】


----------------------------------------------------------------



「伊達にうん十年も力仕事やってるわけじゃねえからな、この洗練された筋肉が……」


 ブルーノが気持ちよく自分語りをしている隙を見計らって、俺はメガミンに耳打ちをする。

 その内容は、むろんスキルで読み取ったブルーノのステータスについてだ。

 すると、メガミンが声をあげる。


「――ええっ!? こんなにコワモテなのに甘党なんですか!? しかも甘党が高じて虫歯に……! いやぁ、人は見かけによりませんねぇ……」


「はっ?」


 ブルーノは先ほどまでのコワモテから一転、実に無防備な間抜け顔を晒した。

 その反応から見るに、きっと誰にも打ち明けたことのない秘密だったのだろう。

 彼は、しばらくして我に返ったらしく、こちらへ身を乗り出してきた。


「な、なんで知ってる!?」


「ああ、それはリクさんの観察眼で……むぐぅっ!?」


「――女神様はなんでも知っているんですよ」


 余計なことを口走ろうとしたメガミンの口を例によって強引に塞いで、代わりに俺が答える。

 ブルーノは唖然とし、そして遠巻きにこちらを観察していた通行人たちがざわめいた。


「……そ、そうだよ、俺は確かに甘いもんが好きだ。でも俺みてぇな野郎が甘党で、挙句虫歯までこじらせたってなりゃしまらねえと思って、誰にも言ってなかったんだが……」


「よろしければ、治しましょうか?」


 俺が提案すると、男はただでさえぎょろりと剥いたダルマのような目を、更に見開いた。


「ほ、本当か!?」


「ええ、女神さまに不可能はありませんので」


「これだぞ!? もう手も付けられねえぐらいボロボロだぞ!?」


 獅子舞よろしく、男はがぁっと口を開けて虫歯の箇所を見せつけてくる。

 右奥歯……なるほど、素人目に見てもかなりひどい虫歯だ。

 これぐらいひどいものとなれば歯を抜くだけで済めばいい方で、このままいくと神経を伝って全身に影響を及ぼし、最悪死に至る可能性すらある。


 しかし、


「――問題ありません、では女神様、お願いします」


「? はあい、お願いされます?」


 俺はメガミンの手を取って、彼の前に差し出す。


「彼女の手に、自らの手を重ねてください」


「お、俺が悪いのは歯なんだぞ?」


「ええ、大丈夫です」


 なんだか拍子抜けしたような調子のブルーノであるが、まもなくして彼はメガミンの手に自らの手を重ねた。

 そして俺は二人の手の繋ぎ目に、自らの手を添える。

 これを見て、徐々に通行人たちがこちらへ集まり始めた。


 準備はできた。

 あとは実行に移すだけだ。


 メガミンがこちらを見つめている。

 「これから何が始まるんですか?」とでも言いたげな表情だ。

 ――言い忘れていたが、俺たちが今日、ここで行うことの詳細については、一切メガミンに伝えていない。

 ただ、当日は俺の言う通りに口裏を合わせてくれればバカスカ動画の再生数が稼げるぞ、と教えただけだ。


 何故そんなことをしたのか、その理由は明白である。

 これをアイツに伝えようものなら、アイツは早々に逃げ出していただろうから、だ。


「では、女神様、お願いします――」


 と言いつつ、俺は何気なく添えた手で“ステータス強奪”。

 ブルーノのステータスから二回に分けて、“虫”と“歯”の二文字を奪い取る。

 そして続いて“ステータス付与”。

 この際俺の手が淡く光を放つが、三人の手がこれだけ密着しているのだ、彼らからするとメガミンの手が光を放っているように見えるのだろう。「おおっ!」と声があがった。

 さて、やがて光も収まり、作業は完了である。


「はい、終わりました」


 俺はぱっと手を離す。

 「え? これだけ?」という声が周りから聞こえてきた気もするが、そう、これだけなのだ。

 そしてその成果を最も早く実感したのは――ブルーノであった。


「うおおおおおおおおおおおお!?!?」


 突然、ブルーノが雄牛さながらの咆哮をあげる。

 これには全員が肩をびくりと震わせた。

 よもや目の前の二人組がインチキだと知り、頭に血が上ってしまったのか?

 ――否、その逆である。


「痛みがねえ!! というかそもそも虫歯の跡が――無くなってやがる!?」


 ブルーノが再び獅子舞のごとく大口を開ける。

 そして集まった人間たちが代わり代わりにブルーノの口内を覗き、悲鳴にも似た声を上げた。

 そりゃあ驚きもするだろう。

 たったさっきまで焦土のようだった彼の右奥歯が、本来の傷一つない、真っ白な姿に戻っているのだから。


 そしてお察しの通り、その奇跡の一方で割りを食っているのはメガミンである。


「おぎゃああああああああああああ!!!?!?!」


 突然、メガミンが凄まじい悲鳴をあげて崩れ落ちた。

 地べたに這いつくばって、さながら死にかけのミミズのようにのたうち回っている。


「お、おいっ! あれを見ろ!!」


 野次馬の中の誰かが、メガミンを指して言った。

 見ると、メガミンが大きく開いた口のその内側――右奥歯が焦土と化しているではないか。

 ……まぁ、俺がやったんだけども。


「きっ、奇跡だ!!」


「本物だ!!」


「女神の生まれ変わりだ!!」


 ブルーノを含めた群衆が、堰を切ったようにメガミンに賞賛を送る。

 中にはメガミンの身を挺した献身に心を打たれ、涙を流す者もいる。

 しかし、当の本人は死にかけだ。

 ……本当に単純なヤツである。


「め、女神様!! アンタ本当に女神さまの生まれ変わりだ!! ありがとう、ありがとう……!!」


 ブルーノがメガミンの手を握りしめて号泣している。

 メガミンも泣いている。というか気を失いかけている。

 ……仕様のないやつだ。


 俺はすでに使い物にならなくなりつつあるメガミンの代わりに、大きな声で宣言した。


「――さあ! 女神様はたいへん慈悲深きお方です! 病に苛まれている者たちは遠慮せず申し出てください! 女神様は全てを受け容れます!」


 その直後、観衆の盛り上がりはピークに達する。

 割れんばかりの拍手、割れんばかりの歓声。

 そのどれもが、メガミンがあれだけ渇望していたものである。


 まぁ、当の本人はこの世の終わりみたいな表情を浮かべていたわけだけど。


[【衝撃!】女神的美少女と無職がチート福袋を開封してみたら驚くべき結果に!?]


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